ああ……
こんなトコでアンタと会うだなんて
会いたくて
会いたくない
会いたくないけれども
とても会いたかった
スモーカー……
昔
愛した
アタシの男……
headache 3
「……スモー…カー…」
「………なのか?」
そう交わされた、三年振りの恋人同士の会話。
でもこの状況は感動の再会には酷く似合わなく。
「スモーカー……スモーカー!」
掴まれていない手でスモーカーに向かって手を伸ばせば。
酷く苛立ったようにエースがそれを阻止する。
「なっ…!」
「何?お前海軍の大佐と知り合いな訳?」
「アンタには関係ないでしょ!? イイから離してよ!」
「いや、ちゃんって云うんだ。イイ名前だねえ」
「ってか、ヒトの話、聞けっつってんだろ!?」
「!!」
その言い合いの最中に飛び込んでくる、気の立ったスモーカーの声。
呼ばれて、そちらへ顔を向け。
一も二も無く、早くその胸に飛び込みたいのに。
なのに目の前の男は自分を離す気は皆無で。
「いやっ…助けて、スモーカー!!」
は身を捩りながらスモーカーに助けを求める。
ソレに目を見張ったのはエースだけでなく、助けを求められたスモーカーも一緒で。
過去、と過ごした時の中で『助け』を求められたのなんて、只の一度も無く。
スモーカーが勝手に手を伸ばした事なら数知れずあったのに。
意志の強い、言葉が悪ければ『強情』な彼女がこんな言葉を吐くだなんて。
何かが彼女を悩ませている
何かがあっては弱っている
直ぐに思い出される過去の。
縋るクセに守って欲しい、助けて欲しいとは決して言わなかった。
その言葉を言えなかったが、『今』、『自分に』向けて助けを求めている。
それだけでスモーカーは身体中が熱くなるのを感じた。
「……オイ、ポートガス。を離せ」
何時もよりも数段低くなっているスモーカーの声に、傍に居た海兵達が彼を振り返る。
それはエースも然り。
こんなスモーカーは只に一度も見た事が無かったのだから。
「……イヤだね」
「何だと?」
「イヤだって言ってんの、俺はを気に入った。だから俺のモノにする」
「……フザケタ事抜かしてんじゃねえぞ?」
スモーカーの額に青筋が浮かんでいく。
海兵達はそんな怒れる彼の気を肌で感じたのか、脂汗を掻きながら一歩も動けない。
「別にフザケちゃいないさ、返って大真面目な位だぜ?」
「はてめえのモンにはならねえ、ソレは俺の女だ」
「……(イヤ、それも違うんだけど…)」
の心の中の突っ込みも、一向に気が付かないのか。
男二人は相手の隙を狙って睨み合いを続けている。
そして、先に攻撃をしかけたのはスモーカーの方で。
何時もの彼ならこんな無謀な事はしない筈なのに。
よっぽどエースの腕の中にが居るのが許せなかったのか。
煙となったスモーカーの腕が二人に向かって伸びる。
「ちっ…」
軽く、舌打ちをしてエースはを抱えて走り出す。
「やっ、何する…」
「俺はアンタが誰のモノでも平気だぜ?」
「え?」
「海軍大佐の女?そんなのは俺には関係ねえ、ヒトのモンだってんなら余計に奪いたくなるってもんだ!」
ナンなのコイツ!!
いい加減離してよ!
そう思って口を開きかけた瞬間。
スモーカーの煙が寸での処にまで迫ってきていて。
咄嗟にエースは腕を伸ばして炎を出す。
幾ら抱えていない腕とは云え、彼の作り出す炎はには熱過ぎて。
「あっつ…熱い、熱いってば!!」
「へっ!?」
気を取られたエースは抱えていた腕の力を緩めてしまい。
それを良い事には暴れて暴れて。
「きゃっ…!」
彼女は振り落とされてしまう。
エースが踵を返すよりも先に。
が落下するよりも早く。
彼女の身体はスモーカーによって抱き溜められた。
己を抱き締める太い腕が
己を抱き留めた広くて厚い胸板が
頭の中に居座る男とは違うその感触が
トレードマークになった愛用の葉巻の香りが
昔、自分にまで染み付いたその匂いが
全てが懐かしいパーツ。
「スモー…カー?…」
「ったく、危ねえヤツだな」
苦笑いを浮かべた、間近にある彼の顔。
さっき迄、銜えていた葉巻の所為でより強く香る彼の匂い。
「昔と全然変わらねえんだな、お前は…」
「スモーカー…スモーカー!」
は抱き締めるスモーカーの首に腕を巻き付け、唇を重ねた。
角度を変えて
舌を差し込んで
それを何度も何度も繰り返し
縋って縋って…
溺れる者が藁を掴んだようなソレにスモーカーは惜しげも無く応えてやる。
突然、目の前で繰り広げられたラブシーン。
呆然としたのはエースと追って来た海兵達。
先程まではあんなにイヤがっていた女が、相手が違うとこうも違うか、と云う風に違う男に縋り付いて。
エースは悔しさにギリッ、と奥歯を噛み締めた。
海兵達は己等の上司が、今迄女っ気の一つも無かった上司が繰り広げたラブシーンにフリーズしてしまう。
「………はぁっ…」
官能的に響く、の吐息を最後に二人の長い口付けは取り敢えず終了して。
スモーカーはを抱えた儘、立ち上がる。
そして自分を睨みつけるエースを見てふん、と鼻で笑った。
あからさまに嫉妬を表すエースをバカにしたその笑みに、エースはカチンときたが、ふと、表情を無くす。
「今はお前の女かもしれねえ。だがな、覚えていろよ。」
その女は絶対に俺のモンにする!!
それこそ火花が散りそうな位に睨み合って。
エースは踵を返すと去って行く。
それを黙って聞いていたスモーカーだが。
「オイ!! 何やってんだ、早くポートガスを追わねえか!!」
そう海兵達に怒鳴る。
ボケていた彼等もスモーカーの声にハッ、と我に返り慌ててエースの後を追い始めた。
そして残る海兵にの身を任せて。
「俺の部屋に連れて行け!絶対に外に出すなよ!!」
「は…はっ!!」
「はい?」
その海兵にそんな命令を残して、彼、スモーカーもエースの後を追って行ってしまう。
ま、『俺の部屋に連れて行け』迄は納得しとくけど……
どうして『絶対に外に出すな』なの?
憮然と口を尖らすは小さくなっていくスモーカーの背中を目で追っていた。
角を曲がれば彼の姿はもう見えなくなって。
さっきまで
抱いてもらってキスをして
抱き締めてもらっていたのに……
一度知ってしまった温かさ、温もりは
離れてしまうと
どうしてこんなに
寂しさを感じさせてくれるのだろうか……
切な気にスモーカーの去って行った道を眺め続けるに、残された二人の海兵は言葉すら掛けられなかった。
その表情が
その瞳が
去って行った男に気持ちを持って行かれた女の姿態が
余りにも悲しくて
切なくて
淋しそうで
寂しそうで……
先程繰り広げられた上官のラブシーンの相手と云うのを除いても、海兵達の男心をくすぐるのには充分で。
しかし、上官が『自分の女』だと言い切った彼女に手を出す事など到底出来る筈もなく。
彼等は申し訳なさそうにへと声を掛けた。
「あ……あのう…」
それでも意識を持って行かれているは気が付かなくて。
「す、すいません」
「……あっ、はい」
二度目に声を掛けて、やっとコチラへ振り向いてもらえた。
「海軍のスモーカー大佐のお部屋にご案内します」
「付いて来て下さい」
「ああ、分かりました」
ニコリと笑ったに若い海軍の男達は少々赤面して。
そして彼女を連れて基地へ帰るべく、歩き出した。
一度、スモーカーの去って行った道を振り返りながら……