久しぶりに会った
昔、愛した男……
交わした口付けも
視線も
腕の感触も
胸の温かさも
ムカツク位に
何もかも……
変わってはいなかった
headache 4
スモーカーの部下の男達に連れられ、は大佐部屋へと案内されていた。
「コチラでお待ち下さい。時期に帰られると思いますので」
「はい、ご苦労様でした」
「それと、一応大佐命令なので……」
「ああ、どうぞ。外で見張ってるんでしょ?」
「はい、すいません」
「アナタが謝る事じゃないわ、文句ならスモーカーに言うから」
は曖昧な笑みを送って部屋の扉を閉めた。
スモーカー個人の部屋。
海軍大佐まで上ると与えられる、特別な広い部屋。
ソコは本当に急な問題や事件が起こらない限り、誰も訪れる事の無い彼のテリトリー。
思った通り、ソコの空間には彼の葉巻の匂いが充満していて。
はクスリ、と苦笑いをすると窓を開けた。
その昔「その匂いがイヤだ」と全部の窓を全開にした思い出が甦り、懐かしい思いに駆られる。
でもどんなにイヤがってもスモーカーは一向に気にする素振りも見せず。
逆にその匂いをどんどんアタシに染み付かせる。
最初こそ鼻につく、ソレがイヤだったのに。
何時の間にやら馴らされた自分が居て。
それこそ信じらんない事に、その匂いが愛しいと思えた自分が居て。
そんな懐かしい
過去の
甘い
思い出……
「……あー…、ったく、らしくないねぇ…」
苦い苦い笑みを浮かべて、は身に纏った服を脱ぎ始める。
ハラリ、ハラリ、と上から順番に脱ぎ散らかして。
バス・ルームと思しき扉を全裸になってから開けた。
がバス・ルームに消えてから30分強。
やっとの事でスモーカーは海軍基地に帰ってきていた。
彼が無傷なのは何時もの事なれど、獲物を捕獲していないのは珍しくて。
『ポートガス・D・エースでは仕方が無い』とは、報告した上のお言葉で。
しかし彼自身はを自分のモノにしたがっているエースをどうしても捕まえておきたかったのだ。
悪い芽は早めに摘んでおくに限る。
これはスモーカーの信条。
それは、何事にも当てはまる事柄だったが、今回ばかりは大当たりで。
あんな輩が簡単に物事を諦める。
そんな事は有り得ない。
第一、自分に向かって宣言したのだ。
『その女は絶対にモノにする』と。
その言葉を思い出し、一人で更に機嫌を悪くする。
この後の対策やら警備やらの指示を伺っていた下っ端はいい迷惑で。
普段より二割り増し、否、三割増しの青筋を立てるスモーカーにビクビクしながらも、仕事は仕事だと己に言い聞かせてオッカナビックリ対策を聞く。
そんな部下に、ようやく自分が余裕を無くしていた事に気付いたスモーカーは一つ溜息を付いた。
そして的確な指示を出し、『何時ものように部屋にいるから』と言い残し、自分の部屋へと引き上げて行った。
敬礼をしながら見送る海兵は、やっと一心地付く事が出来た瞬間だった。
三年振りに出会えた
昔、愛した女
多少、大人びて、色っぽくなったが。
あの頃と変わらぬ視線。
そして切羽詰ったような三年振りのキス。
会った瞬間から彼女が何かに囚われている事は分かったが。
それ以上に自分の気持ちに驚いた。
久しぶりに出会えたと思ったら、は他の男に抱かれていた。
たったそれだけの事なのに、腹の底から湧いて出てくるかのようなドス黒い感情。
そして彼女が自分に助けを求めた時の歓喜した己の心。
…まだ……
愛していたのか…
まだ、囚われていたのか…
意志を無くした
悲しい瞳をした
何もかもを無くした
あの女を……
スモーカーは自分の部屋の扉の前に居る部下に『もうイイ』とだけ言い残し、中へと身体を滑り込ませた。
バタン、と扉を閉めて。
辺りを見渡すと、窓辺に佇む愛しい女を見つける。
勝手に風呂に入ったのか、床には服が脱ぎ散らかされていて。
自分用のバスローブは大きかったのか、彼女を包むソレは酷く不似合いな気がして。
思わずスモーカーは失笑を洩らす。
それに気付いたはムッ、としながらもコチラを向いた。
懐かしい眼差し。
吸っている煙草ですらもが、奥底に封じ込めていた思いを解き放つには十分で。
「………」
「…なぁに、スモーカー」
多少、ムカついたままの声だったが。
それでも己の声に返事くれるのが嬉しくて。
大またで歩き、彼女の傍へと寄って行く。
返された返事の声が。
見上げてくる、角度が。
彼女を包む、メンソール系の匂いが。
彼女を彼女と認識させてくれて。
両手を広げて抱き締めた。
はその抱擁に、心底安心したかのように身体中の力を抜いて身を任せた。
傍(はた)から見れば酷く不恰好な。
彼を知る者が見れば信じられないと思わず言ってしまうほど。
広くて大きな背中を丸め、彼女を全ての事柄から守るように。
何かに怯える彼女に安心を与えるように。
優しく優しく抱き締めた。
厚い胸板に、解放されたかのような安堵の表情を浮かべて擦り付いて。
「……スモーカー…」
子供が親を呼ぶような、そんな感じで名を呼ばれる。
この人一倍、警戒心の強い野良猫のような彼女がこんな風に名前を呼ぶのは目の前のこの男位で。
愛しいと感じる儘にスモーカーは僅かに身体を離しての唇を貪った。
風呂上り、独特の柔らかい匂いにしっとりとした肌の感触。
女を抱くのは嫌いではないが。
好きでもない女と肌を交わす程好き者でない為に、スモーカーには久しぶりの女の感触だった。
それも心底惚れてしまった女の肌となれば、それも一入(ひとしお)で。
身体中からこの女を征服したいという男特有の欲望が首をもたげた。
長い長い口付けを惜しみながらも止めて首筋へと唇をずらす。
耳の軟骨に歯を立てて、舌を這わせて、そして耳穴へと舌を差し込んで。
内で蠢かせれば、腕の中の女は色を帯びた吐息を吐き出して。
そこから耳の後ろ、首筋、そして彼女の性感帯である肩の付け根辺りにまで行くとスモーカーの動きがピタリと止まる。
突然愛撫の動きを止めたスモーカーに一瞬、『どうしたの』と声を掛けそうになるが、はっ、と気付く。
船を下りてくる直前に交わしてきた、『今』愛している男との情交の事を。
その時ソコに噛み付かれるように責められた覚えがあり、きっと痕になっている事だろうと容易に察しが付いた。
一見、分かり辛い処にある彼女の性感帯に的確に残されたその痕は。
相手が何度も肌を交わした事のある事実を突きつけてくる。
先程、エースに感じたモノとは比べ物にならない程のドス黒い感情。
しかし同時に気付く。
彼女は特に相手を選びはしないが、同じ相手とは何回も寝ない事を。
その事実を足して考えれば、おのずと答えは導き出されて。
「……お前…誰かに…」
―――惚れたのか……
返された彼女の答えは
悲しそうな笑顔だった……