もう、良いから
もう、充分苦しんだんだから

もうこんな気持ちを引き摺るのは、…嫌だから






解放しても

解放してやっても良いのかもしれない……



















執着 2



















あの時から止まってしまったアタシの時間。

そろそろ解放してやっても。
時を動かしてやっても良いのかもしれない。






目の前で、自分を選んで欲しいと望む。
この男のモノになって。

止まってしまった時は長かったけれど。
この人ならば、その思いもひっくるめて。

アタシと云う人間を包み込んでくれるのかもしれない……

















そんな、蜘蛛の糸にも縋るような気持ちで。

アタシは彼の問い掛けに。






承諾の返事を















返そうとした
















その時……
































突然、騒ぎ出した村の人々。

歓声と慄く声。
恐れを抱いた叫び声に、畏敬の念を込めた野次。

意味を成さない、遠いその声に。
何故か一抹の不安を抱えてしまい。






彼への返事もせずに離れて店の入り口まで歩いて行く。



















まだ希望を持っていたのか

未だに諦めきれない、自分の






最後の足掻きなのか……



















幾度こんな日を夢見ていたのだろう







彼が迎えに来てくれて

アタシの存在を望んでくれて

今度は離さない、と

夢を叶えた今

お前を迎えに来た、のだと







そんな有る筈無い夢を見続けて

惨めな自分に、幾度嫌気を覚えれば


















アタシは自由になれるのだろう……






































恐る恐る開けた扉。







その先に見えるのは







夢に迄見続けた現実か







それとも変わらぬ日常か


















薄暗い店の中を照らし出す、一筋の光





































そして、充分に逡巡した後





























はゆっくりと扉を閉じた



































何を望むのだ、と







これ以上、この感情を引き摺っても
何も見返りも無ければ、誰かが来てくれる事も無いのに

















ピッタリと閉められた扉。

振り向く

悲しい、と云う感情を隠しもせずに笑みを浮かべ。

痛々しいその笑みを。

待ち続けた男へと向け。


































「………アタシで、…良かったら、喜んで……」
































云おうと思っていた科白を。
やっとの事で口から搾り出し。

痛む心の傷に顔を顰めながらも彼の元へと歩いて行き。






こんなアタシだけれども。

未だに昔の男を忘れ切れずに思い続けている。
意気地の無い、未練がましい、女々しい女だけれども。







それでもアナタが望むなら。

アナタと同じ時を過ごそう、と。

















ビリーへと、ゆっくり歩いて行き。

広げられた腕の中へと自ら進んで行き。

温かい胸に柔らかく抱かれて。

酷く安心出来るその感触に。

これ以上も無く安堵して。







何故、この胸に直ぐ飛び込んで行かなかったのかを悔いて。







でもこれからはずっと、同じ時を過ごそうと。

意を決して。







彼の顔を両手で挟んで、真っ直ぐに見詰め。
見詰め合えば。

胸の引き裂かれた痛みに。
痛い痛いと泣いているアタシの心を。

心底、心配してくれる彼の瞳にぶつかり合って。







この人となら、これから先も大丈夫だと。
この人となら、あの人の事も忘れられるだろうと。

きっと若かりし頃の良い思い出と思える程に云える程に。

和やかな自分にしてくれるだろう、と。







僅かに引いた胸の痛み。

これもきっと彼のおかげ。
コレでアタシはもう大丈夫。















そう思って

彼の顔を引き寄せて

彼もアタシの為すがままに引き寄せられて

口付けを交わそうとした

















その瞬間


































無遠慮に開いた扉

































驚いてソチラを振り向けば
































懐かしい、懐かしい

恋焦がれて、

今の今迄自分の心を占めていた







覚えのあるシルエット……


















つんつんに跳ねた、短い緑色の髪。
筋肉質なガタイの良い、覚えの有り過ぎるあの身体。
腰に下げたのは三本の刀。
耳には三本のピアスがその存在を主張しながら光、輝きながら揺れていて。







逆光で顔付き迄は見えないものの。

この広い海を持ってしても、こんなイデタチで。
こんな独特な雰囲気を持っている男は。

幸いなのか、それとも最悪なのか。
幾ら過去の知っている男達のシルエットを思い返してみても。

















思い続けた


















5年の月日を思い続けた


















彼しか、あの人しか思い付かなくて……




































「…………ゾ、ロ……?」





































「………」

































何年か振りに聞いたあの人の。







アタシの名を呼ぶ、その声に。
















その声に、嫌になる位にアタシの心が、身体が反応して。


















やっと……

やっと落ち着きかけていた心が、傷口が






裂けて広がって、新たな傷を作り出して






流れ出した血が痛くて痛くて……





































「………っにしに来たのよ!! こんなトコまで!」































突然、声を荒げて悲鳴のような叫び声を上げた

怒っているような、悲しんでいるような、そんな負の感情しか含まれていないその声は。
彼女の心がざわめいて、これ以上も無い程に動揺しているのが覚れるソレで。







この5年、今の今迄。
彼女がこんな声を上げるだなんて、聞いた事が無かったビリーは心底驚いて。

そしてその気性の激しさを改めて目の当たりにして。
彼も自分の中に広がる動揺を隠せなかった。

だって、さっき迄の彼女は声を荒げるなんて決してしない大人の女で。
淋しげな雰囲気を纏った、誰かが迎えに来てくれるのを悲しみながら待ち続けているような。

そんな人だったから。

















「……お前を迎えに来た。帰るぞ、船に」



















低く響く男の声。

何を勝手な事を抜かしているんだ、とそう思ったが。
ソレを自分が口に出すよりも早く。


















「ふざけないでよ!! 何が迎えに来たよ!あの時追い掛けても来なかったクセに!!」



















相手が、あの新聞に載っていた剣豪で。
あの鷹の目を倒した、世界一の刀使いで。

誰もが知る、麦藁海賊団の一員の、野獣とまで呼ばれた男に噛み付く彼女のその様は。

男である自分が、その覇気に押され。
口を挟む事すら出来ず。

ただ、黙って見ている事しか許されなかった。







そして唐突に覚る。

















あぁ……

このヒトだから
彼は迎えに来たのだ、と


















完全に自分の敵う相手では無い事を。
両者の持てる雰囲気、覇気で感じ取り。

二人の間に流れる、同じような気性を、同じような性質を。






思い知らされる。


















「あの時のお前は俺しか見えてねぇバカな女だったろう?だから離れたんだよ」

「そうね、だったらそのまま放っておいてくれても良いんじゃない?」







怒りをギリギリで押し殺しているのか。
殺気すら感じられる程に、彼女を取り巻く空気は張り詰めていて。







「云っただろう、忘れたのか?」

「アンタの事なんてもう何も覚えちゃいないわよ」

「だったら何度でも云ってやる」

































『―――お前は俺の女だ』

































「……ハッ、今更何云ってんのよ。あれから何年経ったと思ってんの?」

「高が5年だろう」

「5年もあればアンタなんかを思いきるには充分よ」

「思い切るだ?何バカな事云ってんだ、テメェ」

「バカだからアンタみたな男に惚れたんでしょう?でももう目が醒めたのよ、アタシはこの人と一緒になるわ」

「ぁあ?テメェこそフザケタ事抜かしてんじゃねぇよ、俺から離れられるワケがねぇだろ?」







余裕の笑みを零したゾロ。

しかし、扉を開けてからずっと。
抱き合ったまま離れない彼女等にイラ付きを覚えたのか。

ゆっくりと細められる瞳。







たったそれだけしか。
それだけの変化で。

その男の取り巻く空気が一変して。







今迄感じた事の無い。
本気の、本当に殺されてしまうかのような殺気をぶつけられる。



















相手は正真正銘の、本物の剣豪、ロロノア・ゾロ。

何人もの人間を地面に平伏せさせ、その上を歩んできた男。
そして自分が思う女の『元』男。







戦闘を、体格的なモノを差し引いたとしても。
彼は刀を使わなかったとしても。

自分には勝ち目があるワケが無くて。







そんな事を考えている余裕すらも奪っていくかの彼の雰囲気。



















でも、俺には







彼女を抱く、この腕を







離す事が出来なかった……










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