激しく続く濃厚な時間を延々と繰り広げ

二人が疲れきって眠りの淵に付いたのは
もう夜が明け始める、そんな時間で






五年分の思いをぶつけられたは疲れ果て、気を失うかのように眠りに付き
五年分の思いの一角をぶつけたゾロは少しだけ晴れた気持ちのお陰で穏やかな気分になり

自分の傍らで眠りに付く女の身体を
それはそれは大事そうに引き寄せて






汗の残る額に手を滑らせてそれを拭ってやると

そうっとキスを贈り

そして本人も眠りの淵へと導かれる儘に、意識を手放した


















執着 7




















時は少々、遡り。
ゾロにを連れて行かれた直後の残された村人達と麦藁海賊団の面々は。

段々と離れて行く彼等の後姿を見送って。







怒れるゾロの後姿と。
その横で、思いの籠もった複雑な眼差しで見詰めながらも付いて行くの姿。







まるで時が巻き戻って、昔のあの時のような。

迎えに行きたくて、船を飛び出そうとした自分達を。
迎えに行くなと引き止めたゾロが。

今はその時じゃない、と。

今、連れ戻してもきっと彼女は戻っては来るだろうが。
基本的に何も解決してない状態では再び離れて行こうとするだろうから、と。







先を見て、この先の事を考えて。
普段は寝てばかりのクセして、こんな時にだけその脳を使ってそんな科白を吐いて。

恐らく彼女が望んだ事であろう、そんな言葉を再び心に決める為か。
それとも自分の行く様を知ってもらう事で逃げを許さない状況を作り出したかったのか。







『世界一の剣豪になったら、俺が迎えに行くから』







そんな言葉を吐いて。

今、やっと迎えに来れて。

















そして、嫌がる彼女を無理矢理に近い状態で連れて帰って。

















あの時出来なかった事を。

今では胸を張って出来る、何かしらの事があるのだろう。
あんな行動を取って。







引っ込みが付かなくなっていたのであろう、彼女の手を掴み。
変わらない愛情でもって、今度はゾロがを翻弄させている。

5年も離れていれば、当然のように溝が出来るだろうに。

下手をすれば、もうは違う人生を歩んでしまっているのかもしれないのに。
ゾロは只管にソレを信じず、ソレを拒否し続けて。

長い長いその時を。
彼女を迎えに行く為にも、ずっとずっと努力し続け、思い続けて。







恐らくその相手になる予定だったのだろう。
視界の端に映る脱力してしまったこの男へと、少々同情めいたモノを感じてしまった。







世界一の剣豪になったのを知っていた村人達、そしてこの男。
加えて自分達は有名になってしまった海賊団で。

怒れるゾロへと抵抗らしい抵抗も出来なかったが。
それでもこの男がへと向けていた感情は本物のようで。







だって、あそこでが止めずに彼が連れ戻そうとしていたら。
この男は間違い無く殺されていただろうに。

それを厭わぬ程の愛情を、きっと持っていたのだろう。



















「ごめんなさいね」


















だからだろう。
航海士はそんな言葉をその男へと向けて云った。







その言葉に驚いたのは村人で。

名立たる海賊の一員であろうこの女性が。
こんな辺鄙な小さな島の村人に謝るだなんて。

常識的に考えても、普通では有り得ない事で。

目を真ん丸にして驚く彼等に、航海士は言葉を続けた。







「ゾロはね…、あの緑頭は、ずっとを迎えに来たかったの」

懐かしむような目で。

「5年前にうちの船を飛び出して行ったをずっとずっと迎えに行きたかったのよ」

少々、悲しみの混ざる目で。

「喧嘩別れするみたいに出て行っちゃったから、アタシ達はどうしてもその時に迎えに行きたかったんだけど。
 アイツがソレを止めてね。アナタには良い迷惑だったわよね。本当にごめんなさい」







そう云って頭を下げた航海士。
そして、ソレに習うようにして頭を下げ始めた他の面々達。

彼等も、この男がへと向けていた感情に嘘が無い事を感じていたのか。
黙って大人しく彼へと謝罪して。







名立たる海賊が。
恐らく彼等が自分達の認識する『海賊』と云う名の通りの人間達だったなら。

こんな事は死んでもしないであろうこの行為。

呆気に取られた村人達は。
それでも連れられて行ってしまったを思い。

そのを思っていたビリーの事を思い、誰も口を開けなかった所に。
オズオズとすまなそうに村長らしき初老の人物が口を開いて。







「……頭を上げて下され」







隠しきれない寂しさの混ざる声で。
行ってしまったが、もう戻って来ないであろう事を覚っていたのか。

村長は喋り出した。







「彼等は…、とあの剣士さんは……そんなに思い合ってたんじゃろうか…?」







ビリーにとっては、とても残酷な質問だったが。
これを聞かない事には先へは進めないと、心を鬼にしながらも問いただし。







「えぇ…、アタシが知る頃は……がゾロを束縛して、雁字搦めにする程でしたね」







航海士の口から出た言葉を聞いた途端にピクリと動いたビリー。







は……好きになり過ぎて、愛し過ぎて壊れてしまったんです」







自分達の言葉を受け入れながらも。
それでも己の感情を止められなかったのか。

辛そうにしていた

アタシ達の云う道理も、云っている意味も、何故云うかの意味も分かっていた彼女。

でもゾロを求める気持ちが強過ぎて。
盲目な迄に求めて止まなかった彼女の思い。

人をあんなに好きになれる事を羨ましくも思いながらも。

段々と、少しずつ、確実に壊れていく彼女を見ているのは。
分かっていながらも、野望を捨て切れなかったゾロを見ているのも。







正直、辛くて辛くて……







でもゾロが、やっと、念願の世界一を手に入れて。
親友の名を叫び、世界一になった事を天へと向けて報告して。

疲れきって、慢心相違な状態のクセして無理をして。

何をし出すのかと思えば、5年前に残してきてしまった彼女の情報を買いまくってて。

ソレを見ているだけで、あの時に云った約束を果たそう、と。
言葉にしなかった彼女の事を、忘れたワケでも無いし、情が冷めたワケでも無くて。

まだ愛してて、再びその手を握りたい、と。
握り返して欲しいと思い続けていたのだと。

そう思える程の情熱を持ち続けていたゾロ。
そして無理矢理に近かったが、付いて行った







願いが叶うなら。
どうか、彼女がゾロを受け入れてくれる事を心底思い。

諸事情を知った村人達にの居た家に居ても良いかと聞き。
面々は彼女の家へと入って行って。

残された村人達は。
の事をもう少し知りたいと思っていた者達は後を追い。
ビリーの事を心配している者達は、彼を立たせて何処かへと連れて行って。
僅かに残った者達は自分達の仕事へと戻り。

その事件とも呼べる事柄が終わったのを、悟った。






















翌日、随分と日が高くなってから。

酷く怠い身体に気付いたが起きるのを諦めて。
真横で己を抱き締め、情眠を貪る男の顔を眺めていると。

どうにも愛しさが込み上げて。

重さの残る腕を上げ、つんつんに跳ねている緑色の髪を梳いて。
その感触に嬉しさと切なさ、懐かしさに愛しさを感じて。

複雑な心が複雑な表情を作り出し。
言葉に出来ない憂いを醸し出し。

寝ていた筈のゾロは起きた彼女を浅い眠りの中で知り。
それに気付いたのか目を開けて。
目の前に居る女の顔を見て。

また、自分も複雑な表情をする。







「……おはよう、ゾロ」

「あぁ…」







こんな穏やかな朝。
泣きながら寝て、泣きながら起きたあの頃の朝は。

もう過去になり。

二度と離さないだろう、お互いの事を考えて。
もう一度この腕の中へと帰れた事に嬉しさを隠しきれず。

今度はその思いを表情に出し。







「ね、もう離さないでよ?」







そんな言葉を吐いて。

その嬉しそうな彼女の顔を見て、安心したゾロは。







「あぁ、二度と離さねぇよ」







目覚めのキスを贈り合って、笑い合って。

こんな穏やかな時を、この男と再び持てたのだと云う事に。
途轍もない充実感を覚え、甘えるように再び彼の胸へと頬を寄せた。




















そしてその日の夕方に。

海賊団の面々の前へと、ゾロに抱きかかえられて来たとの。
二人の間に流れる空気に。

全てが丸く収まった事を知った彼等は、彼女の住む家で宴会を開いて。
彼女の帰還を祝い、騒ぎ出す。

その中に現れた村人達に。
自分は彼等の元へと帰ると云った

淋しそうにソレを受け入れた村人達。

彼女に残って欲しかった筈だったのに。
浮かべられたその笑顔に、もう何も云えず。

只、云えるとしたら『良かったな』の一言に尽き。

宴会が酣を過ぎ、終焉を迎える頃に現れたビリー。
何か云いたそうにしていたが。

それでも彼女の顔、表情を見て。
云いかけた言葉を飲み込んで。

『幸せにな』と、言葉を残し。
の前から去って行った。

只管に謝り通そうと思っていた彼女だが。
謝ろうとした途端に、彼に止められ。

『謝る位なら、笑っててくれ』

なんて云われ、本当に言葉が出てこなくなり。
傍に居たゾロとその言葉に頷いて。







そしてその翌日に。
その村を出て海賊団の船へと乗って。







見送る村人達の目に映ったのは。

剣士の隣で輝くように笑っているの笑顔。











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