『生きろ』か……

変なヒトだよねぇ。
自分は海軍大佐なのに。

ホントはアタシを捕まえるのが仕事なクセしてさ。
ホントはアタシを死刑台へ送るのが仕事なのにさ。

こんな何人もの人々を殺したアタシに『生きろ』だなんて。





酔狂なヒトだよ……















so long11















兎に角。
海軍の大佐が居ると云う事は。
大佐に居場所を知られていると云う事は。

一刻も早く、この島を出て行かなければならないと云う事で。





それに加えて自分の事を全て喋ってしまったのだから。
次にアタシがスル事なんてバレバレだろうし。

少しでも早く、目的を達しておかなければ。
邪魔をされるのなんて分かりきっていたのに。






本当に
ナニを考えてたんだろうね……













は早い足取りで港へと向かい。
小さな船へと身を躍らせる。

彼女の力を動元力にしたその小船は。
風も無いのに直ぐ様動き出し。
暗い海へと消えて行った。











もうすぐだね。
サンジ……

もうすぐ会えるよ。

アナタは会いたくないかもしれないけど。
それでもアタシはアナタに会いたいんだ。





そろそろ、さ。
終わらせてもイイ……よね。



















翌日。

サンジは何時も通りレストランへと出勤する。
出て行ったマリの事は、店長にだけ言っておいて。

もしかしたら自分も近い内に何処かへ行くかもしれない、と。
何処か遠くへ……





店を繁盛させてくれたサンジに辞められては拙い、と。
店長は必死になって引き止めるも。

それでもサンジは静かに笑い。
すいません、と繰り返し言っていた。

余りにもシツコイ店長に。
閉口したのか。
サンジは『大事な女が迎えに来てくれる』んだと。

そう理由を述べた。





マリとの関係を知っていた店長には、正さに寝耳に水だったのか。
呆然としてしまい。

その間に、サンジはオーナールームから出て行った。





その日、一日。
サンジは待っていた。

トンでもない量の料理を延々と作りながらも待ち続けていた。

マリが出て行ったのだから。
恐らく彼女は。
もう近くにまで来ているのだろう、と。

この数日の内に彼女が迎えに来てくれるだろう。
そんな風に思っていた。












そしてそれから間もなくして。
繁盛しきっているそのレストランに。

一人の女がやって来る。





フードを被り。
顔をなるべく見せないように配慮されたその様子に。
店に居た誰もが不信な目を向ける。

それでもその女は案内され、テーブルに着く。
そしてスープを一皿だけ頼んだ。

直ぐに運ばれてきたソレを一口だけ飲み。
何か納得したかのような彼女は金をその場に置いて、出て行った。





何とも風変わりな客は。
ウェイターを通じて厨房にまで噂される。

何気ないその話に次々とメイン料理を作っていたサンジの手が止まる。






「オイ、さっきの客は何だったんだ?」

「ああ、スープだけ頼んで一口飲んで帰った奴だろ?」

「そうそう、スッゲー不気味な女だったよなぁ」

「不気味?」

「ああ、スープを持ってった時にチラリと顔が見えたんだけどさ。スゲエ目ぇしてんだよ」

「分かんねぇよ、もっと具体的に話せって」

「う〜ん、と。顔自体は悪くなかったんだよ。笑えば結構可愛いと思えるのにサ。
 でも兎に角、目が怖いんだって。吸い込まれそうな位にサ」













目?
目が怖いだって?
結構可愛い顔だったって?

吸い込まれそうな目だったって?














サンジは作っていた料理を手早く仕上げて盛り上げると。
喋っていたウェイターと見習いのコックに詰め寄った。





「オイ!その女、まだ店にいんのか!!?」

「はい!? どうしたんですか?サンジさん」

「いいから!その女はどうしたって聞いてんだよ!!」

「あ…、もう出て行きましたけど……」





『出て行った』の言葉を聞き終えるか、位のタイミングで。
サンジは厨房を飛び出して行った。





「ちょっ、サンジさん!! 何処行くんですか!!?」





呼び止めるコック達の声も耳に入らなかったのか。
サンジはレストランのホールへ飛び出して行き。
二・三度、辺りを見回してから外へ出て行った。

店の中で彼目当ての若い女の奇声が上がったが。
今の彼にはそれを気に留める事なんてできなくて。














―――……っ!!















コックの制服を着たままのサンジは。
道の往来では酷く目立ち。

通る通行人が好奇の目を向け、通り過ぎて行く。

その中に。
コチラへキツイ視線を向ける誰かが居て。






とてつもないような。
隠そうともしない殺気を込められたソレ。














あぁ……

やっと彼女が来てくれたんだ














その視線を穏やかとも取れる心境で。
サンジはその視線を送ってくる人物が居るであろう方向を振り向いた。






しかし、ソコには誰も居らず。






一瞬、呆けてしまったサンジは。
慌てたようにソコへと走って行く。





居たんだ。
居た筈なんだ。

あんな視線をくれるだなんて、彼女しか有り得ないんだから!





細い路地を走って行く。

周りを見渡して。
誰も居ないのを確認すれば、また走り出して。






どんなにどんなに走っても。
どんなにどんなに捜しても。

あの時のように彼女の姿は見えなくて。






そんな筈無い。
居たんだ、居たんだよ。












「………ちゃ…ん…、っ………」











絶対に居たんだ!

俺を迎えに来てくれたんだ!!












「何処だよ………、……――――っ!!」











薄暗い路地に。
サンジの悲痛な、それこそ悲鳴のような叫び声が上がる。





付き合っていた女を裏切って。
彼女の妹みたいな女に乗り換えて。
海へと出る決心を付けさせてくれた大切な仲間を捨てて。
オールブルーに行くと云う夢も捨て。

何もかもを捨てて選んだ女は特別な甘い時間を過ごさせてくれた。

でもその時間が甘ければ甘い程。
幸せだったら幸せな程。





裏切った彼女に申し訳無いような気がして。





それでも俺にはマリが居たから。
幸せにしなければならない彼女が居たからこそ。

全てを甘んじて受けていたと云うのに。

マリだって辛かった筈なんだ。
俺を選んでくれた時から辛い道を歩んでくれてた筈なんだ。






なのに、ナンで彼女は俺を置いて行ってしまったの…?













結局、彼女は自分の方が大事だったの?














そうは思いたくないのに。
それでも現実は。
一緒に暮らした筈の家には彼女の荷物は無くなっていて。

それこそ手紙の一枚も残されていなくて。

残されていたのは。
俺を、彼女を追い込んだ何枚もの手配書だけで。














俺は一体、何の為に船を下りたんだろう……














『マリも自分の全てでもって俺を愛してくれている』















そう思っていたのは
そんな風に思っていたのは

俺の独りよがりな思い込みだったみたいで……















そう気付いた時。

余りにも空しくなって、可笑しくて。




空しくて

可笑しくて

空しくて

可笑しくて、可笑しくて、可笑しくてっ……




























涙が



























止まらなかった……


























だから俺は決めたんだ。

こんな風にしてしまった彼女へ。
裏切って。
泣かせて。
病へと追い込んで。
命さえもを投げ出させてしまった彼女へと。

死にきれなくて殺戮者へと変わってしまった彼女へと。





ソレに見合う位の償いを。






どんな難題も。
どんな苦痛も。
彼女が言う事なら全て。

残る俺の全てを賭けて。

彼女が望むなら何でも。





叶えてやる、と決めたんだ。











だから出てきてくれよ。
その姿を見せてくれよ。

愛した女が恐れた姿を。
全ての元凶で有る。

自分の元へと。





「…………頼むからっ……」












俺に償わせてくれよ……












「出て来てくれよぉぉ……」












この、罪悪感と云う名の。

延々と続く。

呪縛から。






解放してくれよ……


















崩れ落ちてしまったサンジの元へ。

一筋の水が流れていく。

とても不自然に。

不自然に。





ソレに気付いたサンジは。
最初とても驚いたが。

ソレの行動に全てを覚ったのか。





逃げる事無く。
その水の好きなようにさせる。





意志を持ったその水は。
サンジの目の前で手の形を模って(かたどって)。
流した涙に触れて。

それ自体を吸い込んでしまう。





この場で。
こんな事を出来るのは……





取り込んでも取り込んでも。
後から後から涙は溢れ出てきて。

不自然に宙に浮く水は困ったかのように留まった。






「………、これは君なんだろう…?」






サンジは目の前に浮かんでいる水に話しかける。






「…相変わらず優しいんだね、君は」






話しかけても何の反応も見せない水。

しかし今のサンジにはそんな事は気にならなくて。














……会いたかった…」














安らいだ顔をして。
膝を付いた為に汚れていく制服をも気にせず。

サンジはその水へと触れた。






それに、その言葉に、行動に動揺したのか。

水は僅かに揺らいで形を崩す。






サンジの触れた水の感触はとても温かくて。
彼はうっとりとした表情をする。






水は、そんなサンジを突き放すかのように。
彼の手から逃れるように離れて行き。

…?」

『会いたかった』の言葉を嫌がるように。
『会いたかった』の言葉を否定するかのように。

水は地面の落ちて、吸い込まれていく。





!? !! 何処行くんだよ!」





サンジは逃れて行く水を留まらせるように手ですくうが。
元々、形の無いソレは彼の手をすり抜けて。





「待てよ!!会いに来てくれたんだろ!? 俺に会いに来てくれたんだろう!!?」





『会いに来てくれたんだろう』
その言葉は…











『俺を殺しに来たんだろう』

『俺を救いに来てくれたんだろう』










そんな風に聞こえて。

そんなつもりで会いに来たワケでは無いんだ。
そんなつもりでお前の所に現れたワケではないんだ。

そう語るように。
水はサンジの手を拒絶する。












それはまるであの時の仕返しのようで。

あの時、拒否した彼のように。












水は…

は拒絶した……













最後まで。
最後の一滴まで。

水は地面へと吸い込まれてしまって。

行ってしまった彼女の分身を。
サンジは呆然としたまま、見詰めていた。





「………は……はは……、だ…よな……」





濡れて、湿った地面に手を当てて。





「…そう、だよな……お前が…、俺を許すなんて……」











そんな事

ある筈ないのに……











でもさ

だったら




俺は一体














どうしたら

イイんだい……?













濡れた地面に頭を擦り付けるかのようにして。
行ってしまった彼女に縋るかのように。

サンジはソレに答えを求めた。













そこに。





























「…………サンジ……」



























建物の影から。

捜して捜して捜して捜して、捜し求めた。





壊れてしまった。
壊してしまった。

女の姿を目に入れた。









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