それ迄。
本当に今の今まで。

紙の中でしか見てこなかった彼女が。







ソコに居た。





冷たい、と感じた目は。





手配書なんかで見た比では無くて。










本当に闇を帯びた
冷たい冷たい目に見えた……


















so long12



















店に居た。
彼女を接待したウェイターが言っていたセリフ。

それが頭の中を駆け巡る。




『兎に角、目が怖いんだよ。吸い込まれそうな位にさ』




そう表現したその言葉。















本当にそうだと思った……















真っ直ぐに向けられたの視線。

それから読み取れる彼女の闇。
相手を飲み込んでしまいそうな位の深いソレに。

自分の仕出かした事の大きさを、感じずにはいられなかった。





「………」





男である自分が。
それなりの人生を送ってきた自分が。
戦闘になれば、よっぽどの相手でも向かって行けた自分が。




ただ
ソコに居る

コチラを見ているだけの彼女に








のまれるだなんて……








その事実は。
自分と離れていて送っていた僅かな時間が。

とてもとても残酷だった事を意味していて。

自分が送った人生の比では無いような濃厚な時間を過ごした事を含んでいて。







冷たい冷たい、仮面のような顔をして。
以前の彼女では有り得ないその表情を浮かべて。







直接、開いた口から。
久しぶりに聞いた声は。

その声は。
その言葉は……














「……楽しめた…?」















表情、以上に冷えたモノだった。
















一瞬。
彼女がナニを言ったのか理解出来なくて。





呆けたような顔をしたままのサンジに。
は更に言葉を重ねる。

残酷な言葉を。













「面白かった?」















ソレは彼女が一旦、拒否した事を指していて。











縋りたい時に。
縋りたい相手に。
信じたい相手に。
信じていたい相手に。

拒否、拒絶される事を。





『楽しんだ』か、と。
『面白かった』か、と言っていた。





それに対してサンジが答えられる筈も無くて。
文句も言える筈が無くて。












だってソレはかつての自分がした事だから。












縋る彼女に、悔恨の目を向けて。
懺悔の目を向けて。
後悔の目を向けて。

拒否したのは。





他ならぬ自分であって。





同じ事をされたからと云って。
怒れる筈も無く。

黙って受け入れるしかなくて。











何も言葉を返さないサンジに。

呆れたのか、待ちきれないのか。
は動き出す。





足音も立てずに。
まるで地面を滑るかのように。

コチラへと歩いて来て。
サンジの前へと跪いて。





細い、白い手が。
手が伸びてきて。













優しい手付きで。













彼の金髪に付く。
泥を拭ってやる。















指先を水に変えて。
彼に付く泥を消してあげて。














ソレに困惑したような表情を浮かべ。
対処の仕様の無いサンジは動けなくて。





こんなトコが。
涙を拭ってくれた事もそうだが。

彼女が彼女であった頃を思い出させてくれて。
泣きたい気分が堪えられなくなる。






「………」






冷たいと思える表情と。
優しいと思える行動と。

以前の彼女が残る。
壊れた彼女が。






悲しくて
悲しくて……






白い手が泥色に染まり。
サンジの髪は綺麗な金を取り戻し。















「……会いたかったですって?………相変わらずウソばっかりね……」














動かない表情。
相反する優しい行動。

拒否し続けられる事実。





「ちがっ……違うんだ…俺はっ……」

サンジは必死になってソレを否定して。

「何が違うの?本当にアナタはアタシに会いたかったの?」

対するは何も変わらず。





「そうだよ、会いたかったんだ!会って……」

「会って?」

「……会って、…謝りたい、…って!……」

ずっと。
ずっと言いたかった言葉をやっと口にしたサンジに。

は……














「結構よ」















再び、冷たく突き放して。




























「今更、謝ってもらっても何も変わらないじゃない」



























酷い、現実を浮き彫りにさせる。





「そんな意味の無い事されても嬉しくとも何とも無いわ」

「……っ…」

「アナタはソレで満足出来るかもしれないけど」

彼女の闇を含む目が。
目が色を濃くして。





「ナンでアタシが付き合わなくちゃならないの?」





彼女の云う事は全くもって、その通りで。

簡単に云ってしまえば。
サンジが謝罪したい、と云う意味は。

単なる自己満足に過ぎなくて。





裏切ってしまった彼女に。
死を持って、全てを無に返そうとした彼女に。

その死にすら受け入れて貰えなくて。
壊れてしまった彼女に酷い罪悪感を感じて。

感じてしまった罪悪感は自分ではどうする事も出来ないから。
だから彼女に許しを乞うて。

許しを得られれば。
許して貰えれば。

自分は救われるのだから……






「……そんなの、…真っ平御免よ…」






離れていった手が。
触れていた髪から。

一滴の水が流れて落ちて。






泣けない彼女の。












涙のように












思えた……
















「…それでも……、…それでも俺は…お前に謝りたかったんだ……」

















再び、流れ出したサンジの涙を。

はとても優しい手付きで拭ってやって。






「……そう…」






変わらぬ、色の無い声で答えた。






「でもね、…サンジ。アタシ、アナタを許してあげられそうにないの…」

「それでもイイ……それでもイイんだ…」





それでも純粋に。
彼女が会いに来てくれた事が嬉しくて。





涙を拭う彼女の手を掴む。





這ってきた水の時とは違い。
酷く冷たい彼女の手。

水道から流れてくる水の感触に酷く近いその感覚に。

サンジの目から。

また
涙が零れて、落ちる。






ソレに困ったかのようには両手を差し出して。
掴まれていたサンジの手を払って。

彼の顔を包み込む。






「……サンジ…」
















愛しい、愛しいアナタ……





あんな風に裏切られても
あんな風に別れを告げても

恨んでも
怨んでも
憎んでも

殺したいと思う位に憎んでも……










はそのままサンジに向かって。
思いっきり、剥き出しの殺気を放つ。





対するサンジは。
ソレに安堵したかのように笑って。
目を瞑って。










不確かな。
それでも確信に近い疑問を感じる。











このヒトは……

死にたがってる…?











先程も感じたソレは。
新しい疑問を生んで。











何故、このヒトは死にたがってるの?











こんなヒトでは無かった。
そう、こんなヒトでは無かった筈だ。

守るべきモノがあれば。
決して最後迄、諦めない筈なのに。




どうしたって云うの…?




こんな安らかな顔をして。

死を受け入れたがって。











こんなに死にたがっているヒトに。
死を与えても。

それは復讐にも、何にもならない。












は包んでいた両手を離して立ち上がる。

サンジは不意を付かれたように目を開け。
『どうして?』と言いたげな顔をする。





「何を…勘違いしてんの?」





闇色の目が怒りを帯びて。





「………アタシは、アナタを救いに来たワケじゃ無いのよ?」





あの船を下りて。

仲間を捨てて。
夢を捨てて。
何もかもを捨てて。
生きてきたアナタに。

何があったのか分からないけれど。


























…救って欲しかったのはアタシの方なのに……!!


























死にたかったのはアタシの方よ!
助けて欲しかったのはアタシの方よ!!

選んでほしかったのに…
アタシのモノで居てほしかったのに。
あんなに言葉をくれたのにっ。
何度も身体を繋げ合ったのに!

それでも裏切ったのはアナタの方なのにっ!!











愛した分だけ傷付いて。
愛した分だけ絶望して。

愛さなければ良かったと思える位に。
それほどアナタを愛していたのに……










「……勝手ね…、アナタって…」











冷え切った声に。
冷え切った表情。

自分勝手なサンジの思いに。
想いの外、怒りを感じてしまい。

真実を、本音を次々と吐露してしまう。














その時。
不意にはサンジから視線を外す。

闇しか浮かべぬ目に戻った
それは歓迎しない人間の登場を察知した為で。

通りの向こうから、何人ものヒトを捜す声がする。





「コッチだ!!」

「コッチで見たって奴が居たんだ!」

「早くしろっ!! 絶対に見つけるんだ!!」





その人物達は『氷の』を探していて。

以前、潰した海賊の知り合いだったのだろう。
彼等は何処からかがこの島に居る事を嗅ぎ付けて。
血眼で彼女を捜していた。

仲が良かったのか。
彼等は決してを許そうとはせず。
しつこく何度も彼女を狙っていた。





対するは。
それはそれは静かな顔をしていて。

彼等が現れるのをじっと待っていた。





「…?…アレってまさか……」

サンジの予感は当然のように当たっていて。

「そうよ、アタシを捜しているの」

平然と答える彼女にサンジは信じられないかのような表情をして。

「何してんだよ、逃げるぞ!」

慌てて手を掴んで逃げようとするサンジだが。
彼女の手は水に変わり。

その手からスルリと抜けてしまう。

「お前、騒がれたら…見つかったらマズイんだろ?海軍にも追われてんだろ!?」

緊迫したサンジの言葉にもは微動だにせず。

「えぇ、そうよ。だから何?」





そうこうしている内に。
を追って来た輩はココを見つけて。

10人近く居るのだろうか。
彼等はを見つけると。
とても嬉しそうに顔を歪める。





「…っ!オイ!!…」

「あぁ……居たぜ…」

「会いたかったぜぇ?『氷の』」

「えぇ。アタシもよ」

「そうかい、そいつは嬉しいねぇ…」

男達は下卑た笑みを浮かべ。
手に手に凶器を持ち、距離を詰めて来る。





「……、ココは俺が何とかするから。お前は逃げろ」





立ち上がったサンジが、そっと耳打ちして。
しかし、がその言葉に従う筈も無く。

「イヤよ」

短くソレに返して。

「……さあ、早くかかって来れば?」

奴等を挑発する。

っ!?」






肩を掴んで、その場をどうにかしようと。
サンジは懸命に語り掛けるが。
彼女は一向に動こうとせず。

の腕を再び掴んで。
連れて逃げようとしたサンジは。

自分が動けなくなっている事に始めて気が付く。






彼女の操る水が。
サンジの足を覆って掴んで固定していて。

それは薄い膜になって彼の身体を覆って庇って。






男達が。
に向かって。
奇声を上げながら、走って走って。






!! 何やってんだ、逃げろ!早く、逃げて…逃げてくれぇっ!!」






凶器を振り上げながら。
嬉しそうな顔をして。
一対十の卑怯な戦闘に勝利を確信した男達は。

刃を振り下ろし。

の身体に突き立てた。





「ヤメロ――ッ!! っ!! ―――っ!!!」





微動だにしなかったは。
全ての刃と云う刃。
銃の玉を受け止めて。

それ等は彼女の身体を貫通して。
サンジの目にも突き抜けた刃と云う刃が見えてしまい。





『アレでは助からない』





そんな考えが頭に浮かび。
呆けた頭の中に。
酷い絶望と酷い喪失感が身体中を支配した時。

男達の顔に焦りが見て取れた。





良く見れば。
男達が突き刺した刃は抜ける事無く、彼女の身体に留まっていて。

僅かに見える角度で。





確かに




















笑って、いた……















口の端を上げて。

驚きに。
恐怖に。
驚愕に。
人間では無いようなモノを見るような顔でを見る彼等に。

かつて、海軍の大佐に見せたあの笑みを。
浮かべて見せていた……





「……少しは満足してくれた?」

「なっ……なんだと!?」

「もしかしてアタシを殺せるとでも思ったの?」

「何なんだよ、コイツ!! こんな……こんなっ…!!」

「なぁに?折角、最後に楽しませてあげようと思ったのに」






気に入らなかった?






そう尋ねたに。

現段階での賞金額、二億を超えるお尋ね者。
『氷の』に。
男達は決して敵わない。

その事実をやっとの事で知った。





所詮、女だろう。
何か策を企てていた筈だ。
きっと協力者が山ほど居る筈だ。
隙を突けば何とかなる筈だ。





そんな甘い考えでに勝負を挑み。
勝てる筈が無いのに。

『勝てない』現実に男達は悲鳴を上げて。
次々と凶器を手放して逃げようとする。






しかし彼女はそれを許さず。






「何処に行くの?」






動けなくなった彼等。
足元を見れば、矢張り水に覆われていて。

水は彼等を取り巻いていって。






「自分達から勝負を挑んで来たんでしょう?自分達から死にに来たんでしょう?」






笑った儘の口元。
笑っていない闇色の目。

その不穏な表情に、男達は命乞いの言葉を吐き続けるも。






「バカ言わないでよ。アタシが逃がしてあげるとでも思ったの?」






一蹴してしまい。






「今度、生まれる時はもっとマシな人生を送りなさい」






そう言って。
彼等を覆っていた水を動かして。

足から膝。
膝から腰。
腰から胸、と次第に動かして。

悲鳴を上げ。
許しを乞うて。
助けを求めるようにもがく手も。

叫び続ける口も。
荒い息を繰り返す鼻も。
恐怖に慄く目も。
全てを水で多い尽くした。





「……お…、オイ………」





余りの残虐性に。
思わずサンジが声を掛ければ。





思い出したかのように振り向いた彼女の顔は。





眉一つ動かしていない。
最初に会った時の顔と。

丸っきり同じモノだった……






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