懐かしい……

懐かしい、麦わらの海賊旗を掲げるGM号。





次第に近づいてくるその船に。
サンジはどうしようもない感慨を受けたが。





それでも懐かしい思いに浸っている事等出来なかった。





















so long15





















『帰れ』と。

そう云ったのか?






信じられないかのように。
サンジはの顔を凝視した。






だって、どのツラ下げてあの船に帰れと云うのか。

を追い詰め。
彼女を捨て違う女を選び。
自ら、それもマリを連れて出て行ったあの船に。

今更どうやって帰れと云うのか。






「………、悪いけど。俺はあの船に帰るつもりは無いよ」

「何故?」

「何故って……」

「懐かしくないの?」

「そりゃあ、懐かしいとは思うよ。でもそれとこれとじゃ問題が違う」






頑なに帰る事を拒否するサンジに。















「アナタがあの船に帰る事をアタシが望んでいても?」















は卑怯とも取れるセリフを吐いて。






「……………、それは…ズルイんじゃないか…?」






この状態で。
今のこの状況で。

自分が彼女の頼みを断るなんて出来ない事を知っていて。
それで云っているのであろう、そのセリフ。





ズルイと云われて。
それを彼女自身も理解しているのか。

少し、すまなそうな顔をして。
しかしそれでも……






「分かってて云ってるの。でもね、それだけアナタにあの船に帰って欲しいのよ」






どうしても、と譲れなそうな彼女へと。
唯一の抵抗のようなモノを指し示す。














「だったら……だったらさ、。……お前もあの船に帰ろう…」















そのセリフを云ったサンジに。

は視線を合わせて。






「今のアタシは昔のアタシとは違うのよ?全部知っておきながらそのセリフを云うの?」

「ソレを云うなら俺だって同じだ。俺だってあの船に居た頃とは違う」

「アタシ程は違ってないでしょう?それにアタシは凶悪犯なんだよ?それこそどの面下げてあの船に帰れって云うの?」

「そんなの関係ない!アイツ等はそんな事を気にする奴等じゃない!!」






最もな言い分。
確かに彼等はそんな事を気にする輩では無いが。

それでもアタシが乗れない理由があるんだよ?






「ルフィ達の追われる質が変わってしまってもアナタはそう云うの?」






それじゃイケナイの。

彼等はアタシみたいなモノを乗せてはイケナイの。






こんな……

殺戮人形のように。
まるで吸血鬼のようになってしまったアタシを乗せてはイケナイの。






だってアタシはヒトから生き血を吸い取らないと生きていけない化け物のような女で。

もしもあの船に乗ってしまったら。




















アタシはきっと彼等から…

仲間と呼べる唯一の人達から血を吸い取ってしまう……























きっと彼等の事だから。
理由を話せば、自ら進んで血をくれるかもしれない。

でもそれじゃダメなのよ。

そんなのはアタシが許せないのよ。





だから、アタシは絶対にあの船には帰れないの。

でもアナタはまだ帰れるの。
きっとアタシが願えば、彼等は受け入れてくれるから。

渋々だろうが。
嫌がるだろうが。
アタシが願えばソレに頷いてくれるから。

だから、アナタにあの船に帰って欲しいの。






アタシが一番アタシらしかったあの船に。

生きる事が楽しくって。
過ぎる日々が愛しくて。
サンジと顔を会わせる度に心臓が高鳴った。

あの頃に……






元に戻るのが無理なら。

せめてメンバーを揃えたいと願ったの。

アタシもマリも居ない。
アタシ達が乗る前のようなGM号に戻って欲しいと願ったの。






以前には戻れないけれど。
形だけかもしれないけれど。

それでも彼等がこの海の何処かに存在してくれていると云う確信が有れば。

傍に居る事が出来なくても。
近寄る事が許されなくても。

満足だ、と。






そう、思ったの……。




























そう理由を述べても。

考えた事を。
してしまうであろう事を云っても。
サンジは一向に答えを変えず。





『一緒』でなければ帰らない。





そう云い張った。
















俺も奴等もそんな事は気にしない。
血が欲しければ俺の血を幾らでもアゲルから。
吸いたい時に何時でも吸えばイイ。

メンバーを揃えたければ。
あの頃のような毎日を俺に送って欲しければ。

お前が。
が居なければダメなんだ。

お前が望めば俺はナンだってやるよ?
でもね、ソレだけは譲れないんだ。

俺にあの船で『生きろ』と云うなら。
あの船にお前が居ないといけないんだ。

だってそうじゃなきゃ、誰が証明できるんだい?






俺が前のようにあの船で料理をしている事を。
俺等があの頃のようにバカ騒ぎをしている事を。

































『生きて』

『一緒に』

『あの船で』

『止まってしまった時間を』

『二人で』






『動かそうよ……』



























サンジの云った条件は。
途轍もない程の甘美な感触でもってを戸惑わせる。






頷いてはイケナイのに。
頷いてしまいたい衝動に駆られる。






だってあの船は。

あの船には何物にも変えられない思い出が。

それは良い思い出だけでは無いけれど。

それでも嬉しかった事や。
楽しかった事や。
夜も眠れない程に興奮した。

恋人同士になれたあの思い出が有るんだもの……















『凍ってしまった時間なら』

『俺が凍らせてしまった時間なら』

『俺が責任持って溶かしてあげるから……』






『だから一緒に帰ろう…』















もう、サンジから目線を外せない。

こんなにも真剣な目で。
一緒に帰ろうと云ってくれるだなんて。

半年前の。
あの時には考えられなかった。
手を差し伸べてくれて。






はゆっくりと目を瞑り。

譲れない思いと。
流されてしまいたい思いの狭間で。

雁字搦めにされたように。
苦しそうに眉間に皺を寄せ。

立ち尽くした。






動けない。
緊迫した状態。






どちらにも動けなくて。

差し伸べられた手を掴む事など。
この血塗られた手では、出来る筈が無くて。

それでもその手を取りたくて。






あの船へ。
サンジと一緒に帰りたい。
帰って同じ時を過ごしたい。

己の願望が。
己の理性がせめぎあって。
指、一本ですら動かせなくて。







辛そうに。
理性と本能がぶつかり合って。

どうにも、どちらにも動けなくなってしまったの手を。






サンジの手が。






差し出していた手で。






彼女のキツク握られた手に。






そっと触れさせて。






その感触に驚いたようには目を開け。

あの頃のような。
恋人同士であった頃に見せてくれたサンジの顔に。

動揺を隠せず。

そんなにサンジは触れ合った手をその儘に。







彼女の身体をそぅっと抱き締めた。


















彼を連れて行こうと決心した時の抱擁のようなソレに。
まるで愛しい恋人を胸に抱くようなソレに。

一度、彼を受け入れてしまった自分に。
今更ソレを拒否する事なんてできなくて。






温かい彼の抱擁に。

流されてはイケナイのに。
頷いてはイケナイのに。

頷きを返してしまった。


















一旦、認めてしまえば。
まるで土台が崩れてしまうかのように。

次々と彼に対する感情が高ぶって。

心底。
憎んで憎んで、殺してしまおうと思う位に愛していたモノは封印を解かれて。

頑なに凝り固まってしまっていた心が溶かされて。
絶対に外れないとまで云われていた彼女の仮面は綺麗に割れ落ち。

壊れる前の彼女のような優しい表情をして。






はサンジの背に腕を回し。
頬を寄せ。

抱き合った。






が了解の意味での抱擁を返してくれれば。
サンジは殊更嬉しそうに彼女を抱く腕に力を込めて。

暫しの間。
二人はそうやって抱き合っていた。















そして遠くの方から見知った気配が。

懐かしくて、帰りたくて仕方がなかったあの船のクルー達の気配に。

とサンジはソチラを向いて。

コチラへ向かって走って来る久しぶりに見た懐かしい顔触れを。

お互い、笑顔で見詰めていた。






途中で躓きながらも懸命に走ってくる彼等が。

抱き合っている二人を見て。

文句を云いながらも、嬉しそうに走り寄って来るのを見続けて。






半年振りに顔を見る彼等までの距離は後100m……








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