どうして?
ねぇ、どうしてなの?
サンジは私を選んでくれたのに。
あのヒトの手を離して、私を選んでくれた筈なのに。
なのに何でアナタは笑いながらあのヒトの傍に居るの?
何であのヒトをそんな風に抱き締めるの?
二人で出て行ったあの船に。
あのヒトの思い出の残る。
アナタの夢が詰まっている。
悲しい思い出しか無い筈のあの船へ。
どうしてアナタはあのヒトと一緒に帰って行ってしまうの?
残された私は……
どうしたら良いの…?
so long18
GM号のクルー達は。
とサンジを再び仲間として迎え入れ。
今夜は大宴会だ、と嬉しそうに笑いながらその場を去って行った。
その姿は本当に仲の良い仲間達のようで。
実際彼等は元仲間だったのだから。
それは当たり前なのだろうが。
それでもその場に私も居たのに。
確かに彼女を追い出してしまう原因を作ったのは自分なれど。
でも自分だってあの中に居たのだ。
それもサンジの傍に居たのだ。
彼の両脇を彼女と自分で固めて。
腕を一本ずつ持って。
照れて嫌がった私に彼女が面白がってソレをさせたのに。
本当は海賊なんて大嫌いだったのよ?
なのに彼女が連れ出してくれた所は海賊船で。
奴隷として売られるよりは少しはマシか位にしか思わなかったのだけれど。
いざ、彼等の仲間として迎え入れてもらったら。
ソコはとても居心地が良くて。
それこそ本当に、今まで知らなかった色々なモノを目に出来て。
自分の知識の狭さと、偏見と云うモノを実地で体験して。
そしてソレを思い直し、彼等を受け入れて。
とてもとても楽しかったのに。
頼り甲斐のある、私を救ってくれた彼女。
ちょっと怖いけれど本当は優しくて照れ屋な彼。
頭がきれて、機転が利いて、女らしい気使いをしてくれた彼女。
ホラ話なのだろうけど何時も楽しい話を聞かせてくれた彼。
臆病なれど、本当はとても医学に抜きん出て眠れない時にはお世話になった彼。
ヒトの話をロクに聞かないけれど、でもココぞと云う時は誰よりも頼りになって。
そしてどうしたらこんなに美味しい料理が作れるのだろうか、と本気で考えた事も有る彼。
こんな素敵なヒト達と。
私だって仲間だったのだと。
頭の何処かが叫ぶけれど。
それでも何処で何をどう間違ったのか。
私は彼等の所には帰れない……
帰れないのを承知して。
こうなる事は頭の何処か片隅で分かっていたけれど。
サンジから全てを奪い取った形になってしまったけれど。
それでも私だって…
私だってあそこで笑っていたのよ……?
彼女がどれだけサンジの事を愛してたのか、知っていたけれど。
それでも私だってサンジが欲しかったのよ。
あの船で。
最初に優しく手を差し伸べてくれたのが彼だったから。
困惑している私に。
どんどん馴染んでいく彼女を横目に。
何時まで経っても輪の中に入れない私に。
綺麗な金髪を揺らしながら。
優しい笑みを浮かべながら。
口の端に煙草を銜えて、細い煙を立ち上らせながら。
手を差し伸べてくれたから。
その手を取るのに躊躇が無かったワケじゃないのよ。
だってその時にはもう、が彼に惹かれているのを知っていたから。
でも手を差し伸べている彼の後でアナタも笑っていたじゃない。
全てを許すような笑みで笑っていたじゃない。
だから私は彼の手を取ったのに。
第一アナタは一杯持ってるじゃない。
船長が自分の船に乗せるのを決断したのだって、アナタを気に入ったからでしょう?
優しい航海士が相談を聞いてくれるのだってアナタだからでしょう?
私なんて視界の端にも入れて貰えなかった剣士にだって、何時の間にか優しい眼差しを向けられて。
腕の良い狙撃手だってアナタと居ると本当に楽しそうに笑うから。
頼りになる船医もアナタの前では安らいだ顔をして甘えるし。
皆、アナタと居ると嬉しそうだから。
本当に楽しそうにしてるんだから。
だから良いじゃない。
一人くらい私にくれたって良いじゃない。
サンジくらい私にくれたって良いじゃない。
彼だって私の手を握り返してくれたのよ?
一緒にあの船を下りてくれる程私を思ってくれていたのよ?
アナタの事で悩みながらも私を選んでくれて。
あの地で幸せな時間を共有してたのに。
なのにアナタはソレを壊そうとして。
自分だって彼の手を突き放したくせに。
辛さから逃げて、船を飛び降りるなんて事をしたくせに。
悪名を轟かせながら私達の暮らすあの場所へ。
悪意を持ってやってきたクセに。
本当は私達を…。
いいえ、私を殺しに来たんでしょう?
それが目的だったんでしょう?
なのに何でアナタは彼等と一緒に居るの?
何でサンジの横に当然のように立って。
彼等と笑い合ってるの?
………返してよ…
ソコは私の居場所よ…?
私が居るべき場所なのよ?
なのに何でアナタがソコに立っているの?
自分から逃げたクセに……
彼が苦しむのを分かっていながらあんな風に逃げたクセに。
どうしてアナタがソコに居るのよ!
そんなの許せない……
そうよ、許せない。
絶対に許さないからっ!
携帯用の小型電伝虫を出して。
直通のダイヤルを押して。
直ぐに出た相手。
本当は言いたくなかったけれど。
サンジを巻き込む事は嫌だったけど。
昔の仲間を犠牲にするのは心苦しかったけれど。
それでも彼等だって彼女を受け入れたのだから同罪だと。
彼等だって賞金首なのだからその位は覚悟しているんでしょう、と。
自分に都合の良い言い訳をして。
金髪の、愛しい男だけには手を出さないと約束させ。
それを交換条件に。
今、彼女達の居る場所を。
これから先、向かうべきあろう場所を教えて。
用件のみを伝えたら。
早々にソレを切って。
口元に浮かぶ笑みは。
引き攣ったようなモノになって。
誰が見ても嫌な笑みだと言い切れるソレを浮かべながら。
マリは達が去って行った方向を見た。
……
返してもらうから
最初はアナタの彼だったけど。
確かに奪ったのは私だけど。
それでも今は私のモノなの。
だから返してもらうわよ。
えぇ、何を使おうとも。
どんなに汚い手を使おうとも。
絶対に返してもらうから!!
久し振りにサンジの隣を歩いて。
彼の吸う煙草の匂いを感じながら歩いて行ける。
元、仲間の彼等と。
今も仲間だと認められて笑いながら共に歩いて行ける。
騒がしい彼等と。
愛しい男と。
一緒の時を、同じ時を。
再び共有する事が出来るだなんて……
夢にまで見た。
もう決して叶わないと思っていた、この光景が。
今、この現実で叶っていて。
嬉しくて嬉しくて。
只、ひたすらにその事実が嬉しくて。
繋がれた手が。
彼の温もりを教えてくれて。
そのくすぐったいようなソレが。
些細な幸せなのだろうが。
他人から見れば、何でこんな事で喜べるのだろうか、と聞かれそうな事なのに。
それでも自分にとっては。
これ以上も無い幸せで。
感じた絶望が、強ければ強い程。
今のこの現状が、言葉にならない位の幸せな気分を生んでくれて。
はサンジに顔を向けて。
視線が合わさると。
とてもとても幸せそうな顔で。
笑った。
ソレを見たサンジは。
一瞬、その笑顔に見惚れるも。
とてもとても嬉しそうに笑い返して。
握る彼女の手を。
より一層強く握った。
ソレを囃し立てる輩も居ず。
GM号のクルー達は。
彼等が幸せならばそれでイイ、と。
あんな風に笑ってくれるなら。
もうソレでイイ、と。
優しい笑顔で見守って。
この後、起こるであろう惨劇を。
知る由も無い彼等は。
とてもとても幸せそうにその光景を見続けて。
幸せそうな彼等を。
どうぞこの儘で居させて欲しい、と。
ささやかな願いを込めて。
破滅が待つ。
自分達の船へと。
帰って行った……