ソレは神様が
余りにも酷な人生だったアタシの事を哀れんでくれて

慈悲の心で与えてくれたような時間でした






それでもあんな悪名を貰った自分が

何人もの、何十人もの
それこそ何百人もの人間を殺してきた自分が

虐殺し続けた自分が






大好きなアナタと

大好きな仲間達と






ホンの一時でも再び一緒に居られたその時間は







……これ以上も無い幸せでした













えぇ…

もう、思い残す事が無いと思える位に……






















so long19





















こっちに船を泊めてきたから、とナミの案内で。
皆で一緒に夢の詰まったあの船へと。

帰ろう、と。

それはそれは楽しそうに。
険しい道なのにソレすらも気にならないと云う風に歩き続け。







次第に見えてくる懐かしいゴーイング・メリー号。







羊の顔はこの船の船長のお気に入りの場所。
そんな事を思い出して、は無意識に笑った。

何気ない事が、些細な事が。
今はとてもとても嬉しくて。

下ろされていた縄梯子に。
彼等は順番に乗っていって。







そして自分達も船に乗ろうと。
サンジはの身体を抱き上げて。

まるで体重等、感じていないかのような仕草で。
彼はの身体を肩へと乗せて。







彼の手に寄ってこの船に戻れる現実に。







は嬉しそうに彼の首に腕を回して。
サンジも嬉しそうに微笑んで。







縄梯子を登って。
特別な思い出の詰まるGM号に乗って。







懐かしい思いと。
悲しかった思い出と。
悔しい思い出と。
帰りたかった思いが。

複雑に絡み合って。







それでもココへ帰れた嬉しさに。
頬が緩むのを感じて。







改めて『お帰り』と云ってくれるクルー達に。

照れながらも、サンジと一緒に。
『ただいま』と答えて。







肩から下ろしてもらって、しっかりとGM号の床板を踏みしめて。
辺りを見回せば。

あんなに長いと感じた時間だったが。
本当は高が半年なワケで。

その半年間に変わった所は何処にも見当たらなくて。







「帰った早々にサンジは大変ね。休む時間も無い位に働かなくちゃならないでしょう?」

「大丈夫だよ。そればっかりはこの船に帰る決心をつけた時に諦めてるし」







この船の船長の胃袋は。
それはそれは人知を超えていて。

彼の胃袋を満足させるには、それこそ休む間も無く料理を出し続けなければならないワケで。

云っている内容の割に、矢張りと云うか。
サンジの表情は明るくて。







彼と共にココへ帰る事にして。
本当に良かった、と思えた。







「今日は疲れただろう?もう座ってなよ、には俺の特製料理を作るからさ」







食物を口に出来ないに。
せめてもの償いとばかりに。
水モノだけが口に出来る彼女に。

特別に手を加えた料理を作ろうと。
サンジはサンジなりに気を使ってくれて。







「……そうね、お願いしようかな…」







その気持ちだけで嬉しいのだけれど。
本当はモノを口の中へ入れる行為自体がもう苦痛になっていたけれど。

彼の気持ちを、立場を無にしない為にも。
本日が宴会だと云う事も加えて。

何も口にしなければクルー達が怪しむから、と。
有り難く、彼の申し出を受けた。







その痛い程の優しさに。
今だけは浸っていたくて。







アタシはサンジに手を伸ばして。
サンジはその手を受け取ってくれて。

手を繋ぎ合って。

離れて行くであろう島へと視線を飛ばし。
彼はアタシの背後から大きな胸へと抱き入れてくれて。







その温かさに。
優しい腕の感触に。
彼の存在に。

酔いしれた。



















ゾロが碇を上げて。

ルフィが『出航』と叫んで。

ウソップとチョッパーが帆を張って。

ナミが方向を示して。


















この島とも、もうサヨナラをしようと。

二度と戻りたくないと思える程のこの島を。

やっと出ようと。

出航しようとしたその瞬間。



































―――ドォォオンッ!!





































GM号の直ぐ真横に。

何処からか放たれた大砲の弾が。

撃ち込まれて。






ソレに驚いたクルー達が。

弾の飛んで来た方向へと走り、見やれば。




















何処に隠れていたのか。

全ての景色を塞ぐかのように。

海軍の船が、所狭しと犇めき合っていて。






















自分達が包囲され。

逃げ道を、逃走ルートを塞がれている事を知る。































手回しの良さ。

このルートを選ぶと云うのを知る事実。

地形を利用した船の配置の仕方。

ナミの航海の仕方を知るこのやり方。







目当ては自分だと云う事は百も承知なれど。







自分を恨んでいる人間が知らせたのは分かるけれど。







それでもココに船を泊めてある事を知る人物はそうそう居る筈も無くて。







前回の、自分を探す時ですら海軍にこの場所は知られなかったとナミは云っていたのに。







身近に居る誰かが自分達をサしたのだと云う事が分かるが。

それでもココに居るクルーはこんな事はしない。







絶対にしない!!
































だったら……




















だったら、この事実を知っていて




















尚且つ、このルートを選ぶであろう事を知る人物で






















アタシの事を心底、嫌っていて



















海軍に情報を流すなんて事をする位、恨んでいて




















殺したい程アタシを憎んでいる人物なんて





















そんなヤツは一人しか居ないっ…!









































………マリ……っ!!
































アンタって人はっ…
































自分だってこの船のクルー達に助けられたんでしょう?
自分だってこの船の上で生活してたんでしょう?
自分だってこの船の一員だったんでしょう?

思い出だって沢山詰まってる筈でしょう?







なのに何故っ!!?






























何で仲間を売るような真似をしたの!!?





























どうせアンタの事だから。

サンジにだけは手を出さないように頼んだのだろうが。






そんなの甘過ぎる!






サンジだってこの船のクルーなんだ。
彼が戦わないワケがない。

そして彼が海軍へ敵意を見せれば。
彼等は大義名分を手に入れるワケで。

サンジも間違い無く海賊として捕らわれる。







捕らわれるダケならまだマシだろう。







下手をすれば……



















何でそんな簡単な事が分からないの…?






確かに海軍にだってそんな奴等ばかりじゃ無いって事は分かってる。

それでも相手がアタシなら。
『氷の』を本気で潰す為にやって来たのだとすれば。
加えて『麦藁のルフィ』を捕縛する為だったのなら。

それ相応の奴等が手配されているのだろうし。







そんな奴等に何をどう言い訳するって云うの?







悪くすればアンタ自身ですら海賊として捕縛されるだろうに。

どうしてそんな簡単な事が分からないの?
それともそうしてまでアタシを彼から引き離したいの?
































あぁ……

そこまでする程
そんな手を使う程
仲間を売る程
手段なんて選べる余裕も無い程に






形振り構わない、捨て身の戦法できたんだもんね






























それ程に






























アタシの存在が許せないんだね……



















……マリ…

















確かにアタシがこの世に存在する限り。

サンジはアタシに謝罪しようとして。
償おうとしてアタシの傍に居るだろうし。

アタシはそんなにも。
存在自体を疎まれる程に嫌われた、か。







それなりの手段で。
それなりの方法で。

アンタを追い詰めたのは確かにアタシだ。



































分かったよ……

































最初に奪ったのはアンタだったけど。
最初にアタシから彼を奪ったのはアンタだったけど。

でも今は確かにアンタの彼なんだもんね。






アンタ達の間で何があったかは知らないけれど。
アンタをそんな風に追い詰めて。

こんな事をさせたのは、……アタシだもんね。


















コレも計算の内だとしたら。

ううん、多分アタシがこうする事をアンタは分かっていたんでしょう?
随分と人間、変わっちゃったんだねぇ……






























一瞬だけ、辛そうな顔をしたは。

繋いでいた手を離して。

サンジへと向き直り。

両手で彼の顔を挟んで固定させ。

自分へと向かせて。







一回だけキスをした。





















「……ごめんね…サンジ…」




















その言葉だけで。
そのキスだけで。

彼女の全ての考えを覚ったサンジは血相を変えて。






「なっ……ダメだ!絶対にダメだ!!」






怒りを含むようなサンジの声に。
クルー達はソチラを振り返れば。

どうにかして引き止めようとしているサンジに。
無情にも全てを諦めたような顔をしたが居て。







彼女が何を考えているかを瞬時に覚り。







っ!? アンタ何考えてんのよ!」

「そうだぞ!俺達は仲間なんだ!誰が何と言おうとも絶対に仲間なんだからな!!」

「もう勝手に船を下りようとすんじゃねえぞ!!」

「そうだ!あんな奴等は俺達がどうにかするから!!」

「行かないでくれよ!もう何処にも行かないでくれよ!!」







其々が引き止めようとするが。

は只管に儚い笑みを浮かべるだけで。


















イヤな予感が。

その笑みがどうしてもあの時とダブってしまって。

考えたくない未来の事が。

最悪の出来事が簡単に予想されてしまって。


















もう離さない、とばかりに抱き締めているサンジに。
何処にも行かせない、とばかりに縋っている彼を嘲笑うかのように。

彼女の能力はその力を発揮して。







どんなに力を込めても。

どんなに引き止めようとしても。

彼女の身体はスルスルとスルスルと。

水に変わって擦り抜けてしまって。







「っ…!、っ!! 頼むよ……頼むから!!」







悲痛なサンジの声にも。

止めようと周りを囲むクルー達の身体も。

全てを擦り抜けて。







水へと変化した彼女の身体はあの時。

彼女が落ちた所へと移動する。



















「コレはアタシに向けられた海軍だ。アンタ達は早く逃げて」







一人でこれだけの海軍を相手にしようと云うのか。
はそう云って。







「ふざけるな!お前一人でどうやって戦うって云うんだ!!」







怒ったルフィの言葉にも。
は笑みを浮かべた儘で。








「……ルフィ…、アタシはもう昔のアタシじゃ無いんだよ?」








言外に自分は『氷の』なのだと。
海軍に二億もの賞金を掛けられたお尋ね者なのだと、そう云うが。

幾ら何でもこの人数に一人で向かって行くのは自殺行為としか映らなくて。







「俺達は仲間なんだよ!どうしてお前だけを残して行けるって云うんだ!!」







何度も何度も手を伸ばして彼女の身体を掴もうとするが。
液体化した彼女の身体が掴める筈も無くて。

無駄だと知りつつも。
それでも何度も何度もソレを繰り返して。







「……ありがとね、…ルフィ……迎えに来てくれて、本当に嬉しかったよ」



















ゆっくりと彼等に背を向けて。

ルフィが、ゾロが、ナミがウソップがチョッパーが。
どうにかして引き止めようとするが。

それでも止められなくて。







その行為をしないサンジが。






























「………、だったら戻って来いよな?絶対に戻って来いよな!」






























そんな科白を吐いたサンジにクルー達は信じられないような眼差しを送ったが。







「お前は『氷の』の名を持つ女なんだろう!? だったらこれ位の海軍なんてメじゃねぇんだよな!
 だったら絶対に帰って来いよな!俺の、俺達の所に絶対に帰って来るんだぞ!!」







驚いたような顔をしても振り返って。

苦笑いのような、含みのある笑みを浮かべて。







今回のこの海軍の手配の良さに、彼だって誰が何をしたかを気付いているだろうに。
その科白を云って。

即ち、自分はココでお前の帰りを待っているから。
奴等を蹴散らして。
壊滅させて、帰って来いと。







ソレはある意味、彼女との別離の言葉だったのだろう。

マリが最も恐れたのはコレだったのだろう、と思える言葉を吐いて。







現状態で、二億の賞金首。
加えてルフィの額も一億だ。

海軍だってこれだけの艦隊を送っておいて。
大負けをしたならば。

今度こそ手を出して来ないだろう、と。

彼は彼なりに考えていて。







もう、彼女の事はイイから、と。
俺にはお前だけで充分だから、と。

以前のような強気な笑みを向けてくれて。

幾ら自分を愛してくれていても。
こんな手段を使うような彼女へ、残る気持ちも砕け散ったから、と。







『氷の』と呼ばれるお前事、受け止めるから。







そんな意味合いが込められた笑みに。

も優しく微笑み返して。







「……そうね、約束するわ…」







意志の有る。
強気なサンジの笑みと。
彼女のその笑みで。

漸く頷きを得られたクルー達は。

彼が全てを吹っ切れた事を知り。
彼女の行く手を開けてやる。






「絶対だからな?今夜は宴会なんだからな?」






自分よりも遥かに額を超えるに。
ルフィはそんな言葉を掛けて。

「お前は食いモンの事だけか!」

と、他のクルー達に突っ込みを貰って。






明るい笑いが。
場違いな爆笑が辺りを包み込んで。






「そうね、ルフィの胃袋の為にも手早く済ませちゃいましょう?」






物騒な事を言いながら。
は右手を上げた。

未だ出航していなかった船の後から。

先程使ったであろう地下水を大量に浮かび上がらせ。






不敵な笑みを浮かべて。

















本当の意味での戦いが。

今、始まろうとしていた。







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