色々と
本当に波乱に満ちた人生だったけど
何度も死にたくなるような人生だったけど
死んだ方がマシだったんじゃないか、と思える人生だったけど
それでもアナタに会えたアタシの人生は
そんなに悪いモンじゃない、と思えたよ……
ね、そうだよね
……サンジ…
so long20
右手で操る大量の水。
地下水は後から後から湧き出てて。
その手に操られる水分はどんどんと容量を増し。
自分の能力で操れるギリギリの処まで溜めに溜めて。
海軍の船の数だけ分散させて。
一気に彼等の船のマストへと放った。
水はの意志通りに動き。
メインマストへとぶち当たり、ソレをへし折った。
彼女の能力を改めて目の当たりにした海軍、ルフィ達。
桁外れなソレに誰もが目を剥いて。
驚きに満ちた目で。
海兵達は恐れおののいた目で彼女を見た。
彼等の視線を一身に受けた彼女は誇らしいまでの笑みを浮かべ。
ルフィ達を見返していた。
一瞬で海軍達の動きを封じて。
そして、まだまだ湧き出てくる地下水は。
懐くかのように彼女の周りを取り囲んでいて。
余裕を持て余すはまた大きな水の弾を作り出し。
ソレを海軍の船の横っ腹にヒットさせる。
その衝撃で破壊された船の側面から、海水が入り込み。
何隻もの船が沈んでいく。
逃げ惑う海兵達。
どうにか体制を整えようと躍起になって指揮を執る大佐。
海へと放り出され、木っ端にしがみ付き途方に暮れる下っ端。
戦う意志を捨てずに彼女へと銃を向け、発砲する中佐。
ソレを見て参戦する残兵。
何発もの弾丸が彼女へ向かって飛んでくるが。
何発もの弾丸が彼女の身体へと命中するが。
その弾は全て通り抜けて、後方へと擦り抜けていって。
意味を成さないその行為に。
海兵達は『あんなの人間じゃない』だの『化け物』だの云っているが。
そんな呟きはもうの耳には届かない。
敵の攻撃に目もくれず。
誇らしげに立っているの姿を見詰め続けるルフィ達。
の意識は全てが全て、彼等の方に向いていたのだから。
だって逃げろと云ったのに。
ココは自分に任せて先に行っていろと云ったのに。
彼等はソコに船を留まらせていて。
の帰りを待っていて。
彼女の力なら。
あんな力を持つ彼女なら。
そう長い時間を待たずに済むのだろう、と言いたげにそこに留まって。
未だ海軍の領域から出てもいないのに余裕すら見せている彼等に。
は苦笑いを一つ零すと。
早く帰ろうとばかりに。
身体を霧散させようとした。
途端、現れた人影。
恨みの籠もった眼差しで
だけを見据えて
他のモノなど視界にすら入れず
意味不明な言葉を喚き散らしながら
正気を失った眼で
一直線に彼女へと走って
走って、走って、走ってきて……
太陽の光を浴びて
その人物が持つナイフの刃がキラリと反射して
そして刺さる、と思われたその場面
でもやっぱりは悪魔の実を喰った能力者で……
ぶつかって、刺さる筈だったその人物は
ヌルリとした冷たい感触を感じながらも
彼女の身体を擦り抜けてしまい
酷く動揺して、取り乱して
「……何で?! …何で刺さらないの?!! どうしてアンタは死なないの?!!」
カン高い声で叫び声を上げ。
「死になさいよ!アンタなんて死んじゃえば良いのよ!!
どうして生きてるのよ!!」
何度も何度もを傷付けようとしてナイフを振りかざし。
切ろうと、殺そうと躍起になるが。
「賞金首の犯罪者のクセに!人殺しのクセに!!
振られたクセに!! あの船に居られなくなって逃げたクセに!!
何で今頃ノコノコと現れてアタシのサンジを連れて行こうとするのよ!!
そんなの絶対に許さないわ!!!」
その攻撃は全て無効化して。
掠り傷の一つも付けられずに。
言葉だけは彼女を傷付けて。
「許さないんだから!殺してやるんだから!!
アタシからサンジを奪おうとする奴は皆、殺してやるんだから!!」
傍目に見ても。
彼女がを殺せる事が出来るとは思えないのに。
そんな武器で『氷の』を殺せる筈が無いのに。
それでも彼女、マリは只管にを傷付けようと。
殺そうとして。
大切な事を見落としていた。
ソレを……
その取り乱した姿を
未だ、離れきっていないGMから
クルー達と、愛したサンジに見られている事を…
滑稽にすら見えてしまう。
まるで、赤子との喧嘩のように。
アリがゾウへと喧嘩を売っているようなその姿に。
憎しみを、持てる憎悪の全てを表情の前面に表して。
醜いまでの醜態を晒しているその姿に。
哀れみこそ感じるが。
サンジの心を遠ざけて、凍てつかせている事に。
激昂しているマリは気付かない。
気付けない……
「…………もう、…気は済んだ?」
冷ややかに。
感情を再び凍らせてしまったかのようなの声が。
昂って、興奮して、躍起になっていたマリの脳にストップをかける。
「………あ……んた………」
聞いた事も無いようなの声に。
手配書で見た事しかなかった冷たい、感情の一切を捨てたの顔に。
今迄、感じた事に無い殺気を身体中に感じて。
マリは硬直したかのように動きを止める。
「もう気は済んだのかって聞いてるのよ」
サンジに再び出会って。
昔の仲間にまた会えて。
また昔のように迎え入れてもらえて。
全てを許したように。
過去の事にしたかのように思えたの感情が。
再度、凍りついてしまうのに充分だったマリの発した言葉達。
「……な……何なのよ…あ、んた…」
『こんな人、知らない』
それがマリの正直な思い。
だって、今。
目の前に居るのは、昔知っていたじゃ無い。
人を、女を奴隷のように売り買いしていた奴等から身を捨ててまで守ってくれたじゃ無い。
楽しそうにサンジとの付き合いを話してくれたじゃ無い。
自分達の関係を知ってしまって全てを拒否したじゃ無い。
許せないから、認めたくないから自分の存在を消してしまおうとしたじゃ無い。
アタシ達が探し、求めていたじゃ無いっ…
この人はアタシの知ってるじゃない…っ!!
今更ながらにその決定的な迄に変わりきったに。
その事実に気付いたマリは目の前が真っ暗になったかのような気がした。
だって、昔のようにあの船に。
優しい彼等の傍に居たから。
アタシを選んでくれた彼の、サンジの居る船に。
当然のようにサンジを傍に居させて。
当たり前のような顔をしてあの船に乗っていたから。
だから昔に戻ったかのような気がしたのに。
一人だけ、自分だけ過去と今を繋げたような気がしたのに。
なのに……
コノ人ハダレ……?