『アタシはの血になりたい…』







そんな言葉を今更のように云って
少しでもアタシの役に立とうとしている『つもり』なの?







おかしいね

あんなに憎んだ筈のアタシに向かって、そんな言葉を云うアンタも
普通であろうならその言葉に心を打たれる筈なのに、一向に何も感じないアタシも







なんて、…おかしいんだろうね……



















so long22



















もう、許す許さないの問題なんかじゃ無く。
生きるか死ぬかの問題でも無く。

簡単に云ってしまえば『興味が失せた』が一番、近い表現なのだろうか。







マリが自分の全てを持って誠意を見せたであろうその言葉にも、何の感慨も持てず。

今更ながらに、心の何処かが。
心の内ですら凍ってしまったのか、と。

そんな妙な悲しみが湧いただけで。

殺すとか殺さないとか、許すとか許さないとかも。
もう、自分には関係無いかのように思えて。







あんなに執着していた『復讐』の文字が消えて無くなってしまったかのように。
生きる糧であったようなソレを失い、この先どうしたら良いのか。

途方に暮れてしまったを、誰が責められるだろう。

今迄、散々に命を奪い、摘み取って来ただろうその行為にも。
もう意味が持てなくて。

だからと云って恨んだ、憎んだマリを殺そうとも思えなくて。




















あんな騒ぎを起こしておきながら







自分に残ったのは






































こんなにも空しいモノだけで


































考えるのも億劫になってしまう程の無力感が身体中を支配して。

迫ってくる海軍の兵達も。
早く帰って来いと叫ぶ仲間達の声も。
自分で呼んでおきながらも『逃げて』と云う昔の親友にも。

何も感じる事が出来なくて。
















もう、どうにでもなってしまえ






なんて、思えてしまって……
















自嘲気味な笑みが無意識に浮かんで。

ソレを見たマリは更に悲しそうな顔をして。
躍起になってアタシを逃がそうとして。

無駄だと知っているのにも係わらず、刀を振り上げて突っ込んでくる海兵達。
ライフルを持ってコチラを狙っている海兵達。
彼等の指揮を執って、アタシを捕まえようと、殺してしまおうとしている大佐達。

何処かで見た事のある大佐の一人が何かを怒鳴っているのが視界の端に映るも。
どうやってもこの無気力感は拭えなくって。

斬りかかられても切れないアタシの身体。
撃たれても擦り抜けてしまうアタシの身体。

意思を持たずしても悪魔の実がアタシの身体を守ってくれて。


















……誰もそんな事、望んでいないのに


















斬られれば真っ赤な血が飛び散れば良いのに

撃たれれば小さな穴が空く身体が良いのに

心臓がその動きを止められる位の数の銃弾を浴びても浴びても
生きていられない程の銃弾を受けても受けても、斬られても斬られても

全てが無効化してしまって






余計に空しさだけがつのっていって

















そんな中、短い悲鳴と共に隣で人の倒れる音がした。

真っ暗な眼でソチラを見れば。

苦しそうにしたマリが。
己の肩口から血を流し。
苦悶の表情を浮かべて。

それでも何処か諦めたような顔をして。

やって来た海兵達に身柄を確保されそうになっていて。






ちょっと羨ましいような思いに駆られながらも。

傍、と気付く。

















もしかして






もしかしたら、マリは






アタシと喋っていたのを、逃がそうとしていたのを見られていたマリは






アタシの仲間だと認識されて






彼女は






マリは……

















処刑されてしまう……?


















アタシの仲間だろうから。
大量虐殺をしたアタシを逃がそうとしていたから。
全ての事柄を知った彼女は、きっと何の弁解もしないだろうから。

今は、今の状況では彼等は認めないと思うのだが。
それでもマリは彼等の、アタシ達の仲間だと云うだろう。

そうすれば本当にマリは処刑される?






海軍に殺される?






アタシでは無い、こんな似非正義を掲げたバカな奴等に?






何の関係も無い、こんな奴等に?






アタシがこんなにも囚われていた彼女を?

















そんなの……許せない…


















アタシじゃない者が


















こんな思いをさせられたアタシを差し置いて


















こんな奴等に殺されるなんて


















許さない!!



































するする、と。するする、と。

近付いていた海兵達が気付かない位の薄い水がゆっくりとゆっくりとマリを両脇から抱える海兵達に近付いていって。
歩かせて、連行しようとしている彼等の足元へと忍び寄って。







誰も気付けない中で、ガッチリと掴んだ海兵達の足。

途端、動けなくなった彼等。
走る動揺と声。







何をやっているんだ、と怒声を上げながら掴みかかってくる海兵の一人に。
暗く沈んだ眼を向ければ。

引き攣ったような声を上げて後退さる男。

第一、彼の手、腕はアタシの身体を擦り抜けていて。

暗い、暗い目を向け。
『執着』だけを。
その感情だけを目の奥に漂わせ。

場の空気を凍らせながら開いた口からは……


















「……マリを何処に連れてくの?」



















見開かれた目。
ソレは云われたマリも一緒で。







「もしかして……アタシが何もしない内に、アンタ達がマリに処罰を与えるなんて事、しないわよね」







その場に居た海兵達、大佐達を水で絡めとって。
動きの一切を封じてやって。







「それはアタシの獲物よ?イキナリ横から出て来て掻っ攫うつもり?」







感情の欠片を微妙に受けた水達は。
絡めとった海兵達の身体を締め付けて。

の傍に居る輩程その締め付けは酷くなるようで。

一番近くに居た、彼女の身体を擦り抜けた海兵が。







断末魔の悲鳴を上げながら、……絞め殺されていく。







ぐしゃりと嫌な音を立てながら。
腕が折れ、肋骨が折れていき、血を吐き出しながらも助けを求める言葉を絞り出す男。

そんな彼へとは視線を向けると。







「…五月蠅い」







そう一言呟いて、片手を出し。
彼を握り潰そうとした途端。

聞こえてきた声。


















っ!! ヤメロ!!」




















その主は太陽の光をさんさんと浴び。
輝く金髪を揺らしながら、懸命に此方へと叫んでいた。

何時の間にかこんなにも近寄っていたGM号。

その中には心配そうに見詰める仲間達が居て。







懐かしい

あの時の

自分が船から飛び降りる時のような顔をして

此方を見てて



































もう、……いいや




















アタシの事を受け入れてくれた彼等、サンジの所へ帰ろう







もう、……帰ろう…



















そんな風に思い。
ゆっくりと上げていた手を下ろして。

それに伴い彼等を縛り続けていた水が重力に従いながら地面へと落ちていく。






自分の身体を水に変え。
この儘、一気に彼等の船へと飛ぼうとして。

身体を霧散させようとしたその瞬間に何気なく見て、見えてしまった一人の海兵が。




















手に散弾銃を持って。

狙いをアタシじゃない者へと向けて。

ソイツが狙っているのは。

狙っているのは……



















自分を止めた

アタシの唯一の

帰れる場所の

太陽の光を浴びて

キラキラと光、輝いている

帰って来るアタシを見て

安堵の笑みを浮かべている







笑っている


















アタシの光っ……


















みんなっ






サンジ!!


































銃声が響き渡るより早く


















その海兵が引き金を引くより早く



















霧散させていた身体を水へと戻して



















薄く薄く、それでも彼等を守れる位の厚みで



















仲間である彼等を囲って、守って



















囲い終わった途端に響いた銃声



















水になった身体に感じる突き刺さるような銃弾の数々


















突き抜けそうになるソレ等を


















渾身の力でもって


















渾身の精神力で、心で、塞き止めて



















身体中に走る激痛
悪魔の実を食べてから感じた事が無かった痛みが全身を駆け抜けていって

それでも彼等を守りたくて、守りたくて

自分の持てる全てでもって
自分を受け入れてくれた彼等を守ってあげたいの




















だから……お願いっ…



















お願いだから抜けないで!































驚いた顔で

守られた彼等は目を見開いて

銃弾を止めようとしている

自分達を囲む水のを凝視して

苦痛に歪む彼女の様を見て

伝染ったかのように彼等も苦痛に歪んだ顔になって

怒りを悲しみを織り交ぜたような複雑な表情をして



















っ!ヤメロっ…やめろぉぉぉおっ!!」



















続け様に響く、飛んでくる銃弾の嵐



















突き抜けそうになるそれ等を

崩れそうになる身体で止めて






止めて、止めて、止め続けて…


















っ!! …お前っ!ヤメロよ…止めてくれよっ!!」

「退け!っ…お前が、お前が死んじまう!!」

「やぁっ……いやぁ!! っ…」

「俺達なら大丈夫だから!だから、っ!!」

「止めてくれぇぇええっ!!!」



































撃ちつくされたのか。
立て続けに響いていた銃声が止んで、静けさが戻って。

空中に浮いて、彼等を守るように浮かんでいたの水が崩れ落ちるようにして降ってくる。

水分であった彼女の身体がするすると、の形を模っていって。







そうして現れてくる銃弾が開けた彼女の、身体の、傷。

傷、傷、傷。







の身体から、抜けていく液体が次第に色を帯びてきて。
真っ赤になったソレは、瞬く間に船の床を染め上げて。

彼女の纏った服はボロボロに穴を開けて。
ソコから流れ出した血が溢れて溢れて、止まらなくて。







サンジが急いで抱えた彼女の身体が急速にその温度を失っていって。

元から冷たかったの身体が、どんどんとどんどんと冷えていって。







「チョッパー!! 頼むっ、を、早くっ!」







慌てて近寄って来る船医が彼女の身体を診る前に。
その出血量、受けた玉数で既に手遅れなのを覚る。

そして診るには診たが、矢張り手の施しようが無くて。

悔しそうに歪める船医の顔を、止まってしまった震える手を。
誰もが見てしまって。

絶望が、各々の胸へと突き刺さる。







「そんな………っ、……」







朦朧とした意識を懸命に繋ぎとめているのか。
表情の無い顔で、血の気の失せた顔で、目の前のサンジへと視線を合わせた彼女。







「何で……、何でっ…俺達を守ったりすんだよっ!!」







その言葉で彼女は彼等を守れた事を知ったのか。
薄っすらとした笑みを浮かべていて。







事の次第を見ていた海軍大佐の一人が。
肩を負傷しながらも彼女の名を呼びながら海へと身を投げ出そうとしているマリを引き止めて。

その身を煙へと変えて、彼女の身体を抱えあげ。
暗い感情を引き摺り続けていた、今回の目的の女の乗る敵船へとその身を飛ばした。







煙から人へと姿を変えて。
抱えて来た女を放してやれば。

マリは一目散に自分が貶めた女の所へと走って行って。
愛した男に抱えられた彼女の元へと行けば。







っ、アタシの血を取って!」







そんな科白を叫び出して。







「血があれば大丈夫でしょう?そんな位の傷だったら治るでしょう?!」







泣きながら叫んで。







「アタシだったらどうなっても良いから、だからアタシの血を使って!お願いだから!!」







叫び続けて。
彼女の手を掴んで自分の心臓へと導き、押し当てて。

しかし、懇願するマリの願いを拒むようにして。
残る力でその手を離させて。







「…もぅ……良、いの…」







安らいだような顔をしながら。
そんな科白を途切れ、途切れで吐き出して。







「何が良いのよ!アタシはアナタに何もしてあげてないのよ?! せめて……せめてこれ位させてよぉっ…!!」

「……そうだよ…俺とマリはお前に何の償いもしちゃいねぇんだ。頼むから俺の血も貰ってくれよ…っ!」







その言葉を聞いた仲間達も。

「高が血くらいでお前が助かるんなら俺のも使えよ!」

「そうよ!、早く抜き取って!!」

「幾らだって使って良いからっ!」

「俺のも目一杯使って良いからっ!」

………」

次々に自分達から進んで血を抜き取れ、と。
そう云って。






でも。
それでも彼女は決して首を縦に振らず。


















「何でっ!何でなんだよ!! 俺はっ…俺達はお前を失いたくないんだ!!」

















悲しい、悲しい…

サンジの悲痛な叫び声がその場に木霊して。
彼の目は止まる事を忘れたかのような涙を流しながら。

どうにか彼女に生きて欲しい、と。
死なないでくれ、と。

懇願して、縋り付いて、説得しようとして。



















でも、彼女は。

は、今。






この上無い幸せを感じていた。


















大好きな仲間達を、この呪われた身体で守る事が出来て。
大好きな、自分よりも愛してしまった男を守る事が出来て。

守ったが為に、ボロボロになったこの身体を。
その愛した男が抱いてくれて。







最後であろう、最後にしたい、自分のこの時間を。

幸せだったあの頃の仲間達と過ごせるだなんて。







あんなにも数多の命を奪ってきた自分が。
決して許される筈が無いと思い続けてきた自分には少々、不釣合いな位に幸せで。







こんな最後が迎えられるだなんて。



















「ね…ぇ………み、んな……アタ…シ、…しあわ、せ…よ?」



















安らいだ、安堵の表情で。
ゆうるりと口の端を上げて。

笑みを浮かべて。



















「…サン、ジも……マリも…、もぅ……良いか、ら…」




















―――もう、アタシに囚われなくて良いから……




































「あぁ………ぁっ…た……かぃ…なぁ………」





































やっと解放される自分に。

は心底安らいだ表情を浮かべ。

少し、疲れたように一つ溜息を付いて。

ゆっくりと目を閉じて。







その儘、いってしまった……







誰の手も届かない

遠い遠い場所へと……












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