薄っすらとした笑みを浮かべたままで
見た事も無いような安堵の笑みを浮かべたまま

あの時から狂ってしまった運命を生き続けてきた






静かにその生を終えた……



















so long23



















こんな笑みを浮かべて死ねるなら。

きっと彼女的には満足出来る最後だったのだろう、と。
その場に居る誰にでも簡単に、そう推測できるのだが。

それでも残された彼等はそれで納得がいくかと云えば、そんな筈は無く。






再会したばかりだったのに。
やっと会えたばかりだったのに。

捜して捜して、捜し続けて。
どうしても彼女を救ってやりたくて。
自分達のこの手で救ってやって、尚且つまた一緒に船に乗って、馬鹿をやって。

それこそ昔のようにに笑って欲しかったのに。

海軍なんかにカマケテいないで。
をあそこまで追い詰めて、船から飛び降りるなんて行動を起こさせるまで追い詰めた女の事なんて放っておいて。

自分達の所へと、只、帰ってきて欲しかっただけなのに。






なのに一方的に庇われて。






自分達の制止の声にも耳を貸さず。
自分達の事を、サンジの事を守る事だけを最優先して。

己の先の事なんて考えもせず。
あの時、彼女を止められなかった自分達の謝罪も、許しを請う事も。
まだ何もしていないのに。

これから先、もっと楽しい事を沢山沢山感じてもらって。






今迄の事なんて忘れる位に

幸せだと感じて欲しかったのに……






なのに何では冷たくなって

こんなにも血を流して

血の気の失せた顔色で

高々、死ぬ間際に仲間達に囲まれていたってだけなのに

なのにこんなにも幸せそうな顔をして

満足したかのような…






笑った死に顔で……




















「………ぅ……あ、………っぁ、うぁあああああああああああぁぁっ!!!!!」




















真ん丸に見開いた目のまんまで。
船長が空へ向かって悲鳴のような叫び声をあげた。
そしてその叫び声を上げたまま、海軍の、彼女を撃った輩の居る方へと手を伸ばし。
鬼のような形相で飛んで行った。






三本の剣を扱う剣士は、一言も言葉を発する事無く。
腰に下げた名刀を握り締めるように、音がする程強く掴んで引き抜いて。
無表情であるにも係わらず、酷い怒気をその身に纏って。
一足先に飛び出して行った船長の後を追うかのようにして海軍へと向かって飛び出して行った。






ポロポロと、ポロポロと。
流れる涙を拭う事すらしない狙撃手は。
頭の上にあるゴーグルを掛けて、表情を隠し、踵を返す。
向かった先は大砲のある場所で。
少し後から大きな音と共に大砲が撃たれて、壊れかけていた海軍の船を大破させていった。






身体中にあけられてしまった彼女の傷に、施す手立てが無かった事で。
酷く自身を責めている船医は。
大きな目から止まらない涙を零しながら、呟き続けていた。
『ゴメ、ン…俺……医者なのにっ……なのに助けてあげられなかったっ…』
小さな蹄の手を震わせて、只管に謝り続けて謝り続けて……
出来る治療が無かった、患者自身が助かる気が無かった事なんて彼には理由にならなくて。
只管に只管に謝り続けていて。






謝り続ける船医の横に居る航海士は、彼を慰める事すら出来ず。
矢張り流れ続ける涙を止められなくて。
あんな風になる前から、ずっと彼女の事を妹のように思い続けていて。
彼女が泣き続けているのを知りながらも、救ってあげられる手立てが見つからなくて。
どんなに褒め、賞賛されている自分の得意分野である筈の機転の良さや問題解決への頭の回転の速さ等。
クソ食らえと思えてしまう程に何の役にも立たなくて。
助けてあげたかったのに。
笑って欲しかったのに。
また、一緒に航海したかったのに。
なのにその願いは、決して叶わないモノへと変わってしまって。
不甲斐ない自分への悔しさと、後悔と、色々なモノが複雑に織り交ざってしまっていて。
涙を止める事が出来なくて。
その細い肩を震わせ続けていた。






この惨劇を作り出してしまった原因の、『元』親友は。
まさか自分がした行為に寄って、こんな事になるとは夢にも思っていなくて。
一時は本当に死ねば良いと思っていた。
それは紛れも無い事実。
しかし、それが本当に現実に起こってしまえば。
思っていた時と条件が、考え方が、何故彼女があんな風になってしまったのかと云う理由を知ってしまった今では。
とてもじゃ無いが『死んでしまえば良い』なんて思えなくて。
それでも、生きていて欲しいと思った彼女は死んでしまっていて。
自分が願った通りに死んでしまっていて。
あの時、本当に自分の命を捨てても良いと思って彼女の手を取ったのに。
なのに彼女は自分の血を抜き取ってくれなくて、償いをさせてくれなくて。
自分のしてしまった行為に懺悔して、許しを請わなければいけない相手は。
永遠にその機会を与えてはくれない状態へとなってしまい。
もう、自分自身。一体どうして良いのか分からなくて。
押し寄せてくる後悔と自責の念に囚われて、身動きも出来ない程に束縛されて。
彼女の安らかな死に顔を、ぼやける視界で見続けているしか出来なかった。


















呆然と立ち続けて、海軍の下っ端達の攻撃をかわす事なく、全ての攻撃をその身で受けて。
幾ら彼女の身体が悪魔の実を喰って、常人離れしているからと云って。
見ている此方は、もしかしたら彼女が死んでしまうかもしれない、と。
もし、万が一の事を勝手に予想し、怯えて、どうにもその状況が不安を呼んで、堪えきれなくて。

だからこそ声を掛けた。

あんな奴等にかまけていてほしくなくて。
自分が行なった罪の原因の片棒を担いでいる女の近くに居て欲しくなくて。
自分を捨てて行ってしまった女の傍になんて居て欲しくなくて。
早く帰ってきて欲しくて、何処からともなく湧いてくる危機感に耐え切れなくて。

早く、早く、さっきみたいに自分の腕の中へと帰って来て欲しくて。
奇跡のように、再び乗れたこの船へと戻ってきて欲しくて。






一緒に居たくて呼んだのに

なのに、何で?

何で君は俺の腕の中で冷たくなってるの……?






これからなんだよ。

これからの自分の時間の全てを掛けて、してしまった罪を償って。
心からの笑みを浮かべて欲しくて。
穏やかな時を君に過ごして欲しくて。
俺と、仲間達と共に過ごして欲しくて。






でも、それももう……

不可能になってしまったんだね






だからと云って、例え君が死んでしまったとしても。
俺がした行為が、罪が消える訳じゃないんだ。

君を裏切って、追い詰めて、死ぬより酷い目にあわせた挙句、何もしない内に庇われて逝かれてしまうだなんて。
俺って何て不甲斐ないんだろう…ね。

自分自身への嫌悪感で吐き気がするよ。
ううん、いっその事自分を蹴り殺しちまいたい位だよ。






なのに何で君はそんな幸せそうな顔で微笑んでるのかなぁ……






俺と一緒にこの船に帰った時よりも、海軍の野郎達へと一人、突っ込んで行く時よりも。

何でなのかなぁ……






その笑みは確かに俺の腕の中で浮かべて欲しかったよ?
でもそれは決して死ぬ間際じゃ、死んでからじゃなかったのにっ…!






何度も何度も、己の血に塗れてしまった髪を梳いてやって。
少しでも元の綺麗な状態の彼女に戻ってほしくて。

何度も何度もその行為を繰り返すが。
彼女は一向に綺麗になってくれなくて。
それよりも、拭う以前よりも血塗れになっていってしまって。

自分のしたい行為と正反対の行為をしているのに。
一切の余裕を無くしている俺は気付けなくて。






「……ねぇ…ナミさん……。どうしてなのかなぁ……さっきから血ぃ、拭ってるのに…ってば全然綺麗にならないんだよ……」






一枚、フィルター越しに見えるような彼女へと話し掛けても。
彼女は寄り、一層激しく泣いてしまって。

隣に居る、自身を激しく罵っていた船医も酷く悲しげな顔をして。
それでも言葉を発する事が無く。






「こんなに拭いてるのに……何で?………血が嫌いだったのに」






真っ赤になった両手で何度も何度も拭っても。
綺麗になるドコロか余計に血塗れになると云うのに。
血塗れの手では彼女の血は拭えないのに。

取れない血のりにイライラして。
どうやっても消えないソレに怒りを覚えるも。
腕の中に居る彼女の事を考えたらそんな言葉を発するのも憚られて。

サンジは壊れたようにの顔を拭い続ける。





















「……もう、…止めてやれ」






そんな中、静かに響いた男の声。

泣き続けるナミと、どうして良いのか分からなかったチョッパーが其方を向くと。
トレードマークになっている葉巻を珍しく銜えていない海軍の大佐がソコの居て。

その声に、サンジは一瞬だけ動きを止めるが。
更にムキになっての血を拭い続ける。






「それ以上、その女を血塗れにするな」






思いもよらない海軍大佐の声に、今度こそサンジは動きを止めて。






「お前にっ……お前なんかに何が分かるってんだ!クソ野郎!!」






上げられるサンジの声は。
まるで悲鳴のようで……






「お前なんかに………の何が分かるってんだよぉっ…」






聞いている此方の方が胸の痛みに押し潰されてしまいそうな声に。
驚愕で止まっていたナミ達の涙腺を刺激して。

再びポロポロと泣かせてしまう。






大事そうに。
それこそ大切な大切な宝物のように抱いた骸。

ソレを守るようにして、スモーカーに触れさせないように。
視界に入れたくもない、と云わんばかりに彼女の身体を引き寄せて、抱き締めて。

弱りきった子供のような仕草で。
それでも敵意を剥き出しにした目で睨み付けて。

少しでも距離を稼ごうと、彼女の骸ごと擦り下がって。






「来るんじゃねぇよ!どうせの首でも取りに来たんだろうがっ!」






少しずつ歩んで来るスモーカーに、今の自分では対処しきれないのを無意識で自覚していたのか。
持って行かれないように、連れて行かれないように。

強く強く、骸を抱き締めて。






敵意を剥き出しにされた眼差しを向けられても。
身を切られるような声で否定されても、スモーカーは歩みを止めずに近寄って行って。






「来るなっつってんだろ!に寄るな!触るな!俺以外、もう誰もに触んじゃねぇよ!!」






己の正義を掲げ、大衆を守る筈の海軍が。
幾ら海賊相手とは云え。

これでは、この状況ではまるで弱いもの虐めのように感じられて。

骸と化した愛しい女を抱き締め、後退さる仲間が余りにも哀れで。






「お願いよっ……それ以上近寄らないであげて…」

耐え切れずにナミが大佐を引き止めて。
そして思いも寄らずにソレで歩みを止めた海軍大佐スモーカー。

驚いたのは止めたナミだけでなく、傍に居たチョッパーも、サンジも同様に驚いて。






「俺はソイツの首を取りに来た訳じゃねぇ。ツラを拝みに来ただけだ。ソレ以外には何もしねぇ」

「誰がそんなん信じるっつーんだよ!!」






もし彼が猫ならば、全身の毛を逆立てているかのような攻撃的なその言葉に。
スモーカーは少々、ニガイような苦しいような笑みを浮かべて。






「……本当だ。…少しだけで良いんだ。ソイツの死に顔を見せてくれ」






初めて会った時。
彼女は冷め切った冷たい目をしていた。
決して取れないと思われていたその仮面のような無表情を、己の一言で脆くも崩れさせて。
その事実にどうにも彼女の事が頭から離れなくなって。

そして迎えた二度目の出会い。
静かに一人で飲んでいたあの後姿。
聞かなければ良かったとすら思ってしまった彼女の過去。
余りにも辛すぎるソレに、どうにかしてやりたいと本気で思うも。
自分は決して彼女の物語の中心人物にはなれなくて。
それでも、例え少しだろうが、彼女を救ってやりたくて。

どうにかして逃がしてやりたくて見かけた三度目の再会。
向こうは自分の事等、見えてはいなかったようだが。
それでも自分の乗る海軍船にはロクな攻撃を仕掛けては来ず。
遣る瀬無いような気持ちで彼女等を見守っていたら。

昔の仲間達を守るようにして。
全ての攻撃を己の身で守り通して。

とうとうその生を終わらせてしまった……

云ってしまえば、彼女に殺された海兵の数からすれば。
彼女が抱え込んだ、身内を殺された者達の怨嗟にすれば、こんな死に方なんて納得出来ないのだろうが。

それでももう、これ以上、を血に塗れさせたくなくて。
首を持って帰るなんて持っての他。

只、あんなに戻りたがっていた仲間達の元で死んだ彼女の顔を見たくて。
純粋にソレだけを求めてやって来た。






「少し前に、ソイツと酒場で喋った事があってな。俺はその時、生きろと云った。なのにコイツは死んでやがる。
 だからどうしてもコイツの最後を知りたいんだ。……頼む、ホンの少しで良いんだ。顔を見させてくれ」






スモーカーの静かな声と、それ以上近寄らないと云う事実。
加えて彼の目が悲しみを宿らせていた所為か。

何故か彼が云っている事が嘘だとは思えなくて。






そしてサンジは僅かながらも警戒をきれなかったが。
彼女の顔を少しずつ傾けていって。

幸せそうに笑っているの顔を見せてやる。





































「………あぁ……、何て良い顔をしてやがるんだ………」

























スモーカーは、眉間に深い深い皺を寄せ。
悲しみを詰まらせた瞳で彼女の顔を凝視して。

























「あの時、一緒に飲んだ時とは比べモノにならねぇ位に幸せそうなツラしやがって……」
























苦しそうに、それでも僅かに安堵の色が混ざった声で。
苦々しい笑みを浮かべながら。
























「……満足の出来る、最後だったんだな…」



























そう云った。








































自分の知らないを知っているスモーカーが。
敵と云う立場でありながらも、云ってくれたその言葉が。

霞がかかっていたかのようなサンジの頭に、改めてが死んでしまった事を再認識させてくれて。

















「………良い…女だと、思ったんだろう…?」

















無意識に流れ始めた。
やっと流された彼の頬に光る涙。






「……あぁ…思ったな」

「だろう?……俺が…手放しで、惚れちまう位の………最高のレディ、なんだぜ…」






震える声で、スモーカーの方を無理矢理に、引き攣ったような笑みを浮かべて見て。
スモーカーは痛々しい、その笑みを見ていられなくて目を逸らす。






「…なぁ…、……もう二度と離さねぇからさ………もう、お前の傍を離れねぇからさ……頼むよ………」






大佐の方へと向けていた彼女の顔を、改めて自分の方へと向けて。
血に塗れた顔を、愛しそうに撫でて。






「頼むからっ……」






































―――目を、…開けてくれよぉぉぉっ………








































何も空間を隔てる物の無い、その岸壁沿いに。
サンジが上げた悲鳴が鳴り響いて。

闇雲に動き続けていた。
海兵を薙ぎ倒し、海軍船を破壊し続けていたルフィとゾロの動きを止める。

既に壊滅状態へと追い込まれていた海軍隊は、その音にハッとした。

自分達の仲間を数え切れない位に殺したお尋ね者の賞金首。
酷く呪った覚えのあるその女が死んだであろう事実を、その音で察知して。

本来なら歓喜の声を上げても良さそうなのに。
彼等は黙った儘、その場に留まり続けた。






だって、あの声には聞き覚えが無いか?
極、最近に聞いた覚えは無いか?
上げた覚えは無いか?

近しい人物を、恋人を、家族を殺された者が上げる独特の悲しみの詰まった、その悲鳴のような叫び声。

あんなに虐殺を繰り返す人物だから、きっと極悪人。
そんな勝手な決めつけで、勝手にイメージを作り上げ。
殺したって全然平気、悲しむ人間なんて、きっと一人だって居る訳が無い。

……何て驕り

幾ら大量虐殺をする人間だからって、その人物の全てを知る訳も無いのに。
悪を正す事にしか意味を持てずに、殺す事が正義だと信じ込んで。

やってしまった事に対する結果があの叫び。

鬼のような形相で自分達を殴りに来た、その船の船長。
怒気を隠そうともしないで、鉄のような無表情で斬り続けるその船の剣士。

彼等の怒りは自分達が抱えたモノではなかったのだろうか。
彼等がしてる事は自分達がしたかった事じゃなかったろうか。

高額な賞金首の女の死は、強烈な迄の疑問を海兵達の間に叩き付けた。







途絶えない、彼女の死を受け入れられない悲しい者達の悲鳴が。
啜り泣きが、叫び声が静かになったその場所で長い間聞こえ続けていた……












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