どうしても認めたくなくて
どうしても許せなくて
こんな手段を選んだアタシを
許して下さい……
だってこうすれば
ほんの少しでも
アナタの心の中に居続ける事ができるから
例えそれが
『罪悪感』と云う名の感情でも
それでもアタシには嬉しかったのだから……
so long5
『ナンでこんな事をっ……!!』
そんな風に思ったのだろう。
アタシを見るサンジの顔は悲しい程に歪んでいた。
それでも最後にアタシを見てくれたアナタ。
こんな時だけれども。
アタシは少しだけ幸福感を感じていた。
でもそんな気分も海へと落ちた衝撃で。
直ぐに吹っ飛んでいった。
冷たい水の感触が身体中を包み込んで。
荒れた海の水流がアタシを翻弄させて、流していく。
思ったよりも荒れた海。
それはそうだろう。
ほんの数時間前まで、とても荒れ狂っていたのだから。
その流れがの身体をどんどんGM号から離していって。
―――ドボンッ!!
誰だろう……
でもきっとアタシを助けに飛び込んで来てくれたんだろう。
明るい服の色が暗い海の中に良く映えていて。
海水の所為で痛む目を無理に開ければ。
その両目に映ったのは。
最後に怒声を上げた剣豪、ゾロで。
彼は必死にコチラへと泳いできた。
でもそれも海の流れによって中々進まず。
もう帰って…
アタシなんて
こんな危険な海にまで追いかけて来る程の人間じゃないでしょう?
海の中ではお互いに意思の疎通等できるはずも無く。
勿論、言葉が通じる地上でだってこんな望みを叶えてくれる相手では無かったが。
は流れに身を任せきっていた。
彼女にはもう泳ぐなんて行動をする体力が残されていなかったからだ。
追いかけて飛び込んできたゾロには。
その姿が闇に向かって流されて行くかのように見えた。
―――行かせねえっ!!
誰が簡単に行かせるかってんだ
俺はまだお前に何も言ってねえ
お前が好きだと伝えてねえんだ!!
強引に水を掻き、無理矢理にでも前へと進もうとするゾロ。
しかし何故か水の流れに邪魔されて。
まるで海が意思を持ったかのようにの身体を連れて行って。
ゾロとの間には決定的な程に水の流れが邪魔をする。
息が続かず、脳は酸素を求めるが。
それでもゾロはへと進み続けて手を伸ばす。
―――ザバンッ
そんな中、再び後ろで誰かが飛び込んできた音がする。
気にする余裕を残されていないゾロは後ろも振り向かず。
只、に向かって一直線に泳いで行く。
その間にも彼女の身体はどんどん流されていって。
流されていく白いシャツと白い顔しか確認する事が出来なくなっていって。
―――ゴボッ……!!
とうとうゾロの息が切れ。
酸素が欲しくて、苦しくて。
彼の意識は靄が掛かったかのようにかすれていく。
―――…っ……
…――っ…!!
意識が途切れてしまったゾロの身体を。
後から飛び込んできたサンジが抱き留めて。
彼は腹に括られたロープを引っ張った。
すると物凄い勢いで彼等の身体は海上に向かって引き上げられる。
―――ザバッ…
二人の顔が海面に浮かび。
サンジは意識の無いゾロの腹を思いっきり殴った。
何度も何度も殴ると。
彼の口から大量の海水が吐き出される。
僅かながらも意識と呼吸を取り戻したゾロは、仕切りに彼女の名を呼んで。
船から投げられた浮き輪にゾロの身体を通してやって。
サンジは再び海へと潜っていった。
しかし異様な迄に暗いこの海で。
先に落ちて行ったの姿を見つけるなんて事は出来なくて。
サンジは心の中で悪態を付きながらも。
何度も何度も海の中へと潜り。
裏切ってしまったの姿を捜し続けた。
それから三時間後。
そろそろ空も明るくなり始めた頃。
ようやく彼等はを探すのを止める。
海に潜る、と云う行為を果てし無く繰り返した彼等は。
とてもとても体力を消耗していて。
殆どのクルーが甲板に倒れるように寝転がっていた。
静かな静かな朝だった。
次第に上がってくる太陽がクルー達を照らし出し。
その憔悴しきった顔を浮かび上がらせる。
その、どの顔にも『後悔』と云う感情が表れていた。
どうしてもっと早くに気付いてやれなかったんだろう
どうしてもっと彼女の事を考えてやれなかったんだろう
どうしてこうなる事を予想できなかったんだろう
どうして彼女をそのまま行かせてしまったんだろう
どうして悲しいままで行かせてしまったんだろう
考えても、考えても事態が変わる訳では無いのに。
それでもクルー達は己を責める事を止めなかった。
否、止める事が出来なかった。
あれだけ豪語していたのに。
あれだけ助けたいと思ったのに。
絶対に助けてやると
己に誓ったのにっ!!
結局、彼女はいってしまった。
悲しい心を残したまま。
寂しい心を残したまま。
「………くっ…そぉぉおおおっ!!!」
誰のモノとも分からない悲鳴のような叫びが。
蒼く光る海の中へと吸い込まれて、いった……。
それから一週間。
彼等は近くの島とこの海域を行ったり来たりを繰り返していた。
それは居なくなってしまったを捜す為で。
何度となくソコに潜り。
何処ともなく捜し続け。
少しでも情報はないか、と島で話を聞き続け。
遺体が上がれば、血相を変えて駆けつけ。
それでもの行方は知れなかった。
どんなに努力しても。
どんなに捜し続けても。
彼女は彼等の前から消え去ってしまったのだ。
その姿を綺麗に消し去って……
が居なくなって一ヶ月。
とうとう彼等は諦めて、その場を離れる事を決める。
その間、サンジとマリは考えに考え続け。
ゴーイングメリー号から下りる意思を伝える。
そしてソレはすんなりと通ってしまった。
誰も引き止める事をせず。
その二人は静かに近くの島に下りた。
クルーの誰も彼等を責める事は無かったが。
それでも、のように彼等を憎んでしまい、恨んでしまい。
そんな自分達を心底、嫌に思っても。
その気持ちの止め方を誰も知らず。
己を責めながら。
彼等を責めながら。
GM号はその島を離れていった。