アタシの好きな男には惚れた女が居た。

それは自分がこの船の乗る前からの話しだったので、致し方が無かったのだが。






それでもその姿を見ているアタシとしては。






とてもその光景を見ていられなかったんだ……


















waiting for...



















彼等がこの船で旅を始めてから大分、過ぎた頃。
気紛れなこの船の船長が一人の女を連れて来た。

年の頃は二十台の半ばで。
黒い髪に黒い目が印象的な、ヤケに尖った感じのする女だった。

何をどういう風に生きて来ればそんな性格になるのだろうか、と聞きたくなる位に捻くれたソレは。
あのナミをもってしても黙らせてしまうモノで。

彼女は他人を貶す事はしないが。
それでもヒトの考えを自分に押し付けられるのを誰よりも嫌い。
他人に構われる事も嫌った。

その所為か。
彼女は常に一人でいる事を望んでいるようでいて。






本当に誰とも心を分かち合う事をしなかった。

















だが、俺は今。

その可愛げが無いと心底思っていた女を押し倒している。

















本当に何でだろう、と心底思うが。
それでも一旦、初めてしまったこの行為は止まる事が無くて。






思ったよりも柔らかい肌の感触。
至る処を触れば、敏感に反応を返してくる感度の良さ。
出てる所は出てて、引っ込んでいる所は適度に引っ込んでて。

その身体のラインの綺麗さにもビックリだったのだが。
それ以上にビックリしたのは、彼女の『声』で。







普段から誰ともそんなに言葉を交わさない彼女の声をハッキリと聞いたのがツイさっきで。
しかもその声が以外としっかりしていて自分好みの声だったのも以外だったのだが。

耳の後を舐めた途端に上がった声に。
柄にもなく狼狽えたのは確かで。







だってこんな声を出すようには見えなかったから。

そんな事は無いとは思うが。
この女はこういった類の声は極力上げないだろうと思い込んでいた所為か。

以外な程の艶を帯びた声に動きを止めた俺に。
コイツは咎めるような目を向けて。







その目ですら、幾らかの艶を帯びていて。







正直、この女の誘いですら信じられなかった俺が。
この行為に没頭していくのが。

自分でもイヤになる位に分かった……

















切欠はが部屋を出て来た事。

否、正確には追い出されたに近いようなモンだな。






ナミの部屋に行くアイツの為に、コイツは部屋を出ててやり。
その度にこの女は船の甲板に出て、一人。

ずっと月を見続けているから。






その目の中に、幾許かの悲しみが見て取れたような気がしたから。
だから声を掛けたんだ。

普段の俺ならば、自ら女に声を掛けるなんて事は絶対にしない筈なのに。

それは矢張り、この女がココに出てきた意味に気付いた所為だったのか。
己でも気付かなかった動揺が、表に出てしまっていた為だったのか。






声を掛け、酒を呑み合い。
お前も大変だな、と云った辺りから雰囲気がオカシクなり始めて。

自分がナミに惚れている事を気付かれていたのも悔しかったが。
それ以上に驚いた事があったので、それも彼方へ飛んで行って。







だってこの鉄のような女にも。

惚れた男が居ると云うのだ。







否、鉄のような女ってのは只のイメージなんだが。
兎に角、固いようで、冷たいようで。

自分の意志を決して曲げない辺りもそんなイメージを持つ一因になっていて。

だからこそ、この女が男に惚れると云うのが信じられなかったのだ。







だけれども、惚れた男には惚れた女が居る、と云った時のアイツの顔が。
ナミは幸せモンだねぇ…、と云った時のアイツの淋しそうな顔が。







惚れた女の幸せの為に身を引いた時の自分と重なってしまって。
その時の自分と酷く似ているような気がして。







だからなのだろうか?

今のこの状況は。
こうやって黒い瞳の女を押し倒しているのは……



















思ったよりも白い肌。
きっとその肌には紅い痕が栄えるのだろう、と。

そんな事を思いながら、ある一点にだけ集中して。
ソコだけに強く唇を押し当て、吸い上げる。

綺麗に痕が残るように。
マーキングのようなその行為を。
ナカナカ消えないようにと、強く。

自分が付けた、とう云う痕跡をより長く残す為により強く。






「……っつ…」






痛みを持つその行為に。
の口から快感以外の声が漏れ。
僅かに眉を顰められ。

それでも残されたその痕に。
綺麗に残された、真っ赤に咲いた自分が咲かせたその華の色に満足そうに笑って。

ソコを一舐めした。















ソレを皮切りに始められた宴は。
自制心のタガが外れてしまったかのように、延々と続けられ。

女を抱くと云う行為が久し振りだったのもあってか。
それとも彼女の身体が思ったよりも良かった為か、相性が合ったのか。

その白い身体に溺れていって。
何度も何度も求めてしまい。

兎に角、彼女が根を上げるまで。
否、彼女が根を上げてもまだこの行為を続けてしまって。

自分の自制心が如何に脆いかと云う事を思い知らされる一幕でもあった。















甲板で始まったその宴が、漸く終わりを迎える頃には。
遠くの方で朝日が顔を覗かせる時間帯になっていて。

身体には心地よい独特の疲労感が残り。
胸には際限の無い罪悪感が生まれていた。







行為の後の抱擁も無い。
身体だけのソレは。

思いも寄らない切羽詰まったモノを感じさせてくれて。







だって自分達は思いを寄せ合った恋人達でも無ければ。
商売で身体を重ねあう一時の関係でも無い。

この船の上にお互い乗り合う、仲間と云う関係なのに。







何でこんな事をしてしまったのか。







一時の快楽が過ぎ去れば。
言葉に出来ない感情が心の中を満たして。







「……悪かったな…」







その所為で口から出てしまったその言葉に。

彼女はゆっくりとコチラを振り向いて。







「……お互い合意の上よ。…貴方が謝るコトじゃないわ」







年上なだけあって。
その返事すら大人なモノで。

でも浮かべられた笑みは。
彼女も罪悪感を感じていたのか、少々雲っているモノで。







怠そうに服を身に付けるその様子は。

思いも寄らずに儚げな印象を受けて。







「悪かった」







もう一度、その言葉を口にせずにはいられなかった。







その謝罪の言葉に。

お互い合意の上なのだから、と。
謝罪の言葉を否定した彼女は。

今度はそっぽを向いて。







逸らされた視線が、妙に悲しいような気がしたが。

そんな感情を抱くのも。

ほんの一時間前までは激しく抱き合っていたからで。
彼女が縋るように腕を伸ばしてきたからで。







そんな様子の彼女を、一度でも知ってしまった自分には。
以前のように接しようと思っても、ナカナカ上手くいかず。

口下手である自分がこんな時のフォローを上手く出来る筈も無く。
己も気まずそうに視線を逸らした。







沈黙がその場を支配して。

彼女が服を身に付ける音のみが途切れ途切れにするだけで。

















そんな中。

上がってきた朝日に。

キラリと何かが反射して。

自分の目に映り込んできて。







気になって。

ソチラを振り向けば。

の目から。

一粒の涙が零れ落ちていて。

ソレに反射した朝日が。

自分の目ごと、心ごと。

彼女の全てに魅入られるかのように、釘付けになり。







全てを身に付け終わった彼女が。

立って、ココを立ち去るまで。

自分はその光景を見続けていた……














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