けたたましい音をたてながら忍犬と共に彼は現れた。
それはそれは忍らしくない登場の仕方で……
木の葉の額当てもせず、ベストは引っ掛けただけなのか、ジッパーが上がっておらず。
全速で走って来たのだろう、荒い息で。
「!!!!」
アンタの……そんな慌てた様子、見るの初めてかも……
何故だか何の関係もない、そんな事がアタマに浮かんだ。
愛憎・11
その日カカシは第七班の任務を終え、自宅に帰っていた。
特別、何をするでも無く、ただボウっとソファに座ってクツロイデ。
何処を見ているのか一点を呆けたように見詰めていて。
その姿は近頃の噂と同一人物にはとても見えなかった。
あの日、から別れを告げられて、ハヤテに奪い取られた日から彼女の事が頭から離れなくて。
どうしても……
どうしても別れたくなかった。
自分は余り執着しない人間だと思っていたカカシにはまったく驚く事ばかりで。
女なんてただの性欲処理係くらいにしか思っていなかったのに。
なのに何故彼女だけは違うのか……
自分の元を離れて飛んで行ってしまった鳥なんて放っておけばイイものを。
今迄だってソウだったろう……?
俺の事を『愛してる』とホザキながら他の男に足を開くような奴等ばっかりだったろう?
だから今回も同じ。
それだけの事。
なのにっ……
ナンで心がこんなにカラッポなんだ………?
最近、任務内容が分からなくなる。
八つ当たりのように、彼女を攫って行ったアノ男を殺すように敵をイタブッテ、キって、サいて、ナキわめかせて。
子供達には『最近の先生、恐い』と言われ。
俺は一体……
ナニをしているんだろうね
………
彼女を取り戻しに行かなかった訳じゃない。
ご丁寧に二週間も仕事を休んでいたのだから。
何時だって行けたハズだ。
実際、一度だけ行ったんだ……
だけど……あのワンシーンがどうにも頭から離れなくて………
ハヤテの家の庭先で、ボーっと何かを見ている彼女。
寝間着の儘、肩に薄いカーディガンを掛けて。
そこへ帰ってくるハヤテ。
ヤツは彼女の背後からそっとその身体を抱き締めて。
それに気付いた彼女は……
とてもとてもヤスライダ顔で……
…笑ったんだ……
が…彼女があんな顔をするだなんて……
そしてキスを交わす二人に表情を歪めたカカシは逃げるようにその場を去る事しかできなかった……
確かに……そんな風な表情をする彼女を知っていた。
まだ付き合い始めて間もない頃だったが。
任務帰りに自分の家にも帰らず忍服の儘俺の家に現れて。
そして泣きそうな顔をして抱きついてくる。
そんな彼女を抱き締めてやれば、あのやすらいだ表情を浮かべた。
確かに……
浮かべていたのだ…
その時は俺だけに向けられていたその表情。
今では決して向けられる事の無いその表情。
……
俺は一体どうしたらイイんだい…?
お前と付き合っている時には散々やった女遊びも何の意味も成さなくなって。
今では何であんな事をしてきたのかと疑問に思える程で。
諦める事も出来ず、かと云って修復できる筈も無く。
只、途方に暮れたようにソファに座っていたカカシの処へ忍犬達が飛び込んで来る。
『カカシ!! 大変だっ!!!』
『まーくんが、と契約してたアイツが呼ばれて消えたんだ!!』
『アイツが消える瞬間に大量の血の匂いがするってっ…』
『が危ない!! カカシ、早くっ!!!』
口々に言われた事柄が頭の中に浸透するのに僅かに間が空いたが。
理解した途端、ベストをひっつかんでその場から消えた。
そして忍犬達に案内させながら行き着いた先には……
胸にクナイを突き刺され、倒れているの姿があった………