ねぇ……カカシ…
アタシ、アナタが好きなの…
好きなの
好き……だったの………
愛憎・3
久しぶりのアルコールに直後の運動が効いたのか、随分と身体が火照っていた。
「あ〜、踊った踊った!」
「ひゃ〜、疲れた〜」
「もう年なんだから無理し過ぎなんだよ」
「紅、煩い!アタシはまだピチピチの20代よ!!」
あっはっは!と口を開けて笑いながら楽しそうに三人でテーブルに戻る。
「ちょっとトイレ」
が戻るなり席を外す。
その姿は直ぐに人込みの中に紛れて見えなくなってしまう。
「も大変ね〜」
「そりゃそうでしょう?相手が相手だもの」
アンコと紅がソファに身体を委ね、お互い自分のカクテルを手に取る。
「何も言わなかったけどサ、相当キてるよね」
アンコが自分のブルームーンを傾ける。
「うん、じゃなきゃこんなトコ来ないだろうしね」
紅が自分のスクリュードライバーを傾けようとしたその時。
「で?その本人は何処行ったの?」
二人の背後で場違いなノホホンとした声がした。
「「カカシっ!!!?」」
「は〜い?」
ソコに居たのは間違い無く「写輪眼のカカシ」で。
まあ、この二人に幾らこんな場所とは云え、
気配も覚られずに後ろを取れるような人物は早々居る筈も無くて。
「気配消してヒトの後ろ取るな、馬鹿!!」
「そうよ!相変わらずイヤな男ね」
「…酷い言われようだな」
カカシは後頭部をガリガリと掻いているが、一向に応えた様子では無くて。
「んで、どこ?」
なんてやっている。
「アンタ今度は何したのよ」
「何も無くてあの子が此処に来る訳無いでしょ!?」
そう、あんなに好きだった此処に約一年、一度も来なかったのだから。
「別に?何時もの通りだよ。それに今回はシタんじゃ無くてサレタ方」
「何言ってんのよ、そんな訳無いじゃない」
「どうせまたあっちの女、こっちの女、引っ掛けて怒らせたんでしょ!!」
「そんな事、今更でしょう?それに今回は本当。だから何処?」
どうもカカシの言葉に嘘は無いようで。
だって口元は笑っているのに目が笑っていない。
その瞳の奥には本気の色が窺い取れて。
戸惑いを隠せない二人にカカシは少し焦れてきたのか、僅かに殺気を含ませた声で四回目の言葉を言う。
「帰ったんじゃないでしょ?何処に行った?」
テーブルの上のマルガリータに視線を飛ばして。
「……トイレよ」
「ちょっ…紅!?」
何で言っちゃうのよ、とアンコが慌てる。
「そ、アリガト」
礼を一言、カカシはその場をゆっくりと離れて行く。
「だって……あんな目をして聞かれたら答えるしかないじゃない」
「……そう…、ね」
何事にも、何者にも執着しない男が。
来る者拒まず、去る者は追わずの男が。
一人の女を追いかけている。
それは本当に本気なのか……
”今回はシタんじゃ無くてサレタ方”
カカシのセリフにが何かをしたのが窺えて。
「あんまり揉めないと良いケドね」
アンコの言葉に紅は即答する。
「無理よ」
「ハハッ……そうだよねぇ…」
二人はソファにゆったりと身体を任せながら、お互いカクテルに口を付けた。
「なぁ、イイだろ?」
「大概、しつこいよ。アンタ」
ったく何てツイてないの!?
今日って日は……
気が滅入ってるから気晴らしに踊りに来ればカカシ・カカシって。
挙句の果てにはコンナ奴に絡まれるし……
「さっきのアンタ、最高に色っぽかったよ」
「ハイハイ」
「だから付き合えって、イイトコいかせてやるから」
下卑た男の笑い声。
激・気分最悪!!!!
「結構よ、どうでもイイから離してってば!」
「気の強いトコも、またソソられるぜ」
あったま悪いんじゃない!? コイツ!!
ヒトの話聞けっつうの!!
ったく中忍風情が普通上忍に絡むか!?
服に隠し持っているクナイに手を伸ばそうとした、瞬間。
男の姿が消えていた。
ドスンッ、と大きな音を立てて男は床に蹲っている。
「ナニお前、ヒトのモノにちょっかい出してんの?」
それは随分と聞きなれた声で。
「……カ…カシ…?」
「ダメでしょ?、こんなトコ来ちゃ」
「…否、お前に言われたくねーから」
って、違う!!!
「じゃなくて!お前あの女から話聞かなかったのか?」
それに誰がお前のモンなんだよ。
「うん、聞いたよ」
「だったら何でアンタが此処に居んのよ!」
「ってめぇ!!ナニしやがる!!!!」
やっとの思いで起き上がった男が啖呵を切ったが。
「あぁ?煩いよ、お前」
カカシは一蹴してしまう。
「何なんだテメェ!!その女は俺が目ェ付けたんだ、スッコンデろ!!」
黙って聞いていたカカシだが。
……うわっ…!
どうしよう……
さ……、殺気が……
ピッタリとくっついた背中から、背筋の寒くなるような殺気がその馬鹿男に向かって放たれている。
「言いたい事はそれだけ?」
げっ!! マジヤバッ!
「ひっ……何なんだ、お前っ!!」
中忍が元暗部の上忍に喧嘩売るなんて本当に馬鹿の極みだ!!
「カカシ!!」
呼び掛けた時にはカカシの身体は既に中忍の真ん前に移動していて。
武器を持っていなかったのか、片手で首を締め上げている。
「なぁ〜に?、まさか殺すなとか云う訳?」
片手だけでその中忍の身体を持ち上げて、その男の顔は見る間に真っ赤に鬱血していって。
「イヤ、そんなつもりは更々無いけどサ。アンタ、アタシに話があるんでしょ?
そんなヤツに構ってていいの?」
逃げちゃうわよ?と不敵に笑えってやればカカシは一つ溜息をつく。
「まーったく……俺をこんなに振り回せるのってお前だけだよ」
カカシはその中忍を人垣に放り投げた。
ココのクラブには結構忍が多く集まってきていて。
事の成り行きを見守っていた。
だが殺される訳でも無く、二人が店から出て行ってしまうのを見ると再び散って行った。
「な〜んだ、つまんねぇの」
「俺、殺されると思ったんだけどなー」
「だよなー、あの写輪眼のカカシにあんな啖呵切ったんだもんなー」
「無謀だよ、無謀!」
「アイツ、後で絶対殺されるぜ」
忍達は大笑いしている。
その男は自分が喧嘩を売った相手を知ると再び真っ青になり、酷く怯えながら慌てて店から出て行った……
「それにしてもイイ女だったなぁ」
「ああ、付き合ってんのがあの男じゃなきゃ俺だってなー」
「云えてる!すっげー色っぺーしな、あの踊ってる時の顔ったら」
「オネガイしたいよなー!」
男達は再び大笑いしていた……