「お前、またマルガリータ?たまには別のにしなよ」
「イイじゃない、アタシあれ好きなんだもん」
もう来る事は無いと思ったのに。
アタシは何故かカカシの部屋に居たりする……
愛憎・4
飲み足りないとばかりに勝手に棚から上等なウオッカを出す。
キッチンからグラスを二個持ってきて、冷蔵庫からオレンジジュースを取る。
一つにはその儘注いで。
一つにはウオッカを3分の1入れて、オレンジジュースで割る。
スクリュードライバーだ。
ほれ、と一つを渡し自分も飲み始める。
カカシは暫くソレを手の中で遊ばせてから口を付けた。
「で、どういう訳?」
「別に、そういう訳よ」
ソファに座っていたカカシはテーブルの上にグラスを乗せて立ち上がる。
「本気で俺と別れるつもりなの?」
「そう……取れなかった?」
真正面に立たれる。
「どうして?もう俺の事嫌いになっちゃったの?」
はやんわりと笑う。
「うん、もう疲れちゃった」
「何で?俺が浮気ばっかりするから?」
「ハハ……当たり。分かってんならイイじゃん。
もう嫌なんだよ、他の女の匂い付けて帰って来るアンタ待ってんの。
あの女もそう言ってただろ?」
テーブルの上には見知った鍵が乗っていて。
「ナニ、取り上げちゃったの?」
「勝手な事しないでくれる?」
「いい子じゃない、あの子にしときなよ。だからアタシも鍵預けたんだし」
カカシは一つ溜息を付いた。
「只の浮気だよ、それにもう別れたしね」
「なっ……!!」
「分かってよ……俺にはお前しか居ないんだ…」
何時ものように優しく腕を回される。
「っ何処迄勝手なんだよ!!イヤだって、別れるっつってるだろ!!?」
「っ…」
暴れるアタシを抱き締めると無理矢理キスしてくる。
「んっ!!……んふっ…ぅ…」
手馴れた様子で口内を蹂躙される。
っちくしょー!力で来られたら勝てねえだろ!?
ハイネックの首回りを引き下げられ、首の付け根に唇をずらされて。
アタシの一番弱いトコロを愛撫しようとして見付けたのは……
昨日ハヤテが付けた
キスマーク………
カカシの動きが止まった。
空気が……凍り付く………
「……誰…?」
何時ものふざけた口調じゃ無い。
先程クラブで見せた比じゃ無い。
溢れ出る殺気………
「……離してよ…」
カカシの手を振り払って身体を離す。
あはは、…アタシ殺されるかもネ。
「ナニ?気になるの?自分は数え切れない程浮気してんのに?」
「イイから相手誰?」
「教えないわよ、どうせ殺す気なんでしょう?」
「当然、当たり前。ヒトの女に手ェ出すヤツなんて俺が放っとくとでも思った?」
って云うか、他人の女喰いまくりのアンタがそのセリフ言うか?
「ハハ、思わない。だから教えないんだよ」
何て勝手なヤツ。
そして子供じみた嫉妬。
ねぇ、何で?
何で今更……
「カカシ……嫉妬する位に想ってくれてるんだったらどうしてあんなに浮気したの?
それとも自分のオモチャをヒトに盗られるのがイヤなだけ?」
「違う!!」
”オモチャ”と云う言葉に敏感に反応する。
「…そんな事……一度でも思った事なんて無いっ…」
そう言って訴えかけるような目は本当に本気のようで。
でも……
「もう……、イイでしょ?そろそろ止めようよ……」
不毛だ。
まったくの不毛だよ……
少なくともアタシは本気だった。
本気で『はたけカカシ』を愛してた。
強いとか(ホントは弱いくせに)
名前が売れてるとか(他にも居るよ)
元暗部だから(それがどうかした?)
高給取りだから(自分だってそれなりに稼いでいる)
顔がイイから(上っ面だけじゃない)
少なくともアタシはそんな理由で付き合っていた訳じゃない。
本当は誰よりも温もりを欲しがっている、寂しがり屋な図体のデカイ只の子供にくせに。
でもアタシはそんなアンタが好きだったのよ?
格好悪くなったって、名が地に落ちようと。
顔が潰されたってそんなの関係無い。
本気で愛してただけなのに……
アナタは何時しか甘えてこなくなって。
他の女にソレを求めるように。
一人がダメなら次へ。
それでもダメなら更に次へ。
次から次へと乗り換えて。
だったら……
アタシが傍に居る必要なんてないじゃん…
「もう……終わりにしようよ…」
本人は何時ものように笑ったつもりだが、それはとても淋しそうな、哀しそうな笑顔で。
「どうして……イイか、分からなかったんだよ…」
カカシは思わず本音を漏らした。
「こんな気持ち初めてなんだ。お前が誰かに笑い掛ける度に、
楽しそうに喋る姿を見る度にその相手を殺したくなる」
改めて見ればカカシは苦しそうな顔をしていて。
「知ってたんだろ?だからクラブとかにも行かなくなったんだろ?」
アタシは少し遠慮がちに頷いた。
「12年前に俺は恩師を、親友を、左目を…全てを失った。生きる希望も理由も意味も何もかもをな。
だから暗部に入って死ねたらと思ったのに、なまじっか手先が器用だった所為かそれすら叶わなくて」
カカシはテーブル迄行くとグラスを掴み、一気に中身を流し込む。
「ばっ…!!ナンて飲み方すんのよ!」
慌てて近寄り、咽返るカカシの背を摩ってよる。
「ゴホッ…ゴホッ……女は俺の顔と肩書きで寄って来るし、仲間には妬みを買って…。
そんな事はどうでもイイんだけど、俺ってば益々捻じ曲がっちゃってサ…」
ナンて……寂しそうな顔………
「そんな時だったよ、お前に会ったのは」
カカシは少し身体をずらし、背中を摩っていたアタシの手を掴んだ。
「俺に興味を持たない女なんて珍しくてサ、からかいに行っても見向きもされなくて。
どんな女でも落ちた笑顔でもお前ってば眉毛一本動かさないし」
「だって…あの時は……」
「うん、知ってる。俺が一番遊び狂ってた時だもんな。それに、そういうヤツ嫌いだしな」
その時の事が思い出されたのかカカシは懐かしいような表情をした。
「ゴホッ……すいません、紅さん、アンコさん」
「わっ!!」
「うおっ!?」
カカシが来て、を連れて行かれて。
紅、アンコは仕切り直しとばかりに飲み直している最中だった。
そこへ突然現れたのは”月光ハヤテ”特別上忍。
早い話がの浮気相手だ。
「ナンなのよ!今日って日は!!」
「一日に二度も背後を取られるだなんて……。ハヤテ…アンタも性格の悪いヤツだったんだね」
「ゴホゴホ……今更でしょう?」
矢張り、この男も暖簾(のれん)に腕押しで。
まったく応えていない。
「それより、どういう風の吹き回し?アンタがこんなトコ来るなんて」
「そうよ。似合わない事この上ないし、その格好で来んの止めなさいよね〜」
彼女達の言う事は至極尤もで。
何故なら彼の服は今だ血の匂いが漂う忍装束だったからだ。
「もしかして任務終わって火影様に報告した直後とか?」
「…ええ、ゴホッ……」
「で、何の用なの?そんなに急いで」
「もしかして…ゴホッ…と思ったんですが、が来ませんでしたか?」
ハヤテの言葉に女二人は見事な程にフリーズした。
その様子にハヤテは何の反応も見せなかったが。
「ゴホッ……で、来ていないんですか?」
まるで人以外のモノを見るような目付きでハヤテを見ると、二人は堰を切ったように喋り出した。
「…なっ……何でアンタが捜してんのよ!!?」
「そうよ!あの子カカシの彼女なのよ、アンタが何の用が有るっての!?」
「もしかして任務とか……」
「否、それは無いでしょう?たった今終わったばかりなのに!」
「じゃ、火影様に呼ばれてるとか?」
「それだったら中忍で充分じゃない!」
「……そうよね」
その二人の勢いに少し呆れた顔をしたが、ハヤテは再び同じ質問をする。
「どれも、ゴホッ…ハズレです。で、来たんですか?」
「ハズレって……ねぇ…じゃ、まさか……」
「アンタ…に惚れてる、とか?」
アンコの問いに単刀直入に答える。
「ええ、そうですが…ゴホッ……」
「「えええええぇぇっ!!!!!?」」
二人の悲鳴が奇妙にダブった。
「変ですか?ゴホッ…私がに惚れていては」
素知らぬ顔で爆弾宣言するハヤテ。
その表情には何の変化も無くて。
「変よ、変!!だってアンタの惚れてる相手って、あのカカシの彼女なのよ!?」
「分かってんの!?あの一月(ひとつき)か二月で別れる男が一年も続いてる女なのよ!!
しかもカカシだって本気みたいだし……」
「関係ありませんね……ゴホッ…」
矢張り、この男もソウなのか……
女二人は頭を抱えた。
……
アンタってどうしてこう、一癖も弐癖もある男に惚れられるのよ…
同時に思ったのも束の間で。
いい加減イラついてきたハヤテが険の有る声を出した。
「で、どうなんですか?」
案外、カカシもハヤテも似たもの同士かも……
そう思いながらアンコが答えた。
「カカシと一緒にどっか行ったわよ」
紅はアンコの内心を思い、額に手を当てた。
きっと面白がっているのだろう。
「あの様子じゃ二人共荒れてるかもね〜。否、もしかしたら別れる別れないで大騒ぎかも♪」
無責任な言葉を連発するアンコに紅がストップを掛ける前にハヤテの姿は消えていた。
アンコは楽しそうに笑い、紅は大きな溜息を付いた。
「アンタね〜…、あんなにハヤテ煽ってどうする気なのよ!!
殺し合い始めたらアタシ達位じゃ止めらんないのよ!?」
「だ〜いじょ〜ぶだって!!その前に絶対が止めるからサ」
アンコの根拠の無い自信に満ちたセリフに紅は再び大きく頭を抱えた。
「……どいつもこいつも何考えてんのよ…」
ポツリと漏らされた紅のセリフにアンコは大笑いをしていた。
「忍なんて生き物に常識求める方がオカシイって!!」
そして再び豪快に笑い出した。
そんなアンコに紅は、タダタダ呆れるしかなかったのだ………
「……そうネ、自分はあんなトコで遊んでたけどそういうヤツ、大っ嫌いだったよ」
の言葉にカカシは苦笑いを禁じえない。
「だから今のアンタが嫌いなの。…分かるでしょ?」
「俺は好きだよ、お前の事が」
すかさず切り返すカカシには容赦無い言葉をぶつける。
「浮気してもか?」
一度、冷めかかったカカシの激情をサラッと煽るセリフ。
「そんな女でもまだ好きだと言えるのか?」
カカシは立ち上がり、アタシの目の前迄来て、優しく抱き締めてくれる。
「…好きだよ……、お前が好きだ…」
泣きそうなカカシの顔に、一瞬絆されそうになる。
「……バカ…」
大好きな色の違う瞳。
大好きな柔らかい銀髪。
大好きな縦に走った傷跡。
「アタシが好きなら……必要だったんなら何でアタシのトコに来なかったのよ」
その傷跡に触れる。
カカシは為すが儘だ。
「何で他の女のトコになんて行ったのよ…」
繰り出すアタシのセリフにカカシは返す言葉も無くて。
「もっと早くに言いなさいよね……そういう事は…」
暗にもう遅いと云う事を仄めかす。
カカシの顔に暗い色が浮かぶ。
「大丈夫だよ、アンタもてるんだから」
「俺はがイイんだよ!!しか欲しくないんだ!!!!」
珍しくも激昂したカカシ。
「ホントーに……しょうがない子だね、…カカシは」
そう言ってすまなそうに笑えば、カカシの表情は絶望に暮れる。
そして………
「……そんなの…許さない…」