何処で……
どう間違ったんだろう…
アタシはハヤテを選んだ。
ソレに対する後悔は微塵も無い。
だってアタシはとっても幸せだったんだから。
なのに……
なのにナンで考えるのはっ!
浮かんでくるのはカカシの事ばかりなの!!!?
愛憎・9
は火影から預かった巻物を胸の谷間に押し込んで。
飛ぶような速さで隣国迄走り続けていた。
結果、日が暮れる迄には何とか辿り着く事ができ、目的の人物に巻物を渡せた。
そしてその人物、隣国の長のハカライで一日身体を休め、出発は次の日と云う事になった。
あれから……一人で寝るのは初めてだった。
あの現場から助け出してくれたハヤテが長期の任務を悉く(ことごとく)断り、毎晩毎晩一緒に寝てくれてたからだ。
電気を消して、二人してベッドに潜りこんで。
ハヤテはアタシを抱き締めて。
アタシはハヤテにピッタリと寄り添って。
それはカカシと付き合っていた時とは比べようもない程に穏やかな時間だった。
帰ってこないナンテ事は無く。
他の女の影にムカつく必要も無く。
こんな幸せは…初めてだった……
付き合う男達が悪かったのか、彼等は悉く浮気やシツコサを見せて。
元々執着されるのは苦手な方なのに。
見えない所でされるのならまだしも、友達と出掛ける事ですら文句を言われてた日々。
”月光ハヤテ”特別上忍。
アタシにこの上無い幸せをくれたヒト……
今なら胸を張って言えるわ。
アナタを愛してるって……
……チクリ…
……また…
あの痛み…
ナンでだろう。
幸せなら幸せな程ナニかが胸の中で叫んでる……
でもそれはフィルターを掛けたように何を言っているのかが分からず。
一体……ナンなんだろう…
そんな事を考えながらは眠りに付いた。
明けて次の日。
は早々に宿を発つとハヤテの待つ木の葉へと帰っていった。
胸の中には火影宛ての巻物を忍ばせて。
里迄あと50キロを切った頃だろうか。
はふと立ち止まり、空を見上げた。
火影様から任務を頂いた帰りに偶然にも聞いてしまったカカシの事……
来る任務、来る任務、全てを完璧にコナスのは何時もの事なれど。
残忍性が酷くなったと……
一緒に任務に就いた相手が語っていた。
対峙した敵に、これでもかと云う程に傷を浴びせ。
苦しませて苦しませて。
死んだ方がマシだと思える程に痛めつけて。
それからやっとトドメを刺す。
その間、彼はまったくの無表情だったそうだ………
そして聞かなくなった女の噂。
どうやら浮気していた全部の女を切ったようで。
……どうせなら付き合ってる時にしろってんだ…
でもね、本当は気が付いてたんだ……
アイツがアタシに求めてたモノ…
それでもアタシにはソレを与える事はできなくて。
だって本気で愛してたから……
したく、……なかったんだよ。
……カカシ…
そしては我に返る。
ひぃ…、ふぅ、みぃ……5人、か。
ったく、ごくろーさまだね……
ザザザッ…と音を立てて周りを囲んでいくその気配。
日暮れの影の部分から薄っすらとそれ等は現れて。
それは間違いなく、敵。
『……巻物を、渡せ…』
『渡せ…渡せ……さもないと…』
『さもないと…コロス……』
陣を組んで其々が囁きかける。
「ははっ、ハイそうですかって渡すと思った?」
茶化しながら言うと周りの空気は一気に殺気立って。
『……では…死ネ……』
途端に襲い掛かってくる敵国の忍達。
そして分かる相手のレベル。
……ナめられたモンね…
女だから、くの一だからと。
こんな……中忍如きを差し向けられるだなんて!!
向かってくる敵を次々と殺していく。
二人目……
三人目…
四人目は……ソコかっ!!
首にクナイを当てて一気に引く。
背後に回っていたお陰で返り血の一滴すら浴びていなくて。
残るは……一人…
……何処だ?
何処に居る?
ゆっくりと気配を探ると直ぐ傍の茂みに隠れている事が分かる。
「さぁ……どうする?お仲間さんは皆死んじゃったわよ?」
ソコへ向かってクナイを投げれば。
「うっ……」
くぐもった低い呻き声が漏れて。
「久しぶりだから遊んであげたいんだけどサ、あんまりゆっくりもしてらんないの」
アタシの帰りを待っていてくれるヒトが居るから……
あのヒトの……心配している顔なんて見たくないの。
これ以上心配させたくないの。
「……だから」
は全身から殺気を放ち、その茂みを睨みつける。
すると怯えた気配が伝わってきて。
次の瞬間……
「うおぉぉおおっ!!」
叫び声を上げながら突っ込んできた。
ソイツ……
否、『その子』と言った方が正しいだろう。
身体の大きさから云ってアカデミー出たて位の年頃で。
この際そんな事はどうでも良かった。
己も忍。
男も女も老人も、……子供ですらも殺した事がある。
の目を奪ったのは、その子の……『髪の色』。
その色は今、最も見たくないであろう………『銀色』……
酷い動揺が彼女を襲う。
敵の忍が、幾ら子供であろうともソレを見逃す筈が無く。
ドスッ……!!
沈む寸前の夕日が照らし出す銀髪が妙に憎らしくて。
そして自分の血を被った銀色が愛しくて……
「あ……か…か、し……?」
震える手でその髪に触れる。
その子供は彼女にクナイを刺した儘、固まっている。
あぁ……
ごめん、ハヤテ。
…アタシ、……帰れそうもないや…