狂気に染まった暗い、色違いの目がアタシを射抜くように見続けて

伸ばされた手が、指が首の皮膚に食い込んで

あっ、と云う間に気道が遮断され

強い力で絞められた








それでも…

カカシくんの目には痛みが見えたから

見えたような気がしたから

嫌ってほしくないと訴える何かがあると思ったから








だから苦しかったけど手を伸ばして、彼の頬に添えて

























『……
こ わ く な い……あ な た が す き………』























それだけ云ったら暗闇に飲み込まれるかのようにして意識を失っていった……

























I had enough...2

























もう、……自分が何を云っているのか分からなかった…








兎に角、テレビから流れてくる映像に意識の全てを持っていかれていて。

だって余りにも簡単に壊されていく建物、葉っぱのように飛ばされて奪われていく命達がリアル過ぎて。
それは自分が過去、生み出した地獄絵図と酷く似ているような気がして。








安心、していたんだ。








こんな、里では有り得ない平和な場所で、さんと云うヒトに包まれるようにくるまれて。
穏やかに過ぎる時間の心地よさに酔って、浸って、溺れて、どっぷりとその平和に浸りきっていた時に。

『俺を、…俺達を殺した人殺しのお前がこんな風な平凡な毎日を送るだなんて許されると思っているのか』と。
テレビから流れてくる死体の顔が、昔殺したヤツ等の顔に挿げ変わって俺へと怨嗟の言葉を吐く。








幸せと云うぬるま湯に浸かっていた所為で忘れてかけていた事実。

『俺は所詮、人殺しだ』って事。

命乞いをするヤツから一般人、他国の忍、要人、大名、女子供、老若男女、……同じ木の葉の忍ですら関係無く殺してきた。
任務ならどんな卑劣な事もやってきた。

色を使うくの一を酷い方法で痛めつけて逆に情報を引き出した事もあるし。
『死にたくない』と云った瀕死の同胞を情報が洩れるから、と止めを刺し死体すら残さず燃やした事もある。

傍から力量が違うのを承知で、猫が鼠をいたぶるのに良く似た事をしていた時もあった。

暗部時代の自分は、今の自分から考えればとてもじゃないが人とも思えないような悪行を延々、毎日やっていた。

俺の顔と名声、金に群がる女達。
仲間のクセに俺を恐れて近寄りもしない奴等共。
火影ですら哀れみを込めた眼差しで俺を見て。

誰一人として信じると云う事をしなった愚かな自分。

人手不足だったあの頃は、こんな精神異常者のような俺でも必要だったようで。
任務から外されるなんて事、有り得なくて。

そうこうしている内に俺の名は売れ始め、任務の成功率の高さとその非情さを買われて。
いつしか里には無くてはならない道具となった。

そこにしか己の存在意義を見出せなかった……








どんなに手腕を褒められようが、名声を称えられようようが俺が欲しかったのはそんなモノじゃないのに。

他国の忍にすら恐れられる自分だけれど、人の命を大事なモノと認識出来なかった自分だけど。

けれど本当は大事な人を守れる自分が欲しかっただけで。
こんな風に弱い自分は要らなくて。

温かく、迎え入れてくれる腕が欲しかった。
無条件で俺を受け入れてくれて、『写輪眼のカカシ』じゃなくて、ビンゴブックに載った『コピー忍者のカカシ』でもなくて。








ただの一人の男としての『はたけカカシ』を受け入れてくれる人が欲しかっただけなのに……








里の女達は俺を色眼鏡でしか見ない存在で。
そんな存在を手に入れるのなんてもう無理だと思っていた。

きっとこれは大事なモノをヒトを守りきれなかった自分の咎だろう。
あんな風に人を殺し続けた、壊れた自分にはそんな存在が出来るワケがないだろう、と諦めていたのに。

なのに、こんな異世界で全てを包み込んでくれるヒトに出会えて。

任務も子守りも何も無い日々を送り、忍として生きるのではなくて。








ここではただの『はたけカカシ』で生きていられていたのにっ……









なのに何でっ!!









あんな風に、ただ受け入れる為だけに伸ばされた手なんて知らないっ

慈しみの込められた優しい目で見詰められるなんて記憶がない程むかしにしか覚えがない

柔らかい腕であんな風に受け入れられるなんて初めてで

俺が俺ってだけで全てを許されるかのような……

あんな…、あんな風に抱き締められてっ

見返りなんて求められていない、純粋に俺を癒そうとして向けられた温もりが心地よくて








こんな至福の時、アイツがあの人が居なくなる前にしか感じた事がなかったのに

今ではそれ以上なまでに俺を溺れさせて、こんなにも夢中にさせて








けれど見てしまった人を嬉々として殺していく自分の映像(過去)。
汚れきった己の両手、頭も顔も、そして身体中が血で覆われて真っ赤になってて。

それでもまだ殺して殺して、殺し続けて。

頭から血を被って、薄ら笑いを浮かべた自分が見えた、……気が…して………








……自分ですら、…吐き気がした
























そうだ……

そうだったよね

何を今更そんな甘っちょろい事を云ってんだ?

俺は里の殺戮人形

最も薄暗い所にしか居場所のない闇に生きるケダモノだ








最初から分かってた事じゃないか

こんな俺を愛してくれるヒトなんて居る筈ないじゃないか……
愛してもらう資格なんて最初から持っていないじゃないか…

























このヒトだって何時かは俺に対して穢れたモノでも見るような目付きで見るようになるんだ

今だけなんだ、きっと今だけ

こんな風に俺に接してくれているのだって同情しているだけかもしれない

自分が殺されたくない所為かもしれない

もしかしたら俺が怖くて出て行けって云えないだけなのかもしれない








俺が怖いなら怖いって云えば良いのに

何をそんなにムキになって俺と接点を持とうとするの?

こんな人殺しに優しくしてやると何か良い事でも起こるの?

どうせ今だけなんだろう?








今だけ……なんだったら…

このヒトを誰かに渡すくらいなら…
あの包み込む腕を誰かに取られるくらいなら

里人のような目で俺を見るようになるのなら…今の内に……いっそ…

























そこまで考えたら自然に手が動いていた。

自分の顔が無表情になっているのは冷静な部分の自分は分かっている。
堪えきれない殺気が漏れ出しているのも分かってる。

このままでは彼女を簡単に殺してしまうであろう自分が簡単に予想できて。

やってはいけない、止めるんだ、と頭の何処かで声がするが。
それよりもこのヒトを殺した後に訪れるであろう満足感が俺に狂気の扉を開けさせて。








逃げれば良いのに。

逃げて命乞いでもすれば万が一にでも出て行ってあげたかもしれないのに。
ココまで来たらもう引けないんだって分かってる?

さんは俺に殺されるしかないんだよ。

あなたはもう選択肢を選んだんだ。
























片手で半分以上を掴めてしまう細い首に両手をかけて。

これから起こるであろう事が分かっているのか、それとも諦めているのか。

彼女は抵抗すら見せずに俺の成すがままになっている。








怖がれば良いのに

涙を流して、命を乞うて

俺を受け入れてくれたその身体を震わせて俺を拒絶すれば良いのにっ!








なのに何で抵抗しないんだよ!!








苦しくない筈ないのに

俺の手に爪を立てれば良いのに

責めれば良いのに

『人殺し』だと罵れば良いのにっ!!

『お前なんて人間じゃない』って蔑めば良いのにっ!!








何で、どうしてっ、何故俺を拒まない!!!











































…ぁ……、な…んだ








………あっ…た、かい?





























なに?

なにをつたえたいの…?





























『……こ わ く な い……あ な た が す き………』



























首を絞められている所為で声こそ聞こえてこなかったが。

それでも彼女は確かにそう云っていて……








頬から温もりが去って








ゆっくりと、ゆっくりと瞼が閉じていって









ぱたり、と









手が、…落ちて……





























かくり、と力の抜けた身体。

温かいのに聞こえない呼吸音。

上下しない胸。



























彼女は何て云った?

自分が殺されようとしている極限状態でなんて云った?








おれ…が……、こわく…ない?

おれのことが……すき…?




























「………さ、ん…?」








ねぇ…、ほんとに?

ほんとに俺がこわくないの…?

己ですら厭うたこの俺を








「……も、…一回いって…?」








俺が信じられるように

好きだって信じられるように








「ねぇ……、もう一回いってよ…」








揺さぶって、揺さぶって








「ねぇったら……さん…さ………っ!! ……っ?!」

























何で心拍音が弱くなってくの?!

どうして起きてくれないの?!

俺の事好きって云ったくせに!!

怖くないって云ったのに!!



























「起きて!! 起きてったら!っ……」


























正気に戻って、揺さぶる彼女の首筋の痣に気が付いて。

肝が冷える、なんてモンじゃない。
どんな言葉を連ねても追いつかない。

今まで生きてきてこんな背筋の寒くなる思いなんて初めてだ!!

























おれ…が………やった、……








拒まれるのが怖くて

お前なんか人殺しのクセにって云われるのが怖くて

あの腕が俺を拒絶するって思ったら………感情が、止められなくて……








俺から離れて、あの手で他の誰かを抱き入れるなんて
俺以外の人間があの腕に抱かれるのなんて許せなくて

そんな事を許すくらいならいっそ彼女をこのまま永遠に俺のモノにしてしまった方がどれだけ幸せか…

二度と話せなくても、二度と俺をその腕で受け入れてくれなくても
他の誰かに取られるくらいならば全然ましで








だから……

だから殺してしまおう、と思ったのに








思ったのに、彼女は本当に俺が怖いと思ってなくて

それ以上に嬉しかった初めての言葉

今まで行動で示された事はあっても、言葉を貰った事がなかったから








だから……

もう一度その言葉を云ってほしくて…

云って………ほし、く…て……





























「うわぁぁぁあっ!! いやだっ!!! 死なないでっ……!!」
































自分が行える限りの手管を思い出して。

まだ辛うじて心臓が動いてるのは、忍の耳が拾っているから確実で。
だったら……次は………、気道を確保して酸素を送り込んでやればっ…








柔らかなソファに彼女の身体を横たえて。
気道確保の為に頭を仰け反らせて覆いかぶさって。

必死になって空気を送り続けた。

胸に手を置いて、送った空気が彼女に届いているのかを確かめて。








生きて…、ほしくて……

何度も何度も、震える指先を叱咤しながら彼女の顎を支えて。
萎えてしまいそうな意思を総動員させて、蘇生を続けて。



























お願いだから死なないで

初めて俺を受け入れてくれたあなたが居なくなるなんて

そんなの考えられない、考えたくもない








大切に思ったヒトが…、この手を擦り抜けていくのはもうっ…








耐えられないんだっ!!

お願いっ……死なないで、っ!!














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