取り敢えず外に出ても恥ずかしくない服をチョイスして着て
カカシくんにも新しく買ってきた服を着てもらって、目を隠してもらって

お化粧もしようか、と一瞬迷ったが
実はあの感触はお仕事に行く時だけで十分だと思い
軽くリップを塗っただけでソレを終わりにして

そうしたらカカシくんは何だか驚いた顔をしていて

さんてあんまりお化粧とか好きじゃないの?」

とか聞いてきた。
だからアタシも正直に「うん、実は結構嫌いなんだ」と答えた

だってあの手間と種類の多さにかかる時間、それだけでも嫌なのに
崩れた時のあの感触ったらないね

「だって休日くらいはスッピンでいたいでしょ?仮面を被るのなんて仕事する時だけでじゅうーぶん」

ホントに嫌そうなのが言葉の端々に滲み出ていたのか
カカシくんはとても同調できるとでも云いたそうに「そうだね」、と云ってくれた





















Face to face 10




















どことなく楽しげなカカシくんを隣に従えて。
アタシは一階の駐車場へと階段を下りていたりする。

当然のようにエレベーターのボタンを押したアタシにカカシくんが軽く引き攣った笑みを浮かべて。
「俺、階段から行くし」なんて云うからさ。
一回しか乗っていないんだけど、きっとあの一瞬の無重力感に耐えられないんだろうと簡単に予想がついて。

忍者である感覚からなのか、それともただ短にあの感じが嫌いな人種かは分からなかったけど。
それでも彼が浮かべたその顔がすンごく可愛かったから、ついつい。

「そう?じゃあアタシもたまには階段使ってみようかなぁ」

なんて天地がひっくり返っても云いそうにない事を口にしていた。








何段も何段も一つ一つ下りていく感触に、本当にアタシの部屋の位置って高かったんだなぁ、何て一人で思い至って。
しかしながら三階分くらい下りた所ら辺で腰と膝と脹脛(ふくらはぎ)に限界を感じた。

幾ら可愛い顔をしたカカシくんにつられたっつっても昨日からのハードな運動(笑)は思ったよりも身体に負担がかかっていたようで。
流石にもうダメだぁ〜、と途中からエレベーターに逆戻りを決行した。

そうしたらカカシくんてば「だっこしてあげようか?」何て云ってくれて。
でもそれはちょっと嫌かもしれないと思い、丁寧にお断りを申し上げた。

………幾らカカシくんが忍者で軽くそんな事が出来ちゃうって云ってもね。
ウェイト関係には女は幾つになっても敏感なモンなのよ。
しかも階段をお姫様だっこで下ろしてもらう度胸がなかったんだな。

だって考えてもみてよ。
人に抱っこされて階段を下りるんだよ?!
しかもカカシくんはそれなりの身長してるんだよ?
そんな彼に抱っこされたらそれなりの視線の高さになる訳で。
しかもその高さから階段を下りられたら怖いっつーの!

ぶちぶちそんな事を考えていたら、エレベーターはあっと云う間に一階へとアタシを運んでくれていて。
ポーン、なんて軽やかな音と共に扉を開いてくれた。

そして当然のように開いた扉の先にはにっこり笑顔のカカシくんが居た。

「お待たせ致しました」

そんな言葉をおどけながら云って、そして二人で車へと歩いて行った。








どうやらカカシくんの居た世界には車はなかったようで。
アタシの車をとても興味深く観察していた。

へ〜、とかほ〜、とか云いながら後ろに回ったり前から見たりと忙しく見回って。
やっぱり基本的に男の子(って年でもないのだが)は機械モノが好きなんだねぇ、とか思っていたけど。
どうにもお腹が空いてきて。

「カカシくーん、後から幾らでも見ても良いから取り敢えずご飯食べに行こうよー」

運転席のドアを開けながらそう云えば。

「ごめ〜ん」

とか口にしながら助手席に収まった。
しかしながら助手席に座ったカカシくんは矢継ぎ早にコレは何?こっちのメーターは?とか質問を繰り返す。

そっちのはシートベルト、こっちのメーターはスピードとエンジンの回転数を表したもの。
んで、これがガソリンって車が走るのに欠かせないご飯のような液体の残量数、んでこっちは油圧系。

実はちょっぴり車好きなアタシはその質問に次々答えながらエンジンをかけてさっさと走り出した。
そしたら今度はその動きが面白いのか動いてるだの凄いだの騒いでて。

これが本当にビンゴブックと云う彼の世界に存在する本に載る凄腕の忍者なんだろうか、と一瞬笑みが零れた。

細い道から幹線道路に出れば、当然スピードは上がって。
窓から見える流れる景色に見入ったように早い早いと嬉しそうに声を上げる。

「凄いんだねー。さんってば、こんな大きな車動かせるんだー」

「あはは、別に凄い事なんてないさー、みんな免許くらい持ってるし。それに大きいっつっても普通車だよ、コレ」

「普通車?」

「うん、車にも種類があってね。大型に普通、小型、軽、大体この四種類が走ってるね。で、この車のサイズは普通って事」

「へー」

それからも車の話で盛り上がって、適当に選んだお店の駐車場へと車を停める。
ギアをバックに入れて下がれば、今度は「うわ、車って後ろにも進めるんだー」とか妙な事に関心していた。

だってバック出来なかったら駐車出来ないじゃん、と笑いながら車を降りた。








キーレスにも興味を示したカカシくんにそれを教えながら店内へと入り。
そしてその和風系の食事を出してくれるお店で舌鼓を打ちながらお腹を満腹にさせる。

カカシくんは和風のご飯が嬉しかったのか、にこにこしながら食べていて。
そんな彼を見ながらアタシも和んでいた。








何本かのタバコを吸って会計を済ませ、改めて車へと乗り込んだアタシ達は何処へ行こうかと、ちょっぴり悩んだ挙句に。
やっぱり家へと帰る事にした。

だって近場で遊べるトコロは確かに幾つか知っていたけれど、流石のアタシも体力が持たなくて。
そんで大人しく帰ると云う選択を選んだ。

その途中、今度はBGMに流していた外国の女性が歌う曲に興味を示して。

「これって…歌だよね?」

何て聞いてきた。
そりゃ歌だよ、ってか歌以外にどんな風に聞こえたんだろう…

「そうだよー。ってか、カカシくんは英語分かる?この女の人が喋ってるってか歌ってる言葉の事なんだけどさ」

「う〜ん……全然分かんない…」

「あはは、アタシもだよ」

「えっ?さんって言葉も分からない曲聴いてんの?」

「あー…、分からないって云うと微妙だよねー。歌詞カード見ながらだったら歌えるし、簡単な英語だったら分かるけど。
 喋れるかって聞かれたら喋れないしなぁ…。でもこの曲だったら歌詞も分かってるよー、覚えたから」

そう云って歌い出したアタシをカカシくんはとても不思議そうな顔をして見ていた。
軽いビートを利かせた優しい旋律の曲を歌いながらアタシはハンドルを自宅へときった。



























そして出た時と変わらず、カカシくんは階段を使って。
アタシは当然エレベーターを使って最上階へと上がっていった。

そういえばカカシくんは毎回階段で嫌になんないのかなぁ…

そんな事を考えながらのあっと云う間にエレベーターは機能を果たして指示通りの最上階へと止まる。
開いた扉の先にはやっぱりカカシくんの姿があって。

「さて、後もうちょっとだー」

バッグの中から鍵を取り出してる最中に一瞬だけ過ぎった考え。
ちょっとだけ、部屋まで後ちょっとだけのこの距離を。

手を、……つないで…かえりたい……








そぅ、っと伸ばされた手。

微妙に触れた指先の感触にカカシくんは振り返る。

そしてちらり、と彼の様子を伺えば。

カカシくんは優しい笑みを浮かべてくれて、アタシの手を握りこんでくれた。








あったかい彼の手に包まれて。

うれしくて握り返して、もうちょっと寄り添って。








だって誰かとこんな風に家に帰るのなんて……

照れくさくて、それでも心の何処かがあったかくて。
こんなにもくすぐったい気持ちになるなんて、ね。

玄関までの距離が短すぎると思うくらい、もうちょっとこうやって歩いていたかった。

そんな気持ちの名残を引き摺って、けれどそんなにロマンティストにもなれなくて。
カカシくんに部屋の鍵を開けて欲しい、と思った事は心の奥にしまっておこうと思った。








部屋に帰れば自然とつないだ手は離れてしまったけれど。
それでもこの空間の中にはアタシとカカシくんで占められていたから。

未だにちょっとだけ怠い身体を引き摺って。
玄関の鍵を閉めて上へと上がる。

そしてリビングのソファへとダイビング。
ぼふ、なんて間抜けな音をして受け止めてくれた柔らかい感触と、部屋の中に誰から居ると云う気配に自然と表情が緩んでしまうが。
このままでは彼の座る所まで奪ってしまうか、何て考えて良い事を思い付く。

カカシくんを手で招いて少しだけ身体を起こす。
彼は呼ばれるままにアタシのトコまでやって来て。

座って、ってお願いすればその通りに僅かに開けられたスペースに座ってくれた。

そして目の前にある彼の膝に頭を乗せる。
ココに座って、ってお願いをした時から気付いていたのかカカシくんはアタシの好きにさせてくれて。

それだけでも嬉しいのに、彼は膝に乗せた頭を優しい手付きで撫で始めたんだ。








うっとりとするようなその感触。

ここ数年間、誰かにこんな風に無防備に身体を預けるなんて事、した事がなくて。

返って甘えさせてあげる事ばかりで疲れきっていた心にカカシくんの優しさが染み込んできて。

無意識のうちに彼の膝に頬ずりめいた事をしてしまう。








そんなアタシをカカシくんは黙って受け入れてくれて。
何度も何度も繰り返し頭を撫でてくれた。

何時しか擦れてくる意識をそのまま流させて。
彼のぬくもりに温められながら軽いうたたねに寝入っていった。

心にも身体にも彼の優しさが染み込んだ、そんな出来事があった一日だった。












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