とろとろとしたまどろみの中を彷徨っていた俺の意識。
もう、何年もした事が無かったこんな無防備な眠り方は信じられない位に俺を癒してくれて。

ふかふかの布団に未だに少しだけ香ってくるシャンプーの香りが身体を包み込んでくれた。
その感慨は言葉に出来るようなモノじゃなくて。

あったかいなぁ……

何て、まるで日溜まりで昼寝をしている猫のような気分だった俺はとてもご満悦だった。






















Face to face 6



























そんな状態の俺の神経は、はっきり云って緩みっぱなしだったのだけれども。
流石にこの部屋に近付いてくる彼女の気配には気が付いて。

思わず笑みの形を模ってしまう自分の顔の筋肉を引き締めるのに結構な意思を必要としていた。








掛かっていた鍵を外す音がしてさんの気配がこの部屋の中へと入って来る。
そしてガサガサ、と何かの袋が擦れ合う音がして此方の様子を伺うのが分かった俺は。

もしかしたらあの優しい声で起こしに来てもらえるかもしれない、何て。

淡い期待をしながら寝た振りをした。
けれど彼女は無情にもさっさと部屋を出て行ってしまって。

再び足早に廊下を去って行く足音がした。

自分の期待が何処から来ているなんて考えもしなかった俺は、呆気ない程に思惑が外れて拍子抜けしてしまい。
けれど自分が沢山寝ろと云った手前、あの彼女が自分で俺を起こすような事をするワケがないと思い当たった。

ならば今度は彼女に付いて行こうと考え。
慌てて傍に置いてあったベストを着て額当てを付け、マスクを引き上げロフトから飛び降りた。

その途中、彼女が残したメモを発見して読むが。
本人が居るのだから別に外に出たって良いだろうと考え、再度彼女の後を追ってみた。

扉を開けて廊下に出て、残されたさんの気配を捜すと。
何時の間にやら階下にあって。
傍にあった階段を使って一階まで駆け下りた。









思った通り、彼女は一階に居て。
昨日見た固そうな箱の乗り物がポツリポツリと置いてある内の一台から大きな荷物を運んでいる所だった。

そして何故か妙に疲れた顔をしていて、俺に気付く事なく妙な扉の前まで歩きボタンを押そうとしていた。









さん、何してんの〜?」









何時もの調子で声を掛けてやれば、全然俺の存在に気付いていなかったのだろう。
彼女は酷く驚いた様子で返事をしてくれた。

「えっ?!! …カカシ君、寝てたんじゃないのっ?! ってかその格好で外出ちゃダメだよ!!」

メモ、見なかったの?!! 何て、少々怒りながらこっちへ来るもんだから。

「ん?読んだよ〜。でもさん、帰って来たのに直ぐ出てっちゃうからさ〜」

そう、折角起こしてもらおうと考えていたのに君がまた出ていくからでしょ?

それに何処かに行くなら俺も付いて行きたいし。
持ってきた荷物は食材だったみたいだからまた直ぐに帰って来てくれるのは分かってたんだけどね。

なら荷物が重たくて持ちきれないか、何か買い忘れた位しか思い付かなくて。
あの重そうな食材は間違いなく俺の分も含まれているのが分かったから。
せめて荷物持ちくらいはしなきゃイケナイでしょ?

「はぁ……、しょうがないなぁ。アタシはまだ荷物があったから取りに来ただけだよ」

答えてくれた彼女の返事は、俺の予想がバッチリ当たっていて。

「うん、だろうと思って荷物持ちに来たの」

そう云ってやれば、さんは意表をつかれたような顔をした後。
ちょっぴり嬉しそうにしてくれて。

「……ありがとね、カカシ君…」

温かい、笑みを俺へと向けてくれた。
それが思いの他嬉しかった俺は彼女が持っていた袋を二つとも持ってあげた。

そして彼女がボタンを押した扉が開いて一緒にソコへと乗り込むと。
四角い数字の入ったボタンを更に押して、変なマークのボタンを押した。

すると扉が閉まって妙な感覚と共に上昇する感じがして。

「なっ…、何コレ……」

ソレは何時も自分が飛び上がる時の感覚とちょっと似ていて。
何でこの部屋が上へと登るのが理解できなくて思わず動揺すると。

サンは可笑しそうに笑って「これはエレベーターって乗り物だよ」と教えてくれた。

くすくす笑う彼女には、先程までの疲れた様子は見て取れず。
それが体力的に来る疲れとは違うモノだと気が付いた。

俺を部屋の残して買い物に行った間に彼女に何かあったと容易に想像出来たが。
それ以上は彼女の心内に有る訳で、外から窺い知る事は出来なかった。

その所為で今度彼女が出掛ける時は絶対に付いて行こうと決心した。









その間にポォン、と云う音と共に上昇感覚が止まり。
ヤケに気持ち悪い感じがして止まったその『えれべーたー』の扉が開く。

当然のようにそこから出て行くサンの後を付いて行ったけど。
その不思議な乗り物には二度と乗りたくないと思った。

























二人して部屋に入り、彼女はその儘キッチンへと行ってガサガサいう袋から食材を出しながら俺へと向かってその袋を開けてみろと云う。
いいの〜?と聞き返しながらも俺はその袋の中身を出すと。

それはどう見ても男物の洋服で。

え、何で?って云う視線を向けると、彼女は楽しそうに笑っていて。

「カカシ君に似合いそうな感じのを選んだつもりなんだけどさ。着てくれる?」

確かに俺はこの世界に身、一つで来たのだから着替えなんて物は持っていなくて。
何処かへ出掛けるのは知っていたが、まさか自分の服を買ってきてくれていただなんて…。

「サイズ、分かんなかったから大きめの買ってきたんだけど合わなかったらゴメンね」

ちょっと、……否、結構感動しちゃってる俺に。
仕舞い終わって此方へ来た彼女が袋の中からシャツを出して俺の身体へと当ててサイズを測って。

「違う感じの方が良かったら今度は一緒に行こう」

呆けてしまっていた俺を、その服が気に入らないとでも思ったのか。
彼女はそんなお誘いを云ってきた。

「そんな事ないよ!……俺、ちょっと嬉しくて…」

思わず言葉に詰まる俺に、サンは照れたように笑って。

「ふふ、…良かった…。じゃあお風呂の用意するから入っちゃって?」

その場に居るのがくすぐったいような感じで半ば、逃げるようにして風呂を沸かしに去って行った。

そしてもうちょっとその感動に浸っていたかった俺の傍を「うわっ、忘れた〜」とか云いながら戻ってきて。
長年、忘れていた声を出しながら笑う、と云う事を思い出させてもらっていた。









その後、風呂にゆったりと浸かりながらさり気無く置いてある新品の髭剃りを見て。
些細な気配りに、更に俺を喜ばせてくれたのは云うまでも無い。

だって最悪、クナイで髭を剃ろうと思っていたのだから。









風呂から上がった俺を待っていたのは温かい食事で。
至れり尽くせりのこの状況に、俺はハッキリ云って申し訳ないとまで思ってしまった。

違う世界から来た俺をココに居させてくれるだけでも有り難いのに。
着る服から備品、この世界の常識のレクチャー、果ては食事まで用意してもらっちゃうと。
流石の俺でも悪いと思い。
絶対に彼女にはこの恩を返したいとまで決心していた。





























「でね、この世界ではカカシ君のその格好はとても拙いんだよ」

俺が何故部屋を出てはイケナイかの理由を教えてくれたさん。
それは昨日、自分で見て感じてきた事と殆どマッチしていて。

どうもこの世界での俺の格好は結構珍しいと云うか妙と云うか。
一部の人間にはバカ受けだとは聞いたが、絶対に外へ行く時は此方側の服を着て欲しいとの事だった。

当然巻物が入ったベストはダメ、額当てもダメ、マスクもダメ、写輪眼も見せてはダメのダメダメ状態で。
服は彼女が買ってきた物を着用、顔にある傷跡と写輪眼はサングラスかバンダナで隠してくれと云われた。

そして話は俺の世界へ帰る方法を見つける、と云うモノへつ移り変わったが。
それに関しては、昨日写輪眼で見た時には何も感じなかった、としか云い様がなくて。
果ては月の引力の関係やら、磁場が狂ったとか、余り理解出来ない話になって。

結局、俺が自分の世界へ帰るには多大な時間が掛かりそうだった。










前途多難なこの問題に、俺はこの家に入れてもらえた時から考えていた事を口にした。










「ね、さん。俺、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「何?云ってみなよ」

改まった様子で喋り始めた俺に、彼女もダレてた背中をぴん、と伸ばす。

「あのね、俺をココに置いてくれない?」

「へ?」

唐突なこの提案に彼女はボケた返事をしてくれて。
思わず、彼女がソレを嫌がったのだと思った俺は。

「絶対に変な事しないし、買ってもらった物のお金も働いて返すから。ね、お願い」

「あぁ、ちょっと待って!」

そう言葉を続けていたのに、彼女はソレをストップさせた。
ダメなんだろうか、と思って彼女を見詰めると。
サンは目線を外して何故か顔を赤らめて。

「……えっとね、………アタシはもうカカシ君が自分の世界に帰れるまでココに居るもんだと思い込んじゃってたんだけど…」

そしてそんな言葉を云ってくれて。
今度は俺の思考をストップさせてくれた。

「……ホントに…良いの?」

「って、カカシ君が聞いてきたんじゃん」

「そりゃそうなんだけどさ…」

「だったら全然OKでしょう?これから宜しくネ」

あぁ、サンってばどうしてこう俺を悦ばしてくれるんだろうっ!!

何だか、無条件でこんな俺を受け入れてもらえているのを感じて。
どうにも嬉しくて、嬉しくて。

「……ありがとう…」

自然と感謝の言葉を口にしていた。











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