兎に角、任務中だったのは確かで。
今回のターゲットを仕留め。
敵国の敷地内からも抜け出せて。
帰り道でもう里は目の前だってゆうのに。
何故かアタシはトンでもない真っ暗闇に包まれて。
結構なスピードで走っていたから当然、突然には止まれなくて。
急ブレーキの如く、無理矢理止まって。
改めて周りを見回せば。
ソコは見知らぬ
見覚えの無い船の上だった………
CROSS WORLD
何時ものように船首に居たこの船の船長、ルフィは。
何かが擦れるような音を聞いてソチラを振り向いた。
ソコには妙な動物の顔を模った面を付けて。
背に短めの刀を背負った人間が。
一体どの位のスピードで走れば、そんな音をさせなければ止まれないのか、と問うほどに。
急なブレーキをかけて止まる処だった。
慌てて止まったソイツは。
一瞬、ココが何処だか分からないかのような感じで辺りをキョロキョロと見回して。
床を見て、海を見て、船を見て、呆然としているようだった。
そしてソイツが突然コチラを振り向いて、合わさった視線。
途端、ソイツは背中に有る刀に手を掛けて。
物凄い殺気を放ちながら。
「……誰だ、…貴様」
と、低い声で問うた。
その尋常でない殺気に。
船内や船尾に居たクルー達がやってきて。
その存在を、足音を聞くや否や。
ソイツは目の前から消えて。
否、消えたワケじゃない。
その面を被った人間は、コトもあろうか一瞬で見張り台まで移動していたのだ。
しかもその跳躍力を差し引いたとしても、今のソイツの現状。
身体が動かなくなるような殺気もその儘に。
ソイツは見張り台の側面にしゃがんで戦闘態勢にいた。
集まってきていたクルー達は自分の目がどうにかなってしまったのかと、何度もマバタキして。
それでもその現状が変わる筈も無く。
動物を模った面。
黒い装束。
少し短めの刀。
容易に言葉すら発っせられない空気。
どう見ても尋常でないその人物に。
如何にかして質問をしたい処なれど。
それでもその人物から発せられる殺気は、少しでも妙な動きをした途端に殺される。
と云う事がありありと分かってしまい。
タバコを片手に持ったサンジ。
目を真ん丸に見開いたチョッパーにウソップ。
扉を開けたまんまでフリーズしてしまったナミ。
刀を抜こうとして止まったゾロ。
駆け付けた儘の格好で暫し動けなくなっているクルー達に。
その殺気を感じているであろう筈の船長は。
恐らく、多分、きっと…感じてる、と思うこの船の船長は。
「……お、…お前どうやってんだぁ!? すんげーな、オイ!!」
やっぱり、脱力してしまうかのようなセリフを吐いた。
「………フザケルな、…お前達は誰だ……それにココは何処だ」
ソレに対して、その面を被った人間はそう繰り返し問うて。
「俺?俺はモンキー・D・ルフィだ!そんでココはグランドラインで俺の船の上だ!!」
素直に答えるルフィに、クルー達は軽い眩暈を覚えるが。
その答えのお陰でその面を被った人間からの次なる質問が来て。
「お前達は何者だ?ココで何をしている?」
「ん?俺達は海賊だ!そんでこのグランドラインを進んでワンピースを目指してる!」
「………海賊……ワンピース…」
「なあなあ、お前こそどうやってそんなトコに居られるんだ?お前も悪魔の実ィ、喰ったのか?」
「悪魔の実?…ナンだそれは」
「ん?喰ってないのか?じゃあ、ナンでお前そんなコト出来んだ?」
「………これはナンなんだ…高度の幻術なのか?」
「げんじゅちゅ?…何だソレ?食いモンか?」
阿呆な質問を繰り返すルフィに敵意が無い事を感じ取ると。
その面を被った人間は自分の思考の中へと入っていって。
会話できる幻術なんて聞いた事ないぞ?
このアタシに幻術がそうそう効くワケも無いし。
第一、かかった覚えも無い。
それにこんな妙な所……
「……一つ尋ねたい」
「もう一杯聞いてんじゃん」
「やかましい、イイから答えろ」
「ぶーぶー」
「……………」
緊張感の欠片も無いルフィに耐えかねたのか。
その人物は視線を別の人間へと向ける。
未だ、収まっていない殺気。
加えて表情のまったく伺えない面の所為で、視線を向けられる度にクルー達はビクッとして。
そして一番自分へと殺気を返してくる、剣を持った男へと尋ねた。
「オイ、そこの」
「ああ?ナンだテメエは」
そこの呼ばわりされたゾロが額に青筋を立てながら答える。
「お前達はアタシの敵か?」
「はぁ!? お前こそ敵なんじゃねえのかよ?」
直ぐに返される返事に。
面を被った人物はウソをついているかどうか。
答えたゾロの目を覗き込んで調べて。
「お前は《木の葉の里》と云う場所を聞いた事があるか?」
「ない」
直接、顔を向けて。
その人物が向ける殺気を一身に受けて。
これでウソが言える人間が居たら、お目にかかりたいと思える程に。
密度の高い、気の遠くなるような殺気をゾロは受けて。
それこそ失神してしまった方がマシなんじゃないかと思えるくらいの時間が経った頃。
「………そうか、…悪かったな」
そう言って。
その人物は背中の刀から手を離し、殺気を収め。
屈んでいた体制から立ち上がり。
スタスタと甲板へと向かって歩いて来た。
側面に座っていた時もそうだと思っていたが。
マストを伝って歩いて来るその間。
その人物は側面を歩き続けたワケで。
呆気に取られたのはルフィを抜かした全員で。
側面から甲板へと下り立った面の人物に。
「なーなー!お前それどうやってんだ?スゲーよ、スゲー!!」
一人、今の状況を判断しきれていない船長が的外れなコトを叫んでいるワケで…。
兎に角、この人物から事情を聞かなければ、と思うのだが。
如何せん船長が邪魔をしてナカナカ話は進まなかった。
「それで貴方は何処か違う世界から来たって云うのね?」
「あぁ、そうとしか云い様が無いのが本音だね」
漸く、その人物から話を聞きだしたナミは。
本当にそんな事が有り得るのだろうか、と思いながらも。
この人物の格好、能力を考えるとそうとしか思えなくて。
一つ、大きな溜息を吐いた。
「おらよっ……と、まだ名前を聞いてなかったな…」
一応の話を聞き終えたサンジがお茶を出すが。
その人物の名前を聞いていなかった事を思い出し。
目の前の茶を置きながらも少々、困ったようにした。
「あっと、失礼。アタシの名前は、ヨロシク」
「ええっ!? 女の方だったんですかぁっ!? 嗚呼、でも嬉しいなぁ〜♪女性がこんな船に来てくれて〜!」
「はは…、もしかしてこのヒトって無類の女好き?」
少しだけ呆れたようにナミの方を向いて聞いたに。
彼女は苦笑いをしながら肯定の頷きを返した。
「ま、向こうの世界にも同じようなヤツが居たし……」
そんな事を云いながら。
と名乗った女性は、ずっと被り続けていた面へと手を伸ばした。
「本当は無闇やたらと顔を曝したら拙いんだけど……いっか。ずっと被ってるワケにもいかないし」
ぶつぶつと言いながらも外した面。
そこからサラサラと豊かな黒髪が。
何処にどう仕舞っておいたのか、と尋ねたくなるような量で舞い落ちてきて。
ずらされた面から見えてくる白い肌に赤い唇。
切れ長の真っ黒な目が、外しきったソレから曝されて。
彼女の素顔を見たGM号の面々は驚きを隠せなかった。
だってどうしたらこんな女性にあんな芸当が。
あんな殺気を醸し出す事が出来るのだ、と。
一瞬でも気を抜いたらヤられてしまいそうな。
あんな危うい空気を作り出す事ができるだなんて。
心底、不思議に思ったワケで。
「あら、なぁに?アタシの顔に何か付いてる?」
その彼等を反対に不思議そうな顔をして見詰める。
「……否、付いちゃぁいねえが…」
「ふふ…、変な子達ねぇ」
初めて彼女の笑った顔を見たクルー達は。
誰もが赤面してしまっていて。
何時もは女と見ると褒めまくる自称ラブコックさんも口を開く事すら出来ないモノだった。
突然来てしまった異世界からの訪問者は。
その内迎えが来るわよ、と。
存外、楽観的で。
その日の夜に開かれた宴会もちゃっかり楽しんでいたりした。
そして酔いの回った船長達にさっきやってたのをもう一回やってくれとせがまれて。
仕方が無いかのように苦笑いをしながら彼女は胸の前で印を組んでキッチンの壁を歩き始めて。
それを見たクルー達は多いにウケテ。
そのウケ方が良かったのか。
彼女は調子に乗って、分身の術や火遁の術を披露して。
自分の世界で無いのをイイ事に羽目を外して楽しんでいた。
翌日、昨日の宴会の影響も無く。
朝も早くから起き出してきた。
そして珍しくも寝ていない剣士が一人、甲板に居た。
「えっと、ゾロだっけ?」
「あ?あぁ、ナンだよ」
朝日に反射する海をお互いに眺めながら。
「昨日はゴメンねぇ。任務の途中だったからさ、敵の罠に嵌っちゃったかと思って」
「否、別に気にしてねえし」
「これでも一応、気にしてるのよ?一般人にあんな殺気向けちゃって」
「ああ?一般人だぁ?」
ゾロの鋭くなった視線にも。
一向に動じる気配も見せずに、は答えた。
「うん、だってゾロは普通の人間なんでしょ?」
「そりゃそうだけどよ」
「だったらやっぱりゴメンなさいよね。ホラ、これでも一応アタシってば暗部だしさ」
「暗部?」
昨日したの説明をろくすっぽ聞いていなかったのか。
ゾロは不思議そうな顔をして。
「やーね、聞いてなかったな。暗部って云うのはねぇ、暗殺戦術特殊部隊の略なの」
「……暗殺戦術だぁ?」
「そ、こう見えたってソコソコ強いんだぞ?」
ニヤリ、と口の端を上に上げる笑みを浮かべ。
は挑戦的な視線を向けた。
「……ほう…、だったら俺と一勝負してみねえか?」
「は?…何でアンタと勝負しなくちゃイケナイの?」
「強ぇヤツと勝負したくなるのは仕方ねぇ事なんじゃねえの?俺は剣士なんだしよ」
「……ふぅん…、別にイイけど」
「じゃ、朝飯前の一運動と洒落込もうぜ」
先程のと同じような口の端を上げる笑みを作り。
ゾロは船の後部へと歩いて行った。
「………へぇ…、なかなかイイ男じゃない」
暗部の名を聞くだけで震え上がっている里の人間や。
同じ、血生臭い匂いを纏った少々壊れ気味な仲間達。
何時も煩く纏わり付く元暗部の現上忍、加えて自分の彼氏と云う位置を占拠したアイツ。
普段自分の周りに居るタイプでは無い『ロロノア・ゾロ』と云う存在に。
自分の世界では無いと云うのも手伝ってか。
少々、興味を持ち始めていた。
だってアタシは暗部だって云ったのよ?
話を聞いていたあの女の子や鼻の長い人間に、トナカイは怯えた表情を作ったけれど。
それが普通の反応だと思っていたのに。
あの金髪の男の子は手を握って。
『女性がそんな事をしちゃイケマセン』
ナンて本気で訴えてくるし。
この船の船長は笑いながらホントにすげえな、なんて云って目を輝かせているし。
「……ふふっ…、変な所ねぇ」
楽しそうな表情をして。
頭の後に追いやってある暗部面を前へと引き寄せて。
ゾロの相手をすべく、もまた歩いて行った。
朝も早い時間帯から。
突然、聞こえてきた刃と刃がぶつかり合う音。
戦闘では無い筈なのに。
今日の見張り役のウソップからは何の呼びかけも無いし。
それでも聞こえてくるゾロの声。
その声は彼が戦う時に発するモノで。
『鬼切り』だの『虎狩り』だの物騒な掛け声と共に凄まじい音の連続が続いて。
未だ情眠を貪っていたクルー達はその騒音に速攻で起こされて。
眠気を一気に吹き飛ばされた彼等は慌てて音の拠点へと急ぎ。
何だ、何だと云いながら外への扉を開けば。
早くから朝食の用意をしていたサンジはキッチンの扉を開けた儘、固まっていた。
その光景に目を見開いて、釘付けにされていたのだ。
見張りをしながらも眠ってしまっていたウソップもその音に目が覚めて。
目下で繰り広げられている光景に目を奪われていて。
起き出して来た残りのクルー達もソレを目にすれば。
彼等の姿に。
ゾロとの戦う姿に目を奪われた。
舞うかのようにゾロの繰り広げる攻撃を全てかわし。
昨日、見せてくれた側面を歩くと云う芸当を入れながら勢い込んで来る彼を翻弄し。
背中にあった短めの刀を身体の一部にしたように、見事なバランスでゾロへと攻め込んでいって。
時折、消えてしまうかのように。
目が追いつかないかのような動きでもって彼を戸惑わせて。
あんな面を被って。
視界が悪いだろうにも係わらず。
ソレをモノともしないで、淡々と彼の攻撃をかわす。
相手の表情が伺えないのが、こんなにも不気味な事なのか。
その事を初めてルフィ達は知る。
だってアレだけゾロの攻撃を受けながら、かわしながらも息一つ乱す事無く。
あんなに動いているのその動作に乱れ一つ無く。
初めて彼等は異世界の『暗部』がどんなモノかを知る。
次第に息が切れ始め。
動きの鈍くなってくるゾロに。
は壁へと獣のような格好をしたままくっついていて。
ソコから一気に殺気を込めてゾロへと突進して行く。
その動きの早さ。
目に映るか映らないかの瀬戸際のソレに。
ギリギリで反応出来たゾロが。
咄嗟に上げた和道一文字で身を守るように構えると。
その刹那。
彼女の身体が刀と共にぶつかってきた。
ギィインッ!!
と、物凄い音と共に素早く姿を消す。
ソコまで行くと。
もう彼等では目で追えなくて。
「……ほぅ…、流石に自分で云うだけの事はあるな…」
のそのセリフが聞こえて来たのは。
まったく別の方向。
彼等の注目を浴び、絶対に何処へ行ったか分からなくなるなんて事、有る筈が無いのに。
それでも彼女の存在はフライパンを握るサンジの真後ろで。
背後に立たれた本人も。
まさか、自分の後に人が居るだなんて思いもしなくて。
酷く驚いて、とても狼狽して。
そんなサンジへと、暗部面を取ったが笑いかける。
「失礼、コックさん」
「………いえ……」
搾り出したような、その声に。
は高い声で笑い出して。
「ねえ、ゾロ。そろそろ朝ご飯みたいだから止めようか」
「…あ、……あぁ…」
ふふふ…、と流しながら視線を向けて。
呆然としているクルー達を残し。
は一人、キッチンの中へと入って行った。
未だに呆けたような顔をして。
無意識に視線を向けるも、彼女がソチラへと視線を向けると彼等は目を背けて。
そんな食事が終わりを告げようとした、その時。
「オイ、。また勝負してくれねえか?」
ゾロが再びそんな事を云って。
それこそ、あんな事の出来る相手なのに。
人間の動きでは無いようなソレを、事も無げに繰り広げた彼女へと。
再び、あの戦いを挑もうだなんて。
彼等の思考の範囲を超えたその申し出に。
酷い頭痛を覚えたクルー達だったが。
そう云えばコイツも人間離れしていたな、なんて今更な事実に気付いたワケで。
「……はぁ…、今度はもっと静かにやりなさいよねー」
「ししし、俺はあんな感じでイイと思うぞ?」
「おめぇはイイけどな、俺は船に被害がないなら見ていたいけど…」
「あんな凄いのまた見れるのか?」
「こんなクソヤローに付き合う必要なんて無いですよ、さん」
各々のそのセリフに。
全力で戦っていないに。
ゾロが子供扱いされるような彼女の実力に。
本当の彼女の一部を垣間見た筈なのに。
このセリフを云ったワケで。
本当なら怖がるだろう相手に。
笑いながらも再戦を申し込んで。
そんなゾロに。
は満面の笑みを浮かべ。
「イイわよ?何時でもいらっしゃい」
そう返してキッチンを扉を開けた。
その瞬間。
「……、み〜つけた♪」
ノンキな声がキッチンの中に響き渡って。
「……カカシっ!?」
突然現れた妙な格好をした男。
顔の殆どを隠したその男はココが何処かなんてどうでもイイかのように。
見つけた、と云った彼女を両手を広げて抱き締めて。
「やっと見つけたよ〜、何処に行っちゃったかと思った」
「なぁに、云ってんだか。アンタの事だから地の果て迄追いかけてくる気だったんでしょー?」
「はは、当ったり〜」
彼女も当然のように、その抱擁を受け入れて。
されるがままになっていて。
「でもが戦ってなかったらちょっと分からなかったかもね」
「もしかしてチャクラを追ってきたの?」
「正解♪」
自分達には理解の出来ない会話を交わしながら。
その正体不明な男はの手を引いて、外へ出ようとして。
「さ、帰ろうか」
彼女を連れて帰ろうとした。
「ちょっと待て!」
ソレに待ったを掛けたのは、以外にもゾロで。
周りに居たクルー達も、少々それに驚きながらも。
それでもそのセリフには同調したのか、睨むような眼差しをその男へ向けて。
「なぁに?この人達」
穏やかでないその視線を一身に浴びながらも。
一向に動じるでも無く、ソレを何でもないかのように受け入れて。
それが余計に彼等の神経を逆撫でする。
「何なんだよ、お前は。を何処に連れてくつもりだ?」
「何処にって、元居た世界に帰るに決まってんでしょ?」
ニッコリと笑ったその男に。
一見、隙だらけにも見えるこの男が。
の身体を抱き込みながらも、一片の隙も無い事に気付いて。
コイツも相当な使い手だと云う事を無意識に知ったクルー達に。
云い様の無い緊張感が走る。
「そうね、まだ任務の報告もしてないしね」
「でしょ?皆、心配してたよ。早く帰ろうね」
男に同調するかのようなセリフを吐いたに。
少ない時間だったけれども、同じ時を共にした彼等は驚きを隠せなくて。
「、帰っちゃうのか!?」
「そんなっ、もう!!?」
引き止めるような言葉を並べるが。
それでも彼女は綺麗に笑って。
「ゴメンね、アタシ仕事中だったから」
と、答えて。
「そういう事。さ、早くしないと俺達も帰れなくなっちゃうよ」
「了解」
男に促される儘には外へと出て行って。
彼等の後を追って、外へ出てみれば。
甲板に大きな空間の歪みがあって。
当たり前のようにソコへと歩いていく二人に。
元の世界へ帰ると云ったへ。
「!! テメエ約束破る気か!?」
ゾロが大きな声を上げて抗議して。
その声に、内容に振り返った彼女は。
少しだけすまなそうな笑みを浮かべて。
「…ゴメンね、ゾロ」
「うるせえ!何がゴメンだ、お前とは何がナンでももう一回勝負がしてえんだよ!!」
「……ゾロ…」
「なぁに、アレ。もしかして殺しちゃってイイの?」
チャチャを入れる男に、苦笑いをしながらもは止めて。
「分かったわよ、来れるんならまた来てアンタの相手してあげるから」
そう返せば。
「来れるんならなんて曖昧な言葉はいらねえ!絶対にもう一回来い!!」
そう怒鳴り返して周囲を呆れさせて。
そんなゾロに男はニッコリと笑いながら怒りを露わにして。
漏れ始めた殺気に逸早く気付いたが怒る男を宥めながら笑って。
「分かったわよ。また今度ね、ゾロ」
笑いながら。
手を振りながら。
迎えに来た男を引きずりながらも。
歪んだ空間の中へと入って行って。
GMのクルー達に見守られながら。
彼女達の姿が飲み込まれ。
掻き消えて。
空間の歪みすら消えそうになったその瞬間。
そこから一本のクナイが凄い勢いでゾロ目掛けて飛んできて。
咄嗟に避けようとするが、それより早く。
もう一本のクナイがソレを叩き落して。
そしてその空間は消えた。
信じられないような思いでソレを見ていたクルー達。
だって、そのもう一本のクナイが飛んで来なければ。
ソレは確実にゾロの眉間に収まっていたワケで。
苦い顔で自分の眉間を狙って投げられたそのクナイを拾い。
もう一本、自分の命を救ってくれたクナイも拾う。
コレはきっとさっき迎えに来た男が投げたモノ。
もう一つはが助ける為に投げたモノ。
ソロはその二本のクナイを握りしめながら。
…トンでもねえ女に惚れちまったみてえだな……
そんな事を再確認してしまったが。
それでも諦める気なんてコレっぽっちも無く。
まだまだ強くなりたい、と。
強くなって、必ずあの女を手に入れる。
と、改めてそう決心したゾロだった。