どうにもならないこの状況
どうやって此処に来たのか分からない
どうやって此処迄飛ばされたのかも分からない
何故木の葉の里の無い、こんなトコに居るのも分からない…
ってか、この状況を……アタシにどうしろってんだぁぁぁぁあっ!!!
Never let you go 2
取り敢えず、この森に居た男達(海賊だと云っていた)とは敵同士ではない事を確認しあって。
それで何故かアタシは一緒に宴会に招待されてたりする。
理由は簡単。
さっきのオジサン、名前をヤソップと云って、彼が良く知りもしないのに発砲した所為だったりする。
そして此処が木の葉の里も無い、火の国も無い、砂の国も他の国も大名も居ない世界だと改めて教えてもらった。
………でもさぁ…、教えてもらっても一向に状況が変わるワケでもないし…
自分でもどうやって此処に来たのか分かってなかったから八方塞りで。
で、仕方が無いからちゃっかり『お頭』って人の傍で呑んでたりする。
「はぁ……」
先程から38回目の溜息を漏らす。
それを耳聡く聞いた赤い髪の『お頭』さんが此方を向いて。
「何だ、暗いぞ忍者」
「五月蠅いなぁ、アタシが暗くたってアンタには関係無いでしょう?ちなみにアタシの名前は忍者じゃないっつーの」
不貞腐れ気味のアタシはついつい言葉も多めに文句を云って。
ついさっき迄は『お頭を侮辱した』だの何だの騒いでいた輩は。
今では未知の世界から来たであろうアタシに少々同情したようで、遠巻きに見ているダケで宴会を楽しんでた。
「ほう、じゃあ名前、何てんだ?」
「……………」
「名無しの権兵衛ちゃん?」
「……………」
「別に名前位良いだろうが、この世界の事教えてやったんだぜ?」
「……………」
人に気安く名前を教えるのは、アタシの居た世界ではご法度のようなモノで。
だって忍者が名前を売ってどうするっつんだ。
でも此処の世界では向うの世界とは違って、忍者も居ないし平気かな?何て考えて。
しかも確かにちょっぴりお世話になったんだから名前位は、と思い短く名前ダケ答えた。
「……」
「へぇ、ちゃんか。可愛らしい名前の割りには物騒な格好してるケド、その血はどうしたんだい?」
「別にアタシの血じゃ無いわよ」
貰った酒を半ば自棄っぱち気味に流し込んで八つ当たりのように答える。
「じゃあ、返り血ってヤツか?」
「そ、ちょっと襲われててサ。ったく、任務の途中だったってのに……」
「任務?…何か仕事でもしてたのか?」
「うん。里のお偉いさんからお仕事を貰って給料貰ってるのよ、アタシ達忍者は」
「へぇ〜」
何故かアタシに興味を持っているのか。
その赤髪の『お頭』はヤケにアタシの事を聞いてきて。
まぁ、アタシも答えられる範囲でだったら彼の質問に答えてて。
「あ、いい忘れてたけど俺の名前、シャンクスってんだ」
「へ?『お頭』って名前じゃないの?」
「んなワケあるかっ!」
ボケれば直ぐ様来るツッコミに、少々気を良くしたアタシは。
「ねぇ、アンタ達、海賊とか云ってたけどコッチの海賊って皆こんな感じなの?」
そんな質問をした。
だってこの人達ってばあんまりにも気安いって云うか、暢気と云うか…。
正直、こんなんで命の遣り取りをしている『海賊』と云う名の職業?をやっていけるのか。
他人事ながらに、ちょっぴり心配になったからで。
それに対して彼はこの世界の『海賊』の事を詳しく教えてくれて。
どうも、話を纏めると。
皆が皆、こんな風な海賊ばかりでは無くて。
中には悪どい事も平気でやる奴等も居るそうだ。
聞いてみれば自分の世界の海賊と余り変わらない事が判明した。
「奪い合い、騙し合い、殺し合う、そんな奴等も居るがココの海賊団にはそんな奴等は居ねぇよ」
そう云って、自分の部下達を見たシャンクスは。
何処か火影様を感じられる暖かい眼差しで。
どうしてだか、妙に気に入ってしまって。
つい、彼へ笑みを浮かべてしまう。
「変なヤツだな。こんな話、聞いてて俺達が怖くないのか?」
笑みを浮かべ続けるアタシに彼はそんな事を云うが。
「あはは、だってアタシ達がやってる事だって大差ないんだよ?」
そう、自分達だって任務と云う形をとって相手の何かを奪い合い、状況に寄っては殺し合い。
そして欺き、使い物にならなければ冷酷に殺す事もあるし、アタシは特に女だからソレを使って情報を得ると云う事もする。
考えてみれば、自分に素直に生きる彼等の方がよっぽど綺麗な生き物なんだ。
そう教えてやれば。
彼は酷く嫌そうな顔をして。
「俺がどうこう云うような事じゃねぇのは分かってるが、一つだけ云わせてくれ」
「ん、何?」
「そういうのはお前みてぇな綺麗な女がする事じゃねぇ」
正面きってそんな事を云われたのは初めてで。
初めてなダケにどう対処して良いのか分からなくて、困って、固まった。
だって…綺麗な女、だなんて……
「………そ、…そんな事云われても、アタシが忍になるって決めてこうやって忍者やってるんだから…」
「あぁ、ソレはお前さんの意志で決めてお前さんが自由な未来を進んでるって事なんだろうけどな」
「…そうよ」
「でも殺るって事は反対に殺られるって事もあるんだろ?」
「そりゃ任務中に死亡する人達は沢山居るわよ」
「そんな殺伐とした世界にゃ、俺は居てほしくねぇ」
………否、……居てほしくないと云われても、…ねぇ
「でもね、アタシはもう現実に忍なワケだし。今更止められないのよ」
そう、死んでから灰にされて骨すら残されなくて、墓すら無いようなこの仕事だけれど。
一旦、忍と云う職業を選んだからにはもう止められないのよ。
「それにね、死ぬ事は怖いけどアタシ達にはそれ以上の誇りがあるの」
「誇り?」
「そう、忍としての誇り。火影様の為に、ひいては里の皆の為に仕事をして、里に潤いを齎して役に立つ。
その為に辛い思いをして忍者になったんだもん。そう簡単には止められないわよ」
「………そう、か」
「そうよ」
嬉しそうにその事を語るに。
シャンクスは何処か諦めたような顔をして。
「でもね、アンタにそう云ってもらえてちょっと嬉しかった……」
フォローじゃないけど、最後にそう云ってやれば。
彼はちょっぴり嬉しそうに笑った。
そんな穏やかな時間を共にして。
美味い酒を飲み交わし、程よく二人の仲が進もうとした時だった。
逸早く気付いたのは、矢張りで。
バカ笑いをしながら、彼等の武勇伝を聞いていると。
忍の耳でしか聞こえなかった僅かな物音。
大勢の人間の気配。
漂ってくる殺気。
其れ等を感じた途端にの動きがピタリと止まって。
静かにテーブルへと酒のコップを置く。
其れを不信そうに見るシャンクスと周りの男達。
「どうしたんだ?」
「北北東の方向、距離は約2キロ、人数は約50ってトコかな」
「は?何云ってんだ?」
「コッチに来るよ。多分此処を狙ってるんだと思う」
何をバカな、と嘲笑うかのように周りの男達はそのような態度を取るが。
変わらない彼女の真剣な眼、表情は一概に一笑に付される類のモノでは無くて。
その場に居た男達は段々と静かになっていく。
すると遠くの方から微かに聞こえてくる大勢の足音。
消えていくの気配。
何時取り出したのか、彼女の手の内には先程の凶器。
「距離、約100、80、60、……」
カウントされていく声と共に常人の耳でも聞き取れてくる足音。
「……来るよ…」
彼女の声と共に現れた大柄な男達。
「がーっはっはっはっ!! 漸く見つけたぞ、赤髪ィ!!」
髭だらけで品の無い笑い声に醜悪な顔。
其れがムカついたのかの眉間の皺が寄る。
「は、誰が来たのかと思えば二度と見たくない面が来やがった」
シャンクスも嫌そうに云って眉間に皺を寄せて。
「オイ!! テメエに殺された同胞の仇、今、ココではらさせてもらうぞ!!」
「ありゃ、お前の能無しの部下が悪ぃんだろうが」
呆れながらそんな事を云っているシャンクスに腹を立てたのか。
「問答無用だ!やっちまえ!!」
後に居た無骨な輩共に云い放った。
「あー、人が折角楽しんでたってのに……。気分を台無しにしてくれた代償はキッチリ払ってもらうぞ!」
シャンクスの掛け声と共に、先程まで宴会を楽しんでいた男達が歓喜の声を上げて。
手に手に凶器を持ち、応戦していく。
「あ、。お前は危ないから俺の隣ね」
怒号が飛び散る戦場で。
そんな言葉を口にしたシャンクスに。
傍らに居たはメチャクチャ嫌そうな顔をして。
「何でよ。アタシ等は高みの見物なの?」
「そ、今日は特別なお客さんが居るから危ない事はやらねぇの」
「アタシだったら大丈夫だし?派手にやっちゃいなよ」
「そういうワケにはいかねぇって」
そんな押し問答をやっていると、好き勝手やっていた味方の隙を狙って何人かの敵がやって来る。
「女とイチャ付いてる場合じゃねぇぞ、赤髪ィ!!」
下品な言葉使いで突っ込んで来た先頭の敵。
考えるより先に身体が動いていた。
まるで見えなかった彼女の身のこなし。
目の前に居た筈の彼女の身体は、気が付けば突っ込んで来た男達の後にあって。
先頭に居た男を初め
その数人の男達は全員
首を
掻っ切られて
いた
「あ、聞くの忘れちゃった。殺しても良いんだよね?」
しまった、やっちゃったと云うような彼女の持つ武器からは、未だに滴る夥しい血。
表情と行動がまるっきり一致しないその行為に。
シャンクスを初め、傍に居た男達、敵・味方を含めて呆然とした。
「………テメッ…よくもっ!!」
逸早くフリーズを解かれた敵の一人が彼女へと襲い掛かって行くが。
矢張り、目で追えない素早さでソイツの喉元も掻っ切って。
そしてその姿は消えていた。
敵も味方もシャンクスでさえ、その動きを追えなくて。
周りを見渡すが、彼女の姿は見つからなくて。
仲間を殺された男達が怒号を上げて彼女の居場所を血眼になって捜すがどうしても発見出来ず。
気配も影すらも残さず、まるで消えてしまったかのような彼女に。
幾ら待っても姿を現さない彼女に。
「おい、?! お前ドコ行ったんだ!!」
シャンクスが幾分、焦ったかのような声を上げれば。
「何処って此処だよーん」
そんな暢気な声が返ってくる。
それも敵の大将の頭の上から、だ。
まったく体重を感じていなかったのか。
その醜い顔をしたお頭は、酷く驚愕して狼狽して。
慌てて自分の頭の上に居る彼女の足を掴もうとするが、ソレより一瞬早く。
は木の枝へと飛び上がった。
口には先程の凶器を銜えて。
軽い運動をこなすかのようにして身を翻して。
まるで羽が生えているかのような流暢な仕草でもってソコまで飛んで。
凶器を手に持ち替えて、此方を向いて。
ニヤリと笑う。
あのホンの僅かな時間で移動したその動き。
その動きは、この場に居た誰にも気付かれる事無く。
更に移動した先は敵の大将の頭の上で。
狼狽える相手の頭の上に居続けるそのバランス力。
加えて頭の上から跳んだその身軽さ。
どれもこれもが人間離れしていて。
「なっ……何なんだよ!この女っ!!」
「化け物かっ?!」
「否、悪魔の実の能力者だ!!」
「あんなの人間じゃねぇよ!」
彼女の持てる能力を目前にして。
敵を初め、味方ですら狼狽え初めて。
「ねぇ、シャンクス。コイツ等って全員殺っちゃって良いワケ?」
獣のような仕草で笑みを浮かべ。
彼女はこの場に居る誰もが身を竦ませるような殺気を放って。
枝の真横に吸い付くようにして構え、飛び出そうとすると。
「うわぁぁあっ!逃げろぉっ!!」
「あんなのに敵うワケねぇよ!」
自分達から挑んで来たにも係わらず、奴等は逃げ出し始めた。
「あははー、逃げちゃったよ」
そんな彼等に、この根性無しが、と。呆れたように見送って。
その殺気を収め、ソコから矢張りと云うかまた消えるようにして移動して。
シャンクスの傍まで一瞬で来る。
そして。
「ね、アイツ等殺んなくても良いの?」
何ならお酒の礼に追いかけてって殺ってこようか?等と追加して。
先程放った殺気は見事な迄に消え失せていて。
その様子はさっきの猛獣のような女とは容易に同一人物とは思えないソレで。
呆気に取られたのは此処に居た赤髪海賊団の誰もが一緒。
そう、『お頭』と呼ばれるシャンクスですらそうだった。
でも、矢張り『赤髪』等と二つ名を貰い。
天下の王下七武会の一人のシャンクスだけは他の誰よりも違っていて。
「………惚れた……」
「………は?」
呆けるを目前にして。
「………お前、…良いよ……」
「だから何がナンだって?」
歓喜の表情を惜し気も無く現して。
「こんな女、見た事ねぇぞ!俺ァ、お前に惚れた!!」
「はぁ?!!!」
照れもせず、それこそ大声で。
その場に居た誰もがその言葉を鮮明に聞ける音量で。
熱烈なラブコールを贈った……
天国のお父さんっ、お母さんっ!!!!?
アタシは何をそんなに気に入られたっての!?
どうしてこんな異世界に来てこんな告白受けてんのよーーーーっ!!!!!!!