次々と、次々と……
味を占めたアタシは悪名高い海賊から魂を引き抜き、喰らっていた
【手】
どうやらこの世界は今、大海賊時代と呼ばれる時代なんだそうだ。
力こそが全て、そう云いながら海賊達は自分達の利益の為に罪もない人達を殺し、モノを奪い、女を浚い、子供を売り払う。
酒場へ行けばそんな奴等の賞金首リストが張り出されていて。
奴等の顔を記憶に焼き付けたアタシは次々と奴等を狩っていった。
そう、幾ら屈強な男だろうが、武器を使おうが、高々人がアタシに勝てる訳もなく。
彼等はアタシに魂を抜かれて食われて、その生を終える。
気が付けば、ヴィーの力も大分元に戻ってきていて。
死神の証である、とでも云える【鎌】が手元へ戻ってきた。
これが戻ってきてくれたお陰で魂を集めるのがスムーズにいくようになり。
アタシはご機嫌でそれを毎日振るっている。
大海原にポッカリと浮かぶ船の上でアチコチを見渡して。
例えどんなに遠くに居ようともソイツの顔を思い浮かべるだけで。
ソイツが今居る場所、している事がスクリーンのようにアタシの目に映りこんできて。
悪行を行っていなければ後回しにし、噂通りの悪人ならばその場で【鎌】を振るう。
そしてその魂を【鎌】に吸収させる。
軽く振るだけで幾人もの命を奪えるこの手に、流石に恐怖を覚えるが。
それでも殺しているのは所謂悪人のみで。
第一、人を殺して魂を食わねば自分が消えてしまう。
せめてヴィーの力が戻るまではこのペースで魂を食さねばならないのだ。
こんなトコで怖気付いてる場合じゃないんだ。
そうしている間に、いつしか傷もないのに賞金首が殺される、と噂が立ち。
【死神】が居るんじゃないか、と。
人の命を、幾ら悪人であろうともこれだけの数が死んでいればその噂は瞬く間に浸透していき。
この世界、全土にその噂が流れるのに余り時間は要さなかった。
【死神】となってから、魂さえ喰らっていれば空腹と云うモノを感じなくなったアタシは。
小さな船でこの世界を移動していた。
時たまこんな船でも襲おうとする輩が居るのに苦笑いを浮かべるが。
そんな奴等は速攻で魂を頂いている。
世界政府も長きに渡るこの異常現象を放っておく訳にもいかずに乗り出してくるが。
目撃者も居ない、遺体に何の痕跡も残っていない、現場も荒らされていない。
人が侵入できない所でも起こるソレに対処が出来る筈もなく。
犯人は悪魔の実の能力者だろう、と憶測するも。
憶測の域を出ず、またその能力も不明で。
犯人は一人なのか集団なのかすらも分からず仕舞いで、完全にお手上げ状態だった。
あちらの世界では虫を殺すにも戸惑っていた自分が心底可笑しくて、己に対する嘲笑が浮かぶ。
此方に来た途端、数多の命を奪ったこの手。
本当に来て数分の間に三桁にも届きそうな命をこの手で摘んだ。
悪人は悪人だった。
けれど彼等にも待つ人間は居ただろうし、思う事もあっただろう。
しかしアタシは戸惑う事すらせずに簡単にそれを摘み取った。
見えはしないがこの手は誰よりも穢れているんだろう……
己が持つ鎌よりも黒く黒く染まっていって。
二度と落ちる事のない汚れを、穢れを掴んで…
でも今更引ける訳もなく。
アタシは他人の命を摘み取り続けるのだろう。
この手を更に黒く染めながら…