流石にこんな夜には、…何も、考えたくなくなる……






















【朧月夜】






















青キジが政府へと話を通してくれたお陰でアタシは好きな時に司法の島、エニエス・ロビーへと出入りできるようになった。

一年に一度だけこの島を訪れて。
アタシの為に用意された生贄から魂を奪ってアタシは生き続けている。

その年の犯罪件数によって人数が増えたり減ったりはしたが。
基本的には必ず一人は確実にアタシへと献上されて。

どう殺すかはその時の気分次第だけれど。
その年に訪れた時のアタシの気分は最悪なモノで。

用意された処刑囚の記録を読めば、更に気分はドン底までめり込んで。

よくもまぁ、こんな輩を生かしておけるモノだ、とばかりに。
アタシはソイツの首を跳ね飛ばすべく、死神の鎌を具現化させて片手に持ち男の前へと立つ。

目の前でアタシの気に怯えるソレは、既にこの書類に書かれていた男とは思えないソレだったけど。

コイツがしてきた事には変わりはない。








所詮は罪人。

しかも重罪人だ。

掛ける情けすら湧いてこない。








安らかに、と。
たまに浮かぶ心の内の声は、今ではさっさと殺してしまえと云っていて。

こんな奴の命でさえ吸収してしまう自分の性に無償に腹が立った。








最近、このエニエス・ロビーでは胸糞悪い実験を行っているようだ。
例の人ならざる聴力で聞いた、世界政府が試作で作った諜報部。

【サイファー・ポールNo.9】

物心がつくかつかないかで連れて来られた子供達。
どの子も政府が身元引受人になっている孤児や保護された子供達で。








この中で生き残れるのは一体何人?
こんなにも幼い、何も知らない子供達をこんな環境に置いて、一体どんな試練を積ませるの?

人体を究極にまで鍛えた諜報部員を作る。

そう誇らし気に云っていた何処かの大佐の反吐が出るようなニヤケた面。
誠心誠意を持って、この世界政府の為に、と看板をあげて五老星に許可を貰ってこの施設を作ったらしいが。

そんなの建前だ。

自分達、政府の為により強力な駒が欲しいが為にこんなにも純粋で穢れのない魂をどす黒い色の染め上げていくんでしょう?

アタシが犯した罪よりよっぽど重いんじゃないの?
その行為って……








けれどこの子達は日々、政府の為、と押し付けられた正義を抱え。
世界中に生きる人々の為だと云い聞かされて戦闘スキルを積んでいく。

人々を守るのは政府の役目。
その政府を守るのが自分達の役目と信じて。

自分は選ばれた誇らしい人間なのだ、と。
そう信じ込まされて、日々のノルマをこなしていく。

今日も明日も子供達は血を吐くような努力をして己を鍛えていく……








あァ……

やっぱりこんな夜に来るんじゃなかった








春の風の誘われて来たものの。
来た先では見たくもない光景が死神の目を通して飛び込んできて。

あんな事をして一体何の役に立つの?

政府はそんな人間を作り出してどうするつもり?

確かに幼い頃に刷り込まれたモノは絶対になり易いだろう。
けれどソレが崩れてしまったらどうするんだ?

信じ込まされていたモノが崩れた人間はとてつもなく危険になるだなんて誰が考えても簡単に分かるのに、ね…








見上げる闇夜にぼんやりと浮かぶその朧月は。

まるでその子達の未来を象徴しているかのように混沌としていた……








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