ざぁぁ…、と強い風に乗って香ってきたのは

何処かで嗅いだ覚えのある香りだった…























【さくら】
























気分の悪い儘、けれどその場に留まっていたかったのはきっとこの木の所為。

毎年、毎年この時期に咲き狂うこの木の所為だ。

アタシ如きが両手を回しても届く事すら叶わないこの巨木は。
あちらの世界で毎年見ていた桜によく似ていて……

だからこそ、この時期に贄を求めるようになったのだが。








アタシはあちら側の世界が懐かしいのだろうか……








その場に蹲るようにして固い幹に手を当てる。

ざらり、と固い感触が手に伝わって。
触れ合った部分から、その巨木の命の音が聞こえる。

ふわりふわり、と落ちていく薄紅色の花弁が舞い。
幻想的な光景が辺りを包み込んで。

まるで此処があちらの世界であるかのような錯覚を覚えた。








帰りたい……訳ではないんだと思う…

只、少しだけ懐かしいような気がして。
あちらにはもう帰れないから…

こんな、姿すら変わらない化け物になってしまった自分はあちらの世界じゃ受け入れてもらえないから…

此処に居るしか手立てがないから、だからそう思うだけ。









此方側に来て、もう何年経ったんだろう……

最初こそ、その存在を感じ取れていたヴィーも完全にアタシと融合してしまったのか。
今では話す事すら出来なくなって、その存在を内側で僅かばかり感じるだけになってしまった。

人と喋らなくなって何年経っただろう。
人らしく笑う事を忘れた自分は一体何て生き物なんだろう。

人の命を奪うだけの、只それだけの生命体なんだろうか…








これが……、生きたいと願った罰なんだろうか…








ねぇ、ヴィー

貴方は全てを分かっててアタシと一緒になったの?
こうなる事が分かっててアタシに話を持ちかけたの?

もう返事すら出来ない貴方に聞くのは意味のない行為だと重々承知だが、問わずにはいられない。

悲しい、のとはちょっと違う。
悔しいでも後悔とも違う。









あァ……、なんだ…

これはきっと虚しいんだ









人を遥かに凌駕した、人知の及ばぬ力をこの身に宿し。
終わらぬ生を持ち、変わらぬ容姿を手に入れ、姿形、その顔すら変えられて。

数多の命と引き換えに、アタシは偉大なる能力を手に入れた。

ヴィーの為、アタシの為とせっせ、せっせと毎日毎日命を摘んで。

最初こそ生き返れたのが嬉しかった。
アタシがあの世界で死んだ時の儘の姿で、自分の存在を確認できた時はそれは嬉しかった。

生き返れたんだ。
アタシは再び【生】を手に入れたんだ、と。

けれどそれは大きな勘違いで。

吸収し、持て余した魂はその分の寿命をアタシへと蓄積する。
即ち、心臓を打ち抜かれても、身体を真っ二つにされたってこの身体は死んでくれない。

怪我をすれば、その魂が持っていた治癒力のお陰で傷なんて直ぐに治る。
そして此処最近はその怪我すらおわない。








無駄に時間を過ごし。
アタシは一体、何がしたかったんだ?

あんなにも【生】に執着したのに。
今では生きる事すらどうでもよくて。

言葉にしきれない虚しさが身体中に溢れかえっていて。








「………生きるって……虚しいのね…」

ぽつり、とそう呟いた途端。
背後の気配が僅かに揺れて。

「ねぇ…そう、…思わない?坊や」

死神の目が、立ち並ぶ巨木等無いも同然に辺りの景色を映し出してくれて。

暗闇にも染まらぬ綺麗な柑橘系の髪の色をした14〜5の子供が視界へ飛び込んできた。









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