唇に感じる感触が

身体中が包み込まれる温かさが








とてもじゃないが信じられなくて
現実だなんて受け入れられなくて








目を、閉じる事さえ忘れていた……























【好き】























何度も何度も。
繰り返し口付けられる。

啄ばむようなソレはとても優しくアタシを包み込んで。








只でさえパニくっていたアタシの脳は、その役目を完全に放棄していた。








ぎゅう、と抱き締められる身体も。
しっかりと、逃れられぬように掴まれた後頭部も。
ぴったりと重なるように密着したお互いの身体も。

これは本当に現実なんだろうか……、だなんて。

そんな事を思っていた。








そぅ、と離れていったカクの唇。

未だ呆けたような顔をしているアタシ。

それを真剣に見詰めてくるカク。








微妙な緊張感を持った静寂がその場を支配して。
でも、その静寂を破るのはやっぱりカクで。








「ワシはが何者でもかまわん。ずっと……ずっとアンタが好きじゃった…」








突然の告白にアタシはもっと目を見開いて。








が普通の人間じゃない事は分かっておる。けどワシはが好きなんじゃ」








それを知られていた事自体が驚きなのだが。
普通でないのを知りながら尚もそんな事を云う目の前の彼が自分の理解の範囲を軽く超えていて。








「ずっと…、ずっとアンタの事を想ってきた。例え年を取らなくても、全ての素性が分からなくても、罪人を処刑する殺戮者でも構わん。
 がどんな風に呼ばれる存在であろうと関係ない。ワシはアンタが……、が好きなんじゃっ!!」








何処か苦しそうな顔をして、酷く真剣な目でアタシを見詰めて。








普通の人間じゃない事が分かっていながら貴方はその言葉を云うの……?

人を殺した事を知ってるのに何でそんな事が云えるの?

アタシがどんな風に呼ばれてるのかさえ知らないのに…








「毎年アンタが此処に来るのをずっと待ってたんじゃ。毎年辛そうにしてたを何時かこの腕に抱いて…
 ワシの腕がに釣り合う迄、ずっとずっと鍛錬を積んで、隣に立てるように…を抱き締める事ができる日を
 ずっとずっと待っておった……」








本当に本当に、本気でそう云っているんだろう。
きっと、ずっとアタシなんかにそんな幻想を抱いていたんだろう…

アタシはカクが思っている程に綺麗なモノじゃないのに。
もっともっと汚くて自分本位で、こんな事をされるのもするのも似合わない、資格のない化け物なのにっ……

そう、思われてはいけない存在なのにっ!!








「………アタシが……、どれだけの人間を殺してきたのか知ってて云ってるの…?
 こないだのだけじゃないんだよ…?…アタシが殺してきたのは……」








自然と声が震えてしまう。

知っているのに、知っていたのに。
自分がもう【人】でない事なんて、もう何年も十何年も前から分かっていた事じゃない。

世界すら超えてやって来たのは自分じゃない。
他人の命を奪い取って、自分の糧にして。

昔、自分が【人】であったのが信じられないくらいに変貌して。
帰る世界すら失って……








「……これがアタシの本当の姿だと思ってるの?…アタシ……、自分の顔ですら変えられる化け物なんだよ…?」








顔を変えられる、アタシが抱える秘密のひとつを教えてやれば。
カクは微妙に表情を変えて。

今ならまだ間に合うから、今ならまだこの子は普通の道へと帰れるんだから、と。

幾らこんな場所であんな仕事をしているかと云って。
アタシみたいなのと係わり合ってはならないんだ。

アタシみたいな【化け物】となんて……








「そんなに知りたければ教えてあげるよ……、アタシがどんな風に呼ばれて、どれが本来の姿なのか……」








巻き付く腕を払い除け。
何処か自虐を含んだような目になるのが自分でも分かったが止められない。

ずっとずっとこれがコンプレックスになってたんだ……




















多少の意志を持って背中の方を意識すればばさり、と音がして闇よりも濃い色をした翼が生えて。

左手に鎌をイメージすれば、何も無い処から分子が集まるような気配がしてコレも闇より濃い黒の鎌が手の中に収まり。

この装備をして、人を狩ろうと思えば自然と眼の色が変わった……








それはまるで血の色を思わせるかのような、僅かに黒を混ぜたかのような赤で。








此方側へ来て、幾人もの人間から魂を抜いていた時の事だった。
贄の一人がアタシを指差して、そんな目の色人間じゃない、と云った……

あァ、全く持ってその通りだと思ったさ。

近くにあった硝子で見た自分の眼は確かに赤く光を反射していて。
黒に赤、何て不吉な組み合わせなんだ、と。

本当に【人】ではなくなってしまったのを自覚したのはその時だった。
それ以来、決して人前で晒す事をしなかったのに。

なのに……








ねぇ、カク……

これで満足してくれた?








「………アタシはね……、何処の世界でも【死神】って呼ばれる存在よ。…人間じゃない、動物でもなければ普通の生き物でもない。
 本当に化け物なのよ。……幾ら此方の世界の人が悪魔の実を食べてて人間離れしてるからって関係ないのよ。
 戦う訳でも傷を負わせるのも目的じゃないんだから。……只、魂を引き抜くのがアタシの仕事なんだから……っ」








この眼はイヤ……

見たい物も見たくない物も遠くの物も影に隠れている物も何もかもを映し出す。
色だけがイヤなんじゃない、この眼が持つ全ての能力がアタシに自分が人間でない事を教えてくれるからっ……








「幾らね、人間が身体を鍛えようと魂だけは鍛えられないでしょ……?
 アタシの前では人がどんなに足掻こうが全てが無意味なんだから……
 それにこの力を使えばどんな所に隠れようとも関係無しにそのターゲットを殺せるんだ。
 それだけじゃない。やろうと思えばこの世界の人間全部を殺す事だって出来る」








空を飛べた時、とても気持ちが良くて信じられなくて、とても嬉しかったけど。
けれど、ソレは自分が人間でない事の証明で。

アタシが居た世界では【人】は飛べない。

此方の世界で飛べる人間が居ようとも、関係ない。
アタシは異世界からやってきた異邦人で、人ですらないのだから……








「そして吸い取った魂を自分の生へと変換して、……アタシは他人の命で生きてる…
 他人を犠牲にしなきゃ生きていけない化け物なんだよっ…!!」








こんな姿、見られたくなかった……

こんな醜い自分を見られたくなかった…

アタシは何処まで行っても独りぼっちで
孤独に生きていかなければならない

他者との係わり合いは、奪う命への基準を鈍らせるから
他者への執着は弱さを引き出し、判断を鈍らせ、己を破滅へと導く切欠なのだから……








だから諦めてほしかった。
アタシなんかにかまってほしくなかった。
忘れてほしかった。

嫌って、蔑んでほしかった……








お前は【化け物】なんだと

独りはいや

生きている人間を贄にして存在する【化け物】だと

もう独りぼっちはいや

数多の人間を殺してきた【化け物】だと

誰とも一緒に居れない、孤独だけが全てのあの時間は……もぅ…

人ですらない【化け物】だと

……誰か、…誰か…

殺しても死なない【化け物】だと

…おねがい………





































た す け て



































最初こそその目を見開いて、驚いていたカクだったが。
アタシを見続ける彼の目はとても凪いでいて。








「……そんなんでワシの気持ちが変わるとでも思うたんか?」








振り払った手を再度、アタシへと伸ばしてきて。
じぃ、と色の変化した眼を食入るように見詰めて。








「あァ……綺麗な色じゃ…。……の本来の眼の色はこんなにも綺麗だったんじゃな…」








両手でアタシの頬を包み込んで。
その眼を嫌悪の感情で染める事なく、酷く優しくて。

ゆっくりと唇を近付けて、両の瞼へとキス、……して…








「云うたじゃろう?がどんな風に呼ばれる存在であろうと構わない、と。第一、この手はアンタと同じように染まってる。
 伊達にこんな処で生きてる訳でもないしの……。を責めれる資格なんて持ち合わせとらん」








何処か自嘲染みた云い方で。
カクは自分も既に人を殺している、と云った。

こんな所に居るのだから、何時かはその時が来るのは知っていたが。
この年でもう政府はその錘を彼に押し付けたのか……








「……そんな…、顔をしないでくれ……。最初は押し付けられた道かもしれんが、今は自分で選んだ道じゃ。
 が気に病む必要はないんじゃよ…?」

「……でもっ、…アタシはそうなる事を知ってて貴方達を助けてあげなかっ」

「いいんじゃっ!……いいんじゃよ、








細長い腕が伸びてきて、再度アタシを抱き締めて。








が、…そう思ってくれてただけで充分に救いになっとる。それにワシにはアンタの存在があった。
 どんなに訓練が辛くともの事を思えば苦にすらならなかったんじゃ」








優しい手付きで。
ゆっくりとアタシの髪を撫でるその手は。

アタシを恨むでもなく、蔑むでもなく、突き飛ばす訳でもなく。
只管に優しくアタシを受け止めてくれて。








こんな……

こんな化け物なのに…








「ワシの腕は……に必要か…?」








必要としてくれるか、と。
知っての通り、既に汚れてはおるがこの腕は受け入れてさえくれれば絶対にを裏切らん。

絶対に、…絶対にじゃ……








そう、耳元で囁かれ。

そんな風に不安に染められた声で。

こんな異形なアタシに、そんなにも温かい言葉を。








化け物だって云ったのに、人間じゃないって云ってるのに、他人の命を糧にして存在してるって教えたのに。

なのにどうして貴方はアタシを突き放さないの?
本当にカクはアタシを受け入れてくれるの?
さっき云った言葉は本当なの?

本当に……こんなアタシを…








ぎゅう、と力を込められて。

縋るように抱き締められて。

拒絶されるのを恐れるように。

自分を受け入れてほしがる子供のように。

ホンの少しだけ震える、掠れた声で。








が好きじゃ……アンタだけじゃ…ワシにはしかおらんのじゃ……」








そう、繰り返し、囁かれるように零れ落ちた言葉はアタシだけを求めていて。

他の誰を求めるでもなく、こんなアタシを、アタシだけを求めて。

こんな異形の姿の儘のアタシを抱き締めて。

そんなカクを……突き放せるなんて…








とてもじゃないが、できなかった…












何故か本編の方が先にできちゃいました。
ごめんなさい〜(ペコペコ

何だか書きたいお話が次から次へと出てきて全然脳内作業と現実が追い付いてません(ゲフン
パウリーのお話の書きたいし、新しい設定のお話も書いてみたいし。
何故か若バーグに惚れそうで(ぇ
あのロンゲと刺青がヤバイです、えぇマジで。




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