こんなに腹立たしいと思った事はなかった

目の前に緋色の幕が下りたと感じたくらいに、ね
初めてだったよ、此処まで人が憎いと思ったのも








絶対に、……絶対に許してなんてやらない

己のその卑劣な行いを悔いて、悔いて、永遠に悔やみ続けるがいい……






















【absolutely different】〜絶対に違う〜























パウリーをアイスバーグ氏に預けてから数年が経った。

アタシとの約束を守る為に。
『立派な船大工になりなさい』の言葉の通りに、自分の夢の行く儘に。

彼は未だ青年とは云えない年なのに、その腕の確かさを周りに認めさせ始めて。
アイスバーグ氏にも可愛がられているようで、日々を笑顔で送っているのをポッカリと海に浮いた儘見続けていた。

あの魚人が残してくれた海列車のお陰か、この島はあの廃れた空気を一変させて。
今では活気溢れる島へと変貌を遂げて。

あの頃からは想像出来ない程に人々は他者へと優しくなり。
力を合わせてこの島を復興させようとしていた。

アイスバーグ氏もそれに力を入れているようで。
客を取り合う7つの造船会社を一つに纏めあげようとしてあちこちを奔走しているようだった。
勿論パウリーもその活動に参加して彼のサポートをしていた。








どんどん良い方向へと向かって行くあの島から早目に離れていて良かった、と。心底思えていた。

あんなにも笑顔を浮かべて楽しそうにしているんだもの。
こんな化け物の傍に居続けるのとは段違いに幸せなんだろう。

アタシの判断は間違えてなかった。

そう思いながら自分を納得させて段々とパウリーの生活を覗くのも少なくなってきた頃の事だった。








誰も望まぬ来訪者が訪れたのは……
























それに気付いたのはあの日、パウリーから離れる時に施してきた印の所為。

キスと一緒に残してきたソレがパウリーの感情が酷く乱れているのを教えてくれて。
どうしたんだ、何があったんだ、とすぐさまにW7へと目を飛ばして見やってみれば。

パウリーの前に二人の人間が居るのが見えて。
見知らぬ男女が一人ずつ、パウリーの前に居て何かを喋っている。

それと比例するように益々乱れていくパウリーの心。

どうして?と、疑問が湧いて近くでその会話を盗み聞けば。








「まさかあのアイスバーグさんの傍に居るのがお前だったなんてな」

誰?パウリーの知り合いなの?

「アンタがこんなにも出世してるとは思わなかったわ」

厭らしい目付きでパウリーを見るこの女は誰?

「随分と逞しく成長したんだな」

成長……?何でこの男がパウリーの昔を知っている?

「この島も変わったもの……だからね、パウリー」

何でパウリーの名をそんな風に馴れ馴れしく呼ぶ?

「昔の事は謝る。だから、……パウリー」

まさか……まさか、まさか、まさかっ…!!

「今度こそ一緒に暮らしましょう?ね、パウリー」

お前は………お前等はっ……本当にっ…!

「親子水入らずで。な、パウリーどうだろう、俺達を許してくれないか?」








あの日、パウリーを捨てた【親】なのか?

あんなにもガリガリになるまで放っておいた
パウリーを、まるで物を捨てるかのように置いていった
あんなになるまで何一つ手を出さなかった
手を差し伸べようとしなかった……【親】なのか?

今更何をしに来たっていうんだ?

この島の景気が良くなってきたから出てきたのか?
まさかパウリーが許すと思って出てきたのか?
数年前に自分達が行った行為を恥ずべき行為だと思わずに、のうのうとその面をパウリーの前に出すだなんて。

只、パウリーを産んだだけだと云う繋がりだけでやって来たのか?








余りの厚顔無恥さに言葉すら出てこない。

それはパウリーも同様なのか、彼の感情も今の自分と大差ないくらいに激高していた。
何の言葉も発さないが、感情の乱れが彼の心情を余すとこなくアタシへと伝えてくれる。








本当に今更何をしに来た?

何を許せと?
何をどう許せと?
何をどうやって許せと?
何をどうやって許せと云うんだ?

許せる筈がない。
お前等を何をどうやったら許せると云うんだ?

コッチが教えてほしいくらいだ。








痛いくらいにパウリーの感情が訴えてくる。








俺の親は只一人だ、と。
俺にとって【親】と云える存在は一人だけなのだ、と。

例え何年離れていようとも変わらない。
そんな事関係ない。

俺の親はあの人だけだ!!!








「…………帰れ、お前等なんかと話す事なんざ何一つねぇ」








酷い怒りを押し殺したような声で。
ギリギリで平静を装っているのだろう。

そんなの誰が見たって分かるんだろう。

だってパウリーの後ろに居る同じ職をしている彼等が睨んでる。
パウリーをこんな風に怒らせてる奴等を睨んでるんだから。

そう、それはパウリーも同じで酷い憎しみを込めて睨んでいる。
実の、両親を、だ。








あの時、怒れなかった怒りを。

悔しいと云えなかった思いを。

恨めしいと思えなかった恨みを。

憎いと、心底憎いとすら思えなかった憎しみを。

隠す事すらせずにその感情を眼に表せば、恥知らずな親達は一歩後ずさる。








後は後ろに控えていた職人達が奴等を追い出してくれた。

詳しい事情は知らないが、今迄共に過ごしてきたパウリーが此処まで怒れるのだ。
決して良い輩ではない、と。誰が云った訳でもないのに彼等はパウリーを守るかのように回りを囲んで。
奴等から距離を置いてくれる。

そんな風に周りとの関係を築けた事が嬉しいけれど、今はそれ処じゃない。

職人達に追い出されるかのようにしてその場から退かされる奴等を絶対に見逃せない。








そんな事、奴等の目を見たら分かるじゃないか。
あいつ等はパウリーを諦めてなんかいない。

パウリーの何を狙うのかは分からないが、それでも獲物を狙うかのような汚らしい目で見てるじゃないか。








この儘放ってなんておける訳がない。

アタシの目は職人達に気遣われるパウリーから離れて奴等を追う。

パウリーだったら大丈夫。
だって少しずつでも感情が収まってきてる。

【仲間達】に気遣われて、優しい言葉を掛けられて平常心を取り戻しつつある。
あんな奴等、絶対に親だとは認めない、と思いながら。
それでもパウリーは自分がすべき仕事へと帰って行ったから。

だからアタシはあいつ等を追おう。























悔し気に後ろを振り返りつつその場を離れて行くパウリーの両親。

その眼に宿るのは何かを狙う、どうにかして懐柔してやろうと云う魂胆が見え見えの厭らしい目付き。
こんな奴等がパウリーの肉親なのか、と思うと脳が沸騰しそうな位に頭にくるが。

とりあえず奴等の目的を知るのが先だ、と。
どうにかして感情を沈めれば。

奴等はパウリーの職場からそう離れていない店の壁へと移動しただけで。
追い払ったと思い込んだパウリーの同僚は、彼も仕事があるのだろう職場へと帰っていって。

それをイイ事に奴等はそこに居座って、パウリーの一挙一動を目を皿のようにして見詰めている。








その目は絶対に親がするようなモノではなく。
ホトホト呆れかえる。

そして次の瞬間、奴等が発した言葉に思考回路が停止した。






















「生意気に育ちやがって……」

「何様だと思ってやがるんだ、あの小僧」


酷く、憎らし気に働くパウリーを見遣って。


「アタシ達が捨てる直前まで面倒見てやってたんだ、その分を取り返して何が悪いってのよ」

「まったくだ。しかしアイツがやっかいになってる場所はあのアイスバーグだっていうじゃないか」


厭らしい笑みを浮かべて、自分達の子を見詰めて。


「街中が知ってる有名人の処に勤めてるんだ、随分と良い給料貰ってるんだろうねぇ」

「それを親である俺等が貰って何が悪いってんだ」


曲解した意見であの子の今の生活を壊そうと…


「子のモノは親のモンだ。絶対に巻き上げてやるからね、アンタ」

「おお、まかしとけ。パウリーの奴が仕事を終えたら直ぐにでも引っ張ってきてやるからな」


この島は、やっと、今、未来へ向かって走り始めたのに……


「アタシ等は親なんだ。お涙頂戴の一つでもかませばあの子の事だ、見事な位に引っ掛かってくれるさ」

「昔から馬鹿な奴だったからなぁ、あの時代に生まれて何をどうやったらあんな馬鹿な子になるのやら」


自分達の都合で捨てておきながら今になってあの子の生活を脅かそうと云うのか?


「でもそのお陰で今のあの子はお金持ちらしいじゃない?」

「そうだな、どうも誰かを待ってるらしいがソイツの為に給料の殆どを残してるらしい」


あの子がアタシとの生活を夢みて貯めている金目当てなのか?


「何処の馬の骨とも分からない奴にくれてやる必要なんてないさ。その金はアタシ達のモンさね」

「あぁ、あの頃にあそこまで大きくしてやった恩を精々返してもらわんとな」


そんな人、らしからぬ笑みを浮かべ。
あの子の今を破壊しに来た人間が。

一歩一歩あの子が積み上げてきた道を。
夢すら語れなくなってた、全てに絶望していたあの子の未来を、やっと手に入れる事が出来たこの先を……





















お前等なんかに壊されてたまるものか






















一瞬にして二親の存在を海に浮かぶアタシの目の前まで瞬間移動させて。

既に身体は異形化してる。
心がコイツ等を生かしておけない、って云ってる。

感情が暴走する。
パウリー以上にアタシが許せないって思ってる。








突然、目の前の景色が。自分達の居る場所が変わってしまったパウリーの親達は酷く狼狽して。
そして目の前に居るアタシを見付けて悲鳴を上げた。

何なんだお前は、とか。化け物だとか。此処は何処なんだ、とか散々喚いているけどそんなの一つも耳に入ってこない。

感情が全てを支配して、手には鎌が握られて。
赤くなった目が奴等を睨み付けて、それこそ視線だけで射殺せそうなくらいに睨んで。

そうしたら漸く自分達の立場が分かったようで。

酷く激高しているアタシの前で自分達の命が吹けば飛んでしまうくらいの価値しかないのが理解できたのか。
薄汚い笑みを浮かべて、引き攣る声で命乞いをしてきた。

一瞬にして複数の人間を移動させてしまう力を持った輩に敵う筈もない、一般市民である彼等に残された選択は限りなく少なくて。

けれどその選択の権利すら与えてやる訳がないだろう。








数度鎌を振り回せば、奴等の身体からは血飛沫が舞って。

助ける気が、許す気が無いのを知ったのか、襲い掛かってこようとした父親だが。
散々、数多の戦闘を繰り広げてきたアタシにそんな攻撃が効く訳もなく。

アッサリと避けてやり、そしてまた鎌を振るってやれば。
空中に浮いた儘の奴等からボタボタと血が飛び散って海へと流れ落ちていく。

選択権のないお前達がアタシに逆らえる訳がないんだよ。








母親の方が何か金切り声で叫んでいるけど、これも聞き飽きた科白で聞こえない。

今迄に何度も聞いてきた言葉なんて耳タコだ。
今更云われたって心なんて動かない。

【化け物】だ?
【人間じゃない】だ?
【人殺し】だ?
【助けて】だ?

笑わせる。

自分の子を自分達の都合だけで容易に捨てて。
子の心なんて知ろうともせずに簡単に捨てて。

利用価値があると分かれば親面をしながらにじり寄って来て。
やっと手に入れた幸せすらもを毟り取ろうとするお前等の方がよっぽど化け物らしいよ。








お前等なんて死んでしまえばイイんだよ。
お前等が生きている価値なんて何一つとしてないんだよ。

やっと一人で生きていけるようになった自分達の子供から金を巻き上げる為だけにノコノコと現れたお前等なんかにっ
生きている資格なんてある筈がないっ!!





















大鎌を振りかぶって

その首を刎ねてしまおうと思ったのに

寸での処で腕が止まる








本当に殺してしまってイイのか?

私憤で殺してしまってイイのか?








こんな奴等でもパウリーの親には違いなくて。
本当にアタシの感情だけで殺してしまってイイのか?

コイツ等を殺してしまえばパウリーは本当に一人ぼっちになってしまわないか?

助けてくれ、と怯え、涙ながらに命乞いするコイツ等は、何をどうしようとパウリーの両親には違いないのだから。
どんなに薄汚い奴等だろうとコイツ等は紛れもないパウリーの親なんだから……








柄を握る力が次第に失せていく……

例えこんな親だろうが生きていて欲しいと、パウリーは願うのだろうか。
自分を捨てた親だけど、本当はコイツ等に抱き締めてほしかったんじゃないのだろうか。

優しい子だから…
こんな親だろうが生きてた方がイイのだろうか

アタシは捨てられた事もないし、パウリー本人じゃないから分からない。








次第に薄れていく殺気の所為で。
恐る恐ると竦みあがっていた親達は動き出す。

血だらけになってはいるが、どの傷も致命傷にはなっていないから。

違う街にでも放り出せば死ぬ事はないだろう、と。
酷く深い溜息をひとつ付いて移動させようとした時だった。








「……アタ、シ達を…帰して、おくれよ…」

「金なら…アテがないわけ、じゃねぇんだ…」

『………何だと…?』








突然、金の話になって何の事だ、と問質せば。

自分達の息子がお偉いさんの所で働いてて、聞けば金を貯めてるらしいって。
その金を渡すから自分達の命を助けてくれ、って。

息子事お前にやるから俺達は助けてくれっ、って。
その金事お前さんに渡すから、って。
























これこそ、怒髪天を衝くってヤツだ。

























ごめん、パウリー……

ダメだ、この人達は救えない
ダメだよ、…許せないよ

許す事なんてできないよ








絶対に許せないよ








だって、コイツ等はまた……パウリーを捨てようとしてる

アタシも決して人の事なんて云えないけれど。
けれど命事くれてやる、と云ったんだよ。コイツ等は…

自分達の命の方が大事だから、だからパウリーを売ったも同然なんだよ。








何時もなら奪った命はアタシの力へと変換されて使われたりするんだけど。
アタシはこんな命なんて要らない。絶対に要らない!

だからアンタ達には苦痛をあげるよ。

永遠に終わらない、魂への苦痛を。
己の罪を本当に悔い、改めなければ輪廻の輪へといけない地獄と呼ばれる異界へと。








ぼそりぼそり、と異界の扉を開く言の葉を紡げば。
此処最近、ご無沙汰になっていた地獄の番人達がこぞって嬉しそうな声を上げている。

そして目の前に暗い光を放つ入り口が開いた途端だった。
ソコから異形の爪が伸びてきて、アッサリと二人の人間を死に至らしめて。
魂だけを引っこ抜くと遺体は用済みだ、と云わんばかりに捨てられた。

魂を失った抜け殻は重力に逆らう事なく海へと落ちていき。
海王類に食されて、全てが終わった。








そして、アタシに残されたのは胸の悪くなるようなドス黒い感情と。
パウリーに対する罪悪感だった。








何だかんだ云いつつも、アタシは結局パウリーから親を奪ってしまったんだ、と。

【本当の家族】だ、って思われている、云われているアタシが。
実際に血の繋がりのあるパウリーの肉親を、親を殺してしまったんだ、って。

突然来て、突然居なくなった二親に多少は不審に思うかもしれないが。
それでもきっとパウリーの事だから気にしつつも忘れてくれる。

どうしても忘れないのならばアタシが忘れさせるまでだ。

あんな両親の記憶なんて街から消してあげるから。








だからどうか、どうか気が付かないで

どうぞ、どうぞアタシを嫌わないで

貴方から親を奪ってしまったアタシを……貴方まで化け物を見るような目で、見ないで、…ください……

















実はヒロイン、パウリーを捨てただけでなく。
親まで奪い取ってしまった、と云う設定だったんですが。
中々満足のいくように書けなくて、何度も書き直した結果がコレなんですが…

やっぱりイマイチなような…(。-´з`-)ンー

ま、取り敢えずそんなこんなな設定がありまして、上の過去夢へと繋がっているんですね。
ヒロインが自暴自棄な迄に笑っていたのはこんな裏事情があったからでした。

こんな駄文にお付き合いしてくださってありがとうございましたw (o*。_。)oペコッ
引き続きカク夢へのお付き合いもお願いしますd(´∀`@)ネッ☆


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