ソレをしたのは只の気紛れ
ホンの気紛れでしたその行いは、後になって酷く自分を苛めた
でも、先に後悔する事が分かっていようとも
その時のアタシはきっと同じ事をしただろう…
そう思える、些細で少しだけ痛い、アタシの思い出……
【Capricious】〜気紛れ〜
数年前に辿り着いた島、それは水の都と云われる綺麗だったろう島だった。
そう、綺麗だった、と云える程にボロボロになったこの島。
人々は生気を失い座り込み、あちらこちらで喧嘩が始まり、子供の泣き声が辺りの空気を響かせて。
海岸線には壊れた船、大破したソレの残骸が打ち上げられ、海へと出て行った人々が帰ってこない事を教えてくれた。
毎年来る高波に浸水されて(後にその高波がアクアラグナと云う名だと知る)物質が手に入らなくなり。
海賊、海が航海を阻み、少しずつ滅んでいく。
アタシが知るウォーターセブンとはそんな島だった。
だからこそこの島に居る気になったのだけれども……
日々、僅かながらも流れ込んでくる近距離からの死んだ魂。
島を出る事も叶わず、かと云って何時までも此処に居れば行く末等一つしかなくて。
けれどソレをどうにも出来ない人達が集まった島。
何てアタシにぴったりな。
年々衰退していく、もう救いようのない街。
船を作る事を生業としていた島だったのか、その物質を求めに職人達は懲りずに海へ出て。
まぁ、それしか手が無いのは事実だから仕方がないと云えばそうなのだろうけど。
それはアタシの視点から見れば、死にに行くような物だった。
その魂が最も早く手に入る場所。
即ち海辺に廃船から木材を貰い小さな家を作り、そこで暮らすようになる。
人として生きていないアタシには食料なんて必要もないし、寝る事すらしないからベッドだって必要ない。
それでもベッドがあるのは、人間だった頃の名残で横になる為だけだ。
アクアラグナだってアタシの力を使えば、避けて通る。
人々の住む街から程よく離れた此処は、アタシにとって格好の隠れ家で。
しかも毎年行く予定のエニエスロビーともそんなに離れてはおらず、至極便利な所だった。
そんなある日の事だった。
日々、死に逝く魂が微妙に増えた頃、アタシの家の近くの海岸線で今にも身体から魂魄が離れそうな気配がした。
普段なら気にも留めないその事が、何故か妙に気になって。
アタシは久し振りに家から出て其方へと進んで行った。
気になった原因は自分でも何となく分かってはいた。
それが、幼い子供の魂だったからだ。
この街は今現在、衰退する一方で。
自給自足が出来ない者からどんどん死んでいくのは至極最もな事。
だから弱者は切り捨てられる。
それが今のこの街の姿だった。
足音も立てずにその場へと歩き、目標物が見つかれば。
それは矢張り幼い子供で。
片手で数えれる程の年頃のその子は酷く痩せており。
視界へと入ってくる金髪はごわごわしていて手入れ等されていない事など一目見れば誰にでも分かる代物で。
正に【捨て置かれた】と云う言葉がぴったりの人間だった。
こうやって持て余された子が親に捨てられたのを見るのは何回目だろう。
何度見ても胸の悪くなる……
幾ら廃れた島だとて、幾ら食料が不足していようがまだこんなにも幼い子ではないか。
それをこんなにも痩せ衰えるまで食料を与えず、あまつさえ放置し、捨てるとは。
人の魂を喰らっている自分が云うのも何だが、生きている人間の方が数倍も酷いのかもしれない、と。
そんな事を思いながらその子供に近付いた。
ガリガリに痩せた身体は直視に耐えかねる。
それも対象が子供なら尚更だ。
けれどはその子供に向かって言葉を放つ。
「子供よ、もう疲れただろう……。今、楽にしてやるからな」
大抵の子供は此処へと捨てられる頃には既に手の施しようがなくなっていたり。
深い傷を負わせられていたり、手を下された後だったり…。
兎に角、死ぬ寸前で此処へと連れて来られるのが常だった。
それにその子供達も揃って云うのだ。
辛い、痛い、悲しい、苦しい、嫌だ、もう嫌だ、生きているのが嫌だ、と。
だからは何度もその子供達を殺してきた。
救う為に、と。痛みを伴わないように魂魄だけを抜いて、来世への輪廻へと導いて。
何度も何度もソレを繰り返した。
今回もそうであろうと、魂を抜く為に手を伸ばすと。
「……ぃ…ゃだ…、ぉれ………だ、しに……くねぇ…」
そう、云った。
それに軽く目を見張った彼女だが。
それならそれで理由があろう、と質問をする。
「ならば何故お前は生きたい?この島は今こうしている間にも衰退していく一方で救い等ないじゃないか。
お前みたいな子供からどんどん捨てられる島だろうに。辛かったろう?苦しかったろう?悔しかったろう?痛かったろう?」
今迄の子供達は皆揃って同じ事を口にした。
こんな事をされて、こんな所で、こんな惨めな生等、望みもないのに生きていたくない、と。
「今ならば痛みも辛さも全てアタシが取り除いてやるぞ。どうせこんな所で生きていても禄な事等起こらん。
……それでもお前は尚も生を望むのか?」
多少、子供には理解できない言葉も混じってはいただろうが。
凡そアタシの云いたい事は理解できたのだろう、その金髪の子供は口の端だけで笑って見せた。
「っらかろぅ……が…ぃたかろぅが、…んけいねぇ…ぉれ……は、まだ…なにもゃってねぇ……んだ…」
悔しいのは今のこの様だけだ、と魂が語る。
「………お前は……生きたい、のか?」
その言葉に直ぐに返事が返ってくる。
五月蝿い程にその魂が返事をする。
生きたい、生きたい、生きていたい、と……
廃れた街でも、衰退する一方の島でも、心が貧しくなった人々しか居ないこんな場所でも。
それでも生きたい、と……そう、云った…
けれど、幾ら生きたいと願っても。
その子供の魂は抜け掛かっていて。
死神であるアタシから見れば、もう数分ですら持たない事が分かって。
もう喋る気力も残されていないのであろう、その子供はぐったりと横たわるだけで。
最後の最後までその子供は生への執着を捨てずに、生きたい、と願っていて。
何故か、その姿が昔の自分とダブるような気が、…して……
「……良いだろう。お前のその望み、確かに引き受けた」
気紛れだった。
こんな生き地獄でも生きたいと望む酔狂な子供に、何を感じたのかは自分でもよく分からない。
けれどアタシは手の平に力を込めて。
その子供の魂が身体から抜け出そうとするのを阻止、したんだ。
抜け出そうとする魂魄を無理に身体に押し込んで。
それでも既に生きれる機能を持たない身体ではその魂は収まる事が出来ずに戸惑っており。
初めての試みだったけれど。
死神としての知識が脳裏に使うべき呪文を浮かばせてくれて。
左手で魂を押さえ込んで、右手で身体の修復をすべく力を込め始めて。
小さく開く唇からは人には理解できない言語が引っ切り無しに呟かれて。
そして時間が経つに連れて子供の身体に付く傷を癒していき。
痩せ衰えた身体に薄っすらと肉が付いていく。
溜まる一方だった魂の力。
それをこんな風に使えるだなんて自分でも驚きだったが。
それでもこの力が人を助けられる事ができるだなんて。
絶望し、死を選んだ魂の力が捨てられた子の命を救うなんて、何て皮肉なんだろう……
片や命を奪うべく振るわれる手が、その奪うべき魂を喰らわずに現世へと留まらせて救おうだなんて。
この子供が知ったならどうするだろうか、とか。
こんな化け物が今更何を、今頃そんな事をしたって自分がしてきた事実は変わらないのに、とか。
あれだけの数を喰らったのだ、こんな一回だけの善行でどうにかなるとは思っていない。
だからこれは只の気紛れなんだ。
生へと執着するその姿が少しだけ自分に重なったから。
だからちょっとダケ同情しただけの、気紛れな行為。
誰に感謝されようと思った訳でもないし、今更自分の行為を嘆く事だってしない。
だからお前は只、普通に生きろ。
これは気紛れだから、お前は何もしなくてもイイ。
手の平から温かい気を送りながら、その子が普通に生きれるまで。
行く所がなければアタシの家に住めばイイ。
お前が一人で生きていけるまで。
お前がイヤだと云うなら違う島まで責任持って送ってってやる。
だから、……だからそれまではアタシと生きろ。
この助けられた時のパウリーの年は推定6歳前後です。
余り年についての突っ込みは無しの方向でお願いします(懇願
本誌でパウの年が発覚したら設定も微妙に変わってきますので、どうぞご了承くださいませ┏o ペコリーン
そして何よりパウの扱いが酷くてごめんなさいぃ…