あの日、改めて気持ちを確認して
自分の中の絶対を確信して

幾ら彼女が囚人を殺そうとも
幾人殺そうとも、もう関係ない

この島に入る許可を青キジが出していようがどうでもイイ








何年あの人を見続けていたと思っているんじゃ

あの人は誰にも渡さん
ワシのモノじゃ

誰に遠慮する必要があるんじゃ
誰にもやらん

誰にも、だ






















【First encounter】
























あの囚人達が刑を執行された現場を見てからと云うもの。
何処かルッチの様子がオカシイとは感じていたが。

まさか奴がこんな事をしておるとは、な……

ワシの足元には数人の下っ端が転がっていた。

そう、同じ政府に仕え、同じ上司を持ち。
同僚の、ルッチの下に付いている諜報専門の部下達。

その時、自分がしていた表情なんぞ知らん。
あの人が係わった時だけ己が変わってしまうのなんて重々承知じゃ。

それを知っていながら手を出したのはお前の方じゃ。








「なぁ、…そうじゃろう…?ルッチ……」








背後の気配へと向かってそう云い放つ。

あの人の気配を捉えたいと躍起になって鍛えたのだ。
幾ら気配を消すのがCP9一、上手かろうが関係ない。

元の基準が高すぎるのだ。
今迄出会った人の誰よりも高い能力を持つあの人を追いかけたワシには無意味じゃ。

「ワシの執着心を知っていて尚、こんな無意味な事をしたんじゃ。こうなる事くらい分かっておったろうに…」

す、とその姿を現したルッチ。
普段、歩く時にすら殆ど足音を立てずに動く奴が、気配を知られた事に少々憮然とした表情で。

光の加減で表情らしい表情が見えないカクの立ち姿。
けれど、その眼光だけは鋭くルッチを捉えていて。

「……そうだな。…だが俺はあの女の素性を知りたいと思ったからそうしたまでだ」

ぼそり、と呟かれた言葉にぎらり、とカクの目が鋭さを増して。








「あの人に係わるな。知ろうとするな。近付くな。……殺されたいんか…」








酷い怒気を纏ったカクに、ルッチはその眼を細めて。
同僚の、カクのその姿に思う処があるのだろう。それでも彼は口を開くのを止めなかった。

「幾ら調べてもあの女については何一つ分からなかった」
 
これだけ云っても係わろうとするルッチにイラつきを覚えるが。
それでも奴が持つ情報にも幾許かの興味があってか言葉を聞くが。

このワシが調べても何も出て来なかったんじゃ。
無能ではないが、あんな輩共に調べさせて何かが出てくる筈もない。

少しだけ落胆を感じる、が。

けれどこの男の事だ、もしかしたらホンの僅かな何かが出てるかもしれない、と。
睨み付ける視線だけをその儘に、じぃっとそこに佇んだ。

それを確認したルッチは無様に転がる下っ端から伝えられた事実を詳しく口にする。

「名前も、住んでる場所も、親兄弟、縁者に渡る人間関係、現在の潜伏場所、
 全てにおいて、あれだけの人数を投じて調べたにも係わらず何一つ分からなかった。
 この島へ入ってくる唯一の船着場、海列車にもあの女は現れなかった。……カク…」








あの女は何者なんだ……?








「あの手管、絶対に只者ではない。お前も見ただろう、あの死体の切り口を。
 正直、……あの場所に居た時、生きた心地がしなかった」

ルッチの眉間にぐ、っと皺が寄り。
幾許か云うのを躊躇う素振りを見せてから、それでも云わなければならない、と思ったのか。

何処か意を決したように見えたルッチは思いもよらない言葉を発する。

「食った悪魔の実の所為か、ヤケに嗅覚、感覚が鋭くなっていてな。それで気付いたんだが……あの女…」




















…生き物の気配がしなかった……
























コイツは……何を云ってるんじゃ…?








「はっ、馬鹿を云うのも程々にしとけ。生き物じゃなければ一体なんだと云うんじゃ。死人だとでも云うんか」

カクはルッチの放った言葉を鼻で笑い飛ばした。

だってそうだろう。
あの人は確かに動いていて、人間の形をして喋っていたではないか。

それの何処が生き物ではないと云えるのか。

「俺はこんな嘘はつかない。あの女からは確かに生きた匂い、気配がしなかったんだ」

それでも強情に云い続けるルッチに業を煮やしたカクは。

「じゃあ彼女の何処等辺が死人らしいと云うんじゃ!動いて、喋って、笑って、罪人を殺す化け物だとでも云うんか!」

確かにあの人には人らしい気配もなければ、表情が人形染みた処もある。
けれど、あんな寂しそうな表情をする、罪人を手にかけて悲しみ、泣く感情を有する化け物が居る訳ないじゃろう。

「ふざけるのも大概にせい、二度と彼女に係わるな。次は殺すぞ」

酷く冷たい、身も凍るような視線をルッチに浴びせ。
カクは転がる部下達を軽々除けながらその場を去って行った。








その後ろ姿を見送るルッチは一つ溜息を付いて。
あの時の事を思い出す。

自分の目があの姿を捉えた時。
正直、信じられなかった。

確かに其処に存在するにも係わらず、あの女からは生きた気配がしなかった。

未だに気配を殺すのは完璧とは云い難いが、それでも人の気配を察知する分には。
己の食した実のお陰もあるが、絶対の自信がある。

なのに、目の前に居るのに蜃気楼でも見ているようで。

処刑場の空間を支配していた、あの気ですら常人離れしていて。
真さに殺戮者、と云う名の通りだ、と。

そう思ったのに………何故だ?

あんな完璧な能力を持ちながら。
青キジを後ろ盾に持つような女が、何故こんな処であんな仕事をしている。

宝の持ち腐れではないのか?

第一、あの女は殺しに向かない。
手口こそ見事で、戸惑いのなさも文句の付けようが無い。

だけれども、最後に見せたあの笑い声と震える姿。

完璧でありながら、何故あんな風に取り乱す。
誇るべき手腕なのではないのか?

人を殺すのがイヤならそもそも引き受けなければいいだろうに……








あんな風に、まるで泣いているかのように笑うなんて








それを見た時、ルッチは確信したのだ。

これがカクを変えたモノだ、と。








【守るべき存在】を持つ者は誰よりも強くなる。

そう云ったのは何人目の上官だったろうか。

俺達に人を殺す術を教えているクセに。
他者を跪かせる、捻じ伏せる力を与えているクセに。

何を綺麗事を、と思っていたが。

どうしてかカクを見ていると、………否、あの女を見た後からそれが何となく分かった気がして。
折角一級品の腕を持っているにも係わらず、精神は酷く不安定で。

そのアンバランスさが庇護欲でもそそるのか。
ちらり、とフードの陰から見えた女の表情は苦しみに歪んでいて。









魅せられる…

魅せられる、…人とも思っていないかのように命を奪ったあの姿態に
指先一つ、髪の一房の動きにすら目を奪われ

その奪った命に狂いそうになりながらも己を保とうとするあの姿に
苦しそうに歪むあの表情に忘れた筈の感情が揺さぶられて…









カクよ…
確かにお前の云う通り、人を殺しておきながらあんな表情をするような化け物は居ない。

けれど、俺が感じたのは事実なんだ。
野生の感が教えてくれるんだよ。

アレに近付くな、と。
本能が近寄ってはならない、と警告を発するんだ。

表面上どんな風に見えても、アレの本質は変わらない。

俺達は狩られる側なんだ。

本来狩る側の人間である筈なのに。
これだけの力を手にしても尚、そう思える程に……








ルッチは二、三度頭を振って。
浮かんできたあの女の辛そうな、今にも泣き崩れてしまいそうな表情を脳内へと無理矢理押し込んだ。

もし、……もし最初にアレを見付けたのが俺ならば、等と…

馬鹿馬鹿しい。
こんな処で素性の知れぬ女に感けている場合じゃないだろう。

俺達がしなければならないのはこんな事じゃない。
もっと規模の大きい、世界の平和の為なんだから…

あの女の闇を取り除く為にこの力を手に入れた訳じゃないのだから……

シルクハットを目深に被り直し。
ルッチはカクが進んで行ったのと逆方向へと歩き出す。

それはまるでお前とは進む道が違うんだ、とでも云いたそうに…

























何時、気付いたんじゃろう……

切欠は成長した自分の容姿で、確信を得たのはルッチの言葉だった。








あれからまた時は進んで、今年でもう七年目。

普通の人間であれば七年、と云う月日は大きなモノだ。
生まれたばかりの赤ん坊は外を走り回れる子供になり、子供は恋をする大人になり。
大人は皺が増え、髪に白いモノが混じるようになる筈だ。

なのに何でじゃ?
何故あの人は全く変わらんのじゃ?

出会った時こそ子供だった自分が、もう立派に恋ができる年頃になりつつあるのに。








あの人は一向に、何も変わらない。

髪こそ伸びるが顔に皺のひとつも出来なければ、まるで時間が止まったかのように。
容姿においては何一つ変わらない。

本当に何一つ……








ルッチが云っていた事が本当なんじゃろうか。

あの人が生き物ではない、だなんて……








嘘じゃ……そんな事ある訳がない

(だったら何故年をとらない?)

あんな風に泣く、感情を持つ化け物が何処に居る?

(でも二年目に見た、あの、何も映さない闇しか浮かべない眼が…)

酷く懐かしそうに顔を歪めて、儚げに佇んで…

(冷酷な迄に冷静に武器を振るって、その場に居た囚人達を瞬殺する実力が…)

狂ったように笑って、あの場所へと向かって泣きながら祈っていた彼女が……








何で化け物だなんて、生きて動いて泣いて笑って…

あんなに人間らしい、…ワシ等よりもいっそ人間らしい感情を持ち合わせるあの人が……


























『お前なんて人間じゃないっ……!!このっ…化け物がっ!!』








昔、人体の限界を超える力を手に入れたワシに、ろくに顔も覚えてはおらん奴がそう云った。









己の力量の限界を人の所為にした挙句、発した言葉がソレだった。
酷く憎しみの籠もった、けれど怯えの混ざる眼でワシを睨みながら悔しそうにそう云って。

ワシが手に入れたこの力を求めるべく、同じ環境に居た他の奴等でさえその男と同じ眼でワシを見て。
その程度の技量、思考しか持ち合わせてないからこそこの力を手に入れられなかったんじゃろう、と。

大した努力もせず他人を引き摺り落とそうとする大馬鹿者だと、見下して馬鹿にした覚えがあった。









ワシ等が手に入れた力で人を裁く時、そこに人としての感情があってはならない。
そして手に入れた力を思うが儘に使いこなせなくなればワシだとて直ぐに消されるじゃろう。

だからこそ日々の鍛錬を欠かさず行うし、感情を現さないようにもなるし、ソレを殺す術すら覚える。
時には冷徹にもなり、彼女のように殺戮者にもなるのだ。

だが、これはお前達も求めていたんじゃないのか?

ワシ等は其れを求められて此処へ連れて来られたんじゃろう。
自分が役に立たない下っ端である事をワシに八当たるな。

所詮、負け犬の遠吠えと思うとったが、それでも気分が悪くなったのを覚えている。
まぁ、だからこそその科白だけが頭に残っていたのだろうが。

そこで傍、と気付く。
























キーワードは『化け物』。

ヒントは変わらぬ容姿にルッチの言葉。

さぁ、導き出される答えは……?

























泣きながら、あの木に縋るようにして…

毎年一人は確実にその命を奪い取って

意に沿ぐわない殺しを何度も行って

あんなに無表情になるまで、あんな表情をするまで









全ての理由が『人とは違う』、それで片付きはしないだろうか……

誰にも見られないように、真っ黒なフードを頭まですっぽりと被り。
極力、人に見られないように、知られないように、暗闇に紛れてしまうように。
唯一の発着場である場所すら通らずに。









それが……

それが貴女の最大の秘密……なのか?









だから青キジの署名がありながらも、名前が書かれていなかった?
青キジはその事を知っていた?

知っていながら尚、それを許可してしまうのは大将であるあの人でも敵わないからか?
それでも殺戮を繰り返すのは、その行為が貴女に必要だからか?

全ては憶測。

けれど、どれもが確信をついてはいないだろうか。
全ての答えを導き出してはいないだろうか……

バスターコールの権限を持つ、あの青キジですら敵わない。
国、一つですら簡単に破壊してしまうであろうその戦力を持っていても、それでも尚。








あァ……

だからこそ、その孤独。

他者との接触を嫌うその遣り方。

全てを闇から闇へと葬りたいが為に誰にも姿を見せようとしない。








けれどワシには、ワシにだけはその姿を見せてくれて……

否、ワシが勝手にそう思い込んでるだけなのか?








名すら知らず、素性も知らず
何もかもが憶測の域を出ないが

それは多分、大まかには合っていて








どうしたらイイ?

ワシはどうしたらイイんじゃ……?

もしかしたらワシは貴女の傷を抉ってしまうかもしれん。
けれど、この激情をどうやったら収める事ができるんじゃ…








諦めきれる訳がなかろう……

























そして、例年通り此処へとやってきた彼女。

その姿、様子にカクの心は更に乱される。








確かに今年も彼女からは気配がしない。
けれど、此処に居る時だけはその表情を露わにしてくれて。

彼女が何を考えているのかを知り得る事ができる。









貴女が思い悩むソレはワシが思った通りなのか?

一縷の望みを掛けるかのように、カクは其処に佇む彼女を見た。
瞬間、イヤなモノが身体中を駆け巡った。








視界に入った彼女の素顔。
其れが持つ意味合いは『虚無』、だった。








最も陥ってはならないその状態。

鼓動がその動きを速めて、早くどうにかしないと、と云う焦りばかりがカクを急き立てるが。
そもそも言葉ですら交わした事の無い相手にどう接して、どう助けようと云うのか。

彼女が自分の存在を受け入れてくれるのかすら分からないのに。

今迄遂行してきたどの任務よりもカクを惑わし。
今迄簡単にしてきた行動ですらその人の前では出来なくて。

どれ程までに自分があの人に執着しているのが窺い知れるが、今は其れ処じゃない。

早く早く、一刻でも早くあの人を救わなければ……








「………生きるって……虚しいのね…」








発されたその言葉に、本当に『生』に飽きてしまったかのようなその言葉に。
急激に体温が下がっていくような錯覚を覚えて。

心臓が、凍るかと思った……








生きるのが……、虚しい…?
虚しくなってしまう程の時を貴女は独りで過ごしてきたのか?

その生に飽いてしまう程に今の状況がイヤなのか?








だったら……

だったらワシがっ…!








「ねぇ…そう、…思わない?坊や」








発せられた言葉に、その瞬間、全ての思考を奪われる。

誰に向かって云っているんじゃ?

この場所に居るのは貴女とワシだけじゃろう…?

まさか、……まさか…
















やっとココまで話が繋がりました!゚+.(゚uÅ) ホロリ。+.゚
次は【口付け】視点です(´∀`*)ウフフ
そしたらヒロイン番外編→本編かしらんw

頑張って書くわよ〜(* ̄0 ̄)/ オゥッ!!

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