『馬車さん&赤屍さん』
| 「右の手と左の手を合わせたなら、どちらが鳴るのだと思いますか?」 助手席に座った黒衣の死神が、おもむろにそう呟いた。 変なことを聞くものだと思いつつ、横目でそちらを窺う。 真っ直ぐ前を向いた顔は、いつもの薄笑いを浮かべて、フロントガラスの向こうに広がる景色を見つめていた。 「いきなり何ぜよ?」 その問いに対する答えはない。 唐突にそんな質問をぶつけておきながら、こちらが説明を求めれば無視か。 何のきっかけもなしにそんな問い掛けが出てくるわけもなく、おそらく付けっ放しのラジオがその原因だろう。 眠気覚ましにかけているラジオだが、ほとんど聞き流しているため内容は記憶にない。 さして重要な質問でもないだろうが、一応投げ掛けられた言葉について考えてみる。 右手と左手と、どちらが鳴っているわけでもなかろう。 両方揃って初めて音が鳴るのだ。 そこまで考えて、ふと脳裏に奪還屋の二人組が浮かんだ。 それぞれ稀有な能力の持ち主だが、互いが隣にいてこそ、その力は絶大なものとなる。 まさに両方いるからこそ音が鳴るのだ。 あの連中を、羨ましいと思うほど自分は子供ではないが、いいものだとは思う。 自分にも、助手席にいる死神にも、そうした存在はいない。 「どちらが鳴るんでもないぜよ」 「と、言いますと?」 「両方あるから鳴ってる。だが、片手じゃ全く音が鳴らせんというわけでもない」 「……前向きですね」 暫し沈黙した白皙の貌が、少しだけ微笑を刻んだ。 |