『永遠の絆編より前の、蜂vs蝶』
| 属性『僧侶』を名乗っているからには、たまにはそれらしいことをせねばならない。 下々の者たちへ教えを説くのも、一応は仕事だ。 「右手と左手を合わせたなら、どちらが鳴ると思う?」 ずらりと並んだ若者たちに、重々しくそう問い掛けると、疑問の空気が小波のように広がった。 暫し考える時間を与えて、その答えを口に乗せる。 「よいか。右手だけでも左手だけでも音は鳴らん。両方が揃って初めて音が鳴るのだ。そなたらは我ら頭目達にとっての片手にも相当する」 ありがたい説法に、下っ端どもが感動に打ち震える。 涙を流さんばかりに拍手して称える者もいた。 全くもって単純な奴らばかりだ。 卑しい者どもは、ちょっと位の高い人間からこうしたことを言われると、問答無用で感激する。 こうした瞬間は、なかなか心地良い。 先程説いたことに対して、自分がこれっぽっちもそんなことを思っていないだけに、ますます愉快だ。 ここにいる全員が、いずれ裏切られて兜様のエジキになるのだと思うと、口元の笑いを押さえるのに苦労する。 そこに、冷ややかな声が聞こえた。 「蟲には共存共栄の意識などないよ」 おのれ、毒蜂め〜っ!! たまたま通りかかったのだろう、せっかくの高説を台無しにして、頭目筆頭が去って行った。 |