『赤屍さん&卑弥呼』
| 「はい」 卑弥呼から、ぶっきらぼうに差し出された物を見て、赤屍は微かに眉を顰めたようだった。 今回の運び屋の仕事が、予想以上に平穏だったためか、今の赤屍の機嫌はよろしくない。 上品にラッピングされた贈り物を、絵に描いたような無関心さで見下ろす。 「何ですか?」 「言うと思ったわ…」 溜息をつきながら、卑弥呼は手にしたそれを問答無用で赤屍に押し付けた。 「今日はバレンタインデーなの。日頃お世話になってます…って意味」 「お歳暮と同レベルですね」 「今時のバレンタインデーなんてそんなものでしょ?」 「そうした意味合いもあるとは聞きますが」 しげしげと見つめる赤屍に、何となく恥ずかしさを感じる。 余計なことと思いつつ、言葉を加えた。 「言っとくけど既製品だから、私は手を掛けてないわ」 「いただいておきましょう」 意外にも素直にそう述べると、赤屍はそれを丁寧にポケットへ収めた。 「ところで卑弥呼さん。これから1時間ほど付き合っていただくことは可能ですか?」 「何よ?」 「食事でもどうです」 思わぬ台詞に卑弥呼の目が丸くなる。 チョコレートのお礼ということだろうか、あの赤屍からそんな台詞が出るとは思わなかった。 「お返しなら来月でしょ?」 そう答えると、赤屍が穏やかに笑った。 「来月どころか、明日のことさえも、定かではありませんからね」 |