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『蜘蛛母子』

「何なの、このカタログは?」

テーブルの上に重ねられた本を見て、女郎蜘蛛が目を丸くした。

「もうすぐホワイトデーだから、『お返し』の物色をね…」

霧人の説明に、女郎蜘蛛が壁に掛けられたカレンダーに目を向ける。

日にちを確認すると納得するかのように頷いて、向かいに腰掛けた。

「影蜘蛛と飛蜘蛛への『お返し』ね」

そう言いながら、カタログの一冊を手にとり、パラパラと捲り始める。

通販のみ取扱いのカタログは、女性の心をくすぐるような品のオンパレードだ。

女郎蜘蛛はカラフルな写真で埋め尽くされたカタログをしばらく眺めていたが、何を思いついたのか、ふと怪訝な表情をした。

「霧人。ここに送ってもらえるものなの?」

本拠地を地獄谷に移してからは、山奥という環境のため、物を入手するのが難しくなってきている。

食料は自給自足できるし、生活用品もどうにかできるが、贈答用の品となると外の世界に頼らざるを得ない。

女郎蜘蛛の疑問に対して、既に対策は考えてあったらしく、さらりと霧人が答える。

「麓の小さい商店に仲介してもらう。店の主人とはもう話をつけてあるから。……ところで、これとこれ、どっちが良いかな?」

霧人が示したページを覗き込み、女郎蜘蛛は手にしていたカタログをその上に乗せた。

「こっちの方が良いわ」

「……予算オーバーだよ。…………………かなり」

かつて会社役員をしていただけに、霧人の個人的なポケットマネーは十分潤っている。

しかし、今後の収入が見込まれないため、湯水のように使うことには躊躇いがあるらしい。

息子の消極的な反論に、女郎蜘蛛が強い語調で断言した。

「霧人。男はこういう時、ケチっては駄目よ!!」

「……」

もう一度、一般社会に出て会社を興そうかと、本気で考える霧人だった。

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