『馬車さん&赤屍さん』
| 裏の仕事に向かう途中、道の傍らに薄桃の物体を見つけた。 普段なら無視して通り過ぎるところだが、その時は何故か気になって、トラックを停めるとそれを拾いに降りた。 「桜か」 床の間に飾るのに丁度良さそうな桜の枝。 しかし、枝の断面の雑さを見ると、店頭で売られていたものではなく、折られてしまったものらしい。 花泥棒が落としていった、といったところだろうか。 付近には桜の木など見えず、その枝がどこから来たものかは皆目見当がつかなかった。 「風流ですね。どうしたんです?」 仕事のパートナーが、助手席で怪訝な顔をする。 その瞳は、シートの後ろに積んだ桜の枝を見つめていた。 「花見酒でも、と思うちょる」 そう答えると、死神の異名をとる黒衣の男は微かに笑った。 桜の木の下には鬼が棲むなどと聞いたことがあるが、さしずめこんな奴なのだろうか。 「その酒宴、ご一緒してもよろしいですか?」 「おお。構わんぜよ」 |