『不動』
| 「そこの兄さん、花を買っておくれよ」 路地の片隅から、手招きする女がいた。 その手には、この無限城のどこで手に入れたのか、小振りな桜の枝を幾本か抱えている。 こんな場所には不釣合いな花だ。 気紛れに足を止めると、女はいそいそと近寄ってきた。 「買ってくれるのかい?」 花売りのわりには、厚い化粧に派手な服。 そして何より卑しい目つきが、女の本性を物語っている。 この近辺で、花売りとは売春婦の代名詞だ。 「あんた、いい男だから安くしとくよ。楽しませてあげるからさぁ」 お決まりの媚びるような女の台詞に、口元を嘲笑の形に歪める。 顔立ちは若いが、手元を見れば肌に無数の皺が刻まれ、生きてきた年数を如実に表していた。 例え顔は整形や化粧でごまかせても、そうした細かいところまでは気が回らないものだ。 「年増と寝る趣味はねぇ」 「何だってっ!!」 途端に悪態をつき始める女の声が気に入らなくて、左腕を軽く一閃させる。 その刹那、女の放つ雑音は、そこそこ耳に心地良い悲鳴へと変わった。 女の両腕の、肘から先がぽとりと地面に落ちて、夥しい鮮血がその後を追う。 言葉にならない叫びを上げる女を無視して、切断された腕と共に落ちた花を拾い上げた。 「血染めの桜か…。気に入った、買ってやる」 数枚の札を憐れな女の足元に放り、何事もなかったかのように、不動はその場を後にした。 |