『蜘蛛母子』
| 「霧人様っ。GWはどうされるんですか?」 「GWくらいはお休みなんですよね?」 ウキウキしながら飛蜘蛛と影蜘蛛が聞いてきた。 あわよくば、どこかへ連れて行ってもらおうという魂胆が見え見えである。 「すまないが予定が入っている」 簡潔にそう答えると、二人は残念そうな顔をして引き下がった。 予定が入っているのは本当のことだ。 女性からの誘いで、しかも断れない。 もうホテルからレストランから、何から何まで予約済みだ。 巨大テーマパークのチケットを取り出して、霧人は溜息をついた。 シン○レラ城を目の前にして、霧人は超絶美女と腕を組んで歩いていた。 周りから視線が飛んできているようだが、彼らの目に自分たちはどう映っているだろうか。 「ねぇ、霧人」 「何…?」 「いいこと、霧人。これから帰るまでは、私のことを『姉上』もしくは『美隷さん』とお呼びなさい」 「分かってるよ、母…姉上」 「一度でいいから、若い男とごく普通のデートをしてみたかったのよね〜っv」 いつもとは違う無難なワンピースを着て、年頃の女性のようにはしゃぐ母は、普段以上に若々しく綺麗だ。 複雑な思いを抱きつつも、周りから浴びせられる羨望の眼差しには、悪い気がしない。 特に、家族や恋人そっちのけでこっちを見ている野郎どもの、涎を垂らさんばかりの顔を見ていると、優越感さえ覚える。 羨ましいか、ざまぁみろ、と言ってやりたいくらいだ。 「…ま、いっか」 開き直って、母との完璧なデートコースを楽しむことに決めた霧人だった。 |