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『士度×マドカ』


「いつまで経っても降り止まねぇな」

音羽邸の居間から空を見上げて、士度が呟いた。

魔里人の生き残りとして、ありのままの自然を受け入れることを教えられてきたが、やはり梅雨の不快感はどうにも誤魔化せない。

心が浮き立つ春、眩暈がするほど暑い夏、艶やかな秋に清冽な冬。

どれもそれぞれ魅力があると思っているが、すっきりしない梅雨の時季は苦手だ。

「早く梅雨が明けねぇかな」

「私は梅雨も好き」

盲導犬のモーツァルトに引かれて、マドカが士度の隣に立った。

「そうか?」

「雨の音が好きなんです」

マドカが窓ガラスに手をついて、耳をぺたりと触れさせた。

何かを聞き取っているかのような表情は、陶然とした色を浮かべている。

「雨の音は音楽みたい。優しくて、時に激しくて、まるでピアノの調べを思い出すわ。梅雨に降り続く雨は、天才的な音楽家なの…」



その一言で、あっさり梅雨が好きになった士度だった。

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