『銀ちゃん&蛮ちゃん』
| 「…蛮ちゃん。これカビ生えてるよ」 「賞味期限、まだ三日しか過ぎてねぇのになぁ」 宿と移動手段を兼ねる車の中で、銀次と蛮はスーパーの袋を抱えて溜息をついた。 買い溜めした食料を、その袋の中に詰めていたのである。 銀次が尚も袋の中身をごそごそやると、異臭を発する物体が見つかった。 かつてはバナナだったのかもしれない。 黄色いはずのバナナは、真っ黒に変色してぶにぶにしている。 「安いからって買うと、失敗するね」 「…これじゃサルも食わねぇな」 梅雨の湿気のせいで、食い物は傷むのが早い。 冷蔵庫にでも保存できればまだマシなのだが、この狭い我が家では贅沢な望みだった。 「蛮ちゃん。これ何かなぁ?」 銀次が茶色と白の斑模様になった、野球のボールくらいの大きさの物体を摘み上げる。 白い部分だけが嫌にもこもこしているのは、カビがびっしり付着しているからだろう。 「リンゴ…じゃねぇかな?」 「そっかぁ。俺、未知の物体Xかと思ったよ」 「…これじゃサルも捨てるよな」 むしろ猿たちの方が、よっぽど良いものを食べているのかもしれない。 銀次が袋の中身を漁るのを諦め、蛮にひきつった笑顔を見せる。 「蛮ちゃん。食べられそうにない物を除けたら、全部なくなっちゃった」 「全部捨てような、銀次。カップ麺でも買いに行こうぜ」 ただでさえ気が滅入る梅雨の日、ますますテンションの下がる奪還屋だった。 |