『ホンキー・トンク』
| 「あーあ。今年は雨が降っちゃいましたね、先輩」 「うん。これじゃ織姫と彦星は会えないね」 レナと夏実が窓の外を眺めて溜息をついた。 夕暮れの空は厚い雲に覆われて、大粒の雨を落とし続けている。 天の川は氾濫して、恋人たちは引き裂かれたままだ。 ロマンチックな会話を交わしている少女たちを見て、夢のない男どもが現実的な話を始める。 「一年に一回しか会えねーっつったら、普通は浮気の一つや二つするよな」 「一年に一回しか会わないなら、浮気しても全然バレないんだろうね」 蛮と銀次の台詞は、確かに的を射ているだろうが、メルヘンな世界にそれを持ち込むのはどうだろう。 「お前ら、浮気を当然のことのように語るな」 波児が蛮たちを嗜める。 心持ち気分を害していた少女たちにとって、波児の言葉は嬉しいものだった。 レナも夏実も、まだ夢を見ていたい年頃なのである。 しかし、波児の台詞には続きがあった。 「だいたいだな。一年に一回だけだから、お互いの粗とかが見えなくて、却って他の奴に目移りしないんだぞ。相手を心の中で美化できるしな。純心な関係を長続きさせるコツだ」 一番現実的なのは、やはり波児だった。 |