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『ルシファー&雨流部長』


タワーズ・アートの最上階で、ルシファーは窓辺に立ち、空を眺めていた。

夜空には雲一つなく、所々に星が瞬いている。

都会では街の光が邪魔をして、小さな星の輝きなどすっかり見えなくなっているが、辛うじて二等星くらいまでは目にすることができるだろうか。

「雨流部長、今日は七夕だったね」

「は…? はい、そうですね」

背後に控えていた部下が、意外な言葉を投げ掛けられて微かに口篭もる。

誠実で真面目な好青年だが、脈絡もなくそんな話を振られては、咄嗟に気の利いた返事ができないだろう。

「天の恋人たちが年に一度、逢瀬を迎える日だ。君も会いたい人がいるのではないかね?」

「いえ、私は…」

若者なら素直に喜びそうなところだが、控え目に否定される。

浮いた話の聞こえてこない青年だ、謙遜ではなく本当にそうした対象がいないのかもしれない。

「今日はもういい、下がりなさい。後は自由に時間を使いたまえ」

労わるようにそう言うと、瞳に尊敬と親愛の情を滲ませた部下は、丁寧に頭を下げると出て行った。

一人きりでまた空を眺める。

雨が降っていたなら、もう少し心穏やかでいられただろうか。

「ふ…。年に一度きりといえど、愛しい者に会える者が羨ましく思える」

ルシファーは疲れたように呟き、写真入りのロケットを軽く握り締めた。

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