『不動&赤屍さん』
| 室内に雨音が響いていた。 「七夕の物語を知っていますか?」 前触れもない突然の質問に、それに対する答えはなかった。 赤屍は気にしたふうもなく、ゆっくりと続けている。 「織姫と彦星が互いに惹かれあって、愛にかまけて仕事を疎かにしたばかりに、神の御咎めを受けた。しかし、引き裂かれた恋人たちは年に一度だけ会うことを許される…」 子供でも知っている御伽噺だが、赤屍の口から語られると、何やら重々しいように思うのは気のせいだろうか。 「何事も納得できるまで勤めを果たしてからにしろ、という教訓が含まれていると思うのですよ」 「…それで?」 「ですから私は常に仕事に励み、今日という日も、勤勉に仕事を終わらせてきたわけです」 つまり今日も多くの人間を斬り刻んできたというわけか。 こいつと遭遇するとは気の毒な連中だ。 「それなのに雨が降ってしまいました。恋人たちも会えないことですし、何とはなしに、私も会いたいと願う人に会ってはいけないように思うのです」 「それはつまり、俺は『会いたい人』とやらには相当しないわけだな」 「そうなりたいですか?」 「馬鹿話には興味ねぇ」 その言葉をきっかけに、再び殺気が迸る。 赤屍の手から銀光が閃き、不動の左手が深紅の唸りを上げた。 金属が交差する音、流れた衝撃が周囲のものを破壊する。 コンクリートの壁が裂け、屋根が脆くも吹き飛んだ。 途端に激しい雨が二人を襲う。 面倒な奴だ。 ごちゃごちゃ理由をつけてはいるが、ただ単に仕事の過程がつまらなくて、そのフラストレーションをぶつけにきたのだろう。 仕事を終えてそのまま帰れば、誰かが赤屍の苛々の餌食になる。 『会いたいと願う人』とやらは、八つ当たりをするに忍びない人物というわけだ。 この自分勝手で気紛れな死神に、そんな対象がいるとは笑わせる。 しかし、せっかくの機会だ。 日付が変わるまで、帰してなどやらない。 赤屍の思惑に乗らず、都合の良いように遊び倒してやると決めた。 さて、どう主導権を握ったものか。 雨に濡れるしなやかな肢体を前に、不動は獣のように舌舐めずりをした。 |