『ホンキー・トンク』
| 「しくしく…」 「グスン、グスン…」 「ヒック、ヒック…」 その日、いつも賑やかな喫茶店は、やたら湿っぽい空気に満たされていた。 ハンカチやティッシュやタオルを手に、テレビに詰め寄っている三人がその原因だ。 波児が軽く溜息をつく。 「だから見るなっつったのになぁ」 「いいじゃねーか、アニメぐれー見せてやれよ」 波児の溜息を真正面から受ける形になった蛮が、差し出されたコーヒーを手にした。 香り高いコーヒーを啜りながら、テレビに釘付けになっている夏実とレナ、そして銀次を眺めやる。 三人が見ているアニメ番組は、毎年この時期になると、お約束のように放映されるものだ。 戦後の過酷な環境の中、健気に生きる幼い兄妹。 両親を亡くし、住む所を無くし、食べ物にも事欠いて、そんな兄妹を更なる悲劇が襲う。 ラストシーンはハッピーエンドではない。 アニメのタイトルにも出てくる蛍が象徴的で、物悲しさを増していた。 「もう今日は店じまいしちまうか〜」 「あの調子じゃ、お子様たちは使いモンになんねーだろうしな。辛気臭くてしょうがねぇぜ」 いつものように口の悪さを披露しながら、蛮がコーヒーを飲み干して席を立った。 「どこに行くんだ、蛮?」 「気分転換してくるんだよ。お子様に付き合うのは鬱陶しいからよ」 足早に蛮は出て行った。 「…意地っ張りな奴だなぁ」 そこの三人のように、泣きたい時に泣いてしまった方が楽だろうにと思う。 素直に涙する三名と、悪態をついてごまかしながら出て行った一名と、果たしてどちらがより子供だろうか。 |