『馬車&赤屍』
| その日、馬車と赤屍は、依頼人からブツを受け取るべく都心を離れていた。 依頼人はかなり慎重な人物なのか、人目につかない廃村をブツの引渡し場所として指定してきたのである。 指定場所に着く頃には、もうすっかり日が暮れていたが、それでもまだ約束の時間には余裕があった。 田んぼの痕跡を残す空き地の片隅にトラックを停め、馬車がエンジンを切る。 「少し早すぎたか」 「早い分には構いませんよ。あとは待っていればいいわけですしね」 それから数分、座席で寛ぎながら暇を潰す。 「ん…?」 気のせいだろうか、薄暗い中に小さく光が瞬いているように思う。 それも一つや二つではない。 「何じゃ…?」 「蛍…ではありませんか? 珍しいですね」 言われてみれば、火や照明器具とは明らかに違う光が、一定のリズムを保って明滅している。 蛍など、実際に目にしたのは何年ぶりだろう。 今では滅多にお目にかかれない光景を、黙って凝視していると、助手席から闇の声が穏やかに告げた。 「蛍の光は、死者の魂とも言うそうですね」 科学的な事をいえば、蛍の光は異性を誘うシグナルなのだが、古来よりそれを死者の魂に喩える話はある。 いかにも赤屍らしい台詞だと思いつつ、それに対する返事は敢えて避けた。 蛍の光が本当に死者の魂だとするならば、この死神の周囲には数え切れぬほどの蛍が飛び交うことになるだろう。 |