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『十兵衛&花月』


「足元に気をつけろ、花月」

「うん。大丈夫だよ、十兵衛」

夏の夜、大人の目を盗んで二人で家を抜け出した。

女物の浴衣で歩きづらそうにしている花月の手を引き、夜道を急ぐ。

風鳥院家の跡取として、普通の子供のように遊び回ることのできない花月に、ぜひ見せたいものがあった。

十兵衛だけが知っている、期間限定の秘密の場所だ。

「もう少しだ。ここを抜ければすぐだからな」

「楽しみだなぁ。そんなにすごいの?」

「俺は嘘は言わん。ほら…ここだ」

「わ…あっ!!」

星を散りばめたような光景が視界を塞ぐ。

夜空の星は年中変わらぬ輝きを放っているが、地上に現れたこの小さな星たちは、毎年この時期にしか見られない。

「すごいだろう?」

「蛍ってこんなに綺麗なんだね」

そう呟いて瞳をキラキラさせる花月は、蛍の光よりも星の光よりも、ずっと綺麗だと十兵衛は思った。

「ねぇ、十兵衛。蛍ってどうして光るのか知ってる?」

「いや…」

「あれは雄と雌が愛を囁いているんだって」



愛を囁く…。



その言葉に、十兵衛の心臓は跳ね上がり、全身の血が熱くなった。

「いや、花月。俺は…その…そんなつもりで連れてきたわけじゃ…。いやいや、そんな気がないわけじゃないが、しかし俺たちは…。いやでも、もし花月がよければ…いやダメだ。でも…っ、俺は…実はそのっ…」

しどろもどろに意味不明なことを言い出した十兵衛に、花月が首を傾げた。

「…どうしたの、十兵衛?」

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