『銀ちゃん&蛮ちゃん』
| 「あーあ、まだまだ暑いよね〜」 「こう熱帯夜が続くとウンザリするぜ」 暑い季節に、狭い車の中でカンヅメなのは辛い。 冬に比べれば、凍死する心配がない分マシだが、うだるような暑さというのも体に堪える。 「ちょっとだけでいいから、クーラーかけちゃ駄目かな、蛮ちゃん?」 「このくれー我慢しろ」 蛮にそう一蹴されて、銀次が少しだけ拗ねた顔をする。 だが、何を考えついたのか、銀次はゆっくりと助手席から体を起こすと、おもむろにドアを開けた。 「おい、銀次?」 「俺、あっちの公園で寝るよ。外の方がまだしも涼しいし」 「襲われても知らねーぞ」 ここは新宿の一角だ。 いくら金目のものを持っていなくても、安全とは言い難い。 「大丈夫だよ。変な奴がきたら、電撃食らわすし」 そう言って、銀次は出て行った。 数十分後。 「うっぎゃあああぁぁぁああぁぁあぁぁぁ〜っ!!」 絹を引き裂く男の悲鳴、というより雑巾を引き裂くようなみっともない悲鳴が聞こえて、蛮は目を覚ました。 恐怖と苦痛に彩られた叫びを上げながら、若い男が車の前に走り出る。 「たっ、助けてくれぇ〜っ。食われる〜っ!!」 「むにゃむにゃ…。この肉、硬くて美味しくないねぇ、蛮ちゃん」 ガラの悪そうな男の太い腕に、がっぷりと銀次が食い付いていた。 御馳走にありついた夢でも見ているのかもしれない。 その様は、電撃よりも怖かった。 「……」 大事な相棒に、殺人&食人の前科がついては困る。 止めに入るべきなのだろうが、そんなことをしたら今度は自分が食いつかれるかもしれない。 躊躇われる蛮だった。 |