『赤屍さん&卑弥呼』
| 「前から思ってたんだけどさ」 黒衣の長身を見上げて、卑弥呼がそう漏らした。 「何ですか?」 「あんた暑くないわけ?」 毎日続く熱帯夜。 本日は最低気温でも、25℃だ。 「慣れていますから」 汗一つかいていない白い顔が、さらっと答える。 本人は気にならないかもしれないが、この暑い最中、赤屍の格好は見ている方が負担を感じるのだ。 「あっそう」 「しかし…見ていて不快でしたら、今日のところは脱ぎましょうか?」 「そうしてもらえると助かるわ」 卑弥呼の要望に、赤屍が暑苦しい服を脱いでくれた。 帽子と手袋とコート、ネクタイを解いて、シャツのボタンも2番目まで開けてくれる。 脱いだコートなどを小脇に抱えているので、暑苦しい部分は残るが、これで随分涼しい格好になった。 安心すると同時に、普段見たことのない赤屍の姿に、新鮮な気分を覚える。 長身で細身だとは思っていたが、こうして見ると隙のないしなやかさは絶妙だ。 脚も長いし、均整のとれた体つきには溜息が出そうになる。 顔だって悪くはないのだから、そこそこの格好をさせて、そこそこの場所に立たせておけば、女の人たちが騒ぎそうだ。 こんなふうに意識して見たことはなかったが――。 「あんたってさぁ…」 「まだ何か?」 穏やかな口調で紳士的に微笑まれる。 少しだけ脈拍が上がったような気がした。 「な…何でもないわ。早く依頼人のとこ行かなきゃ」 |