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『不動』


苛々した感情そのままに、荒々しく窓を開ける。

「ちっ…。ちっとも涼しくならねぇな」

窓を開けても風が吹き込むでもなく、ぬるい空気が僅かに動くばかりだ。

無限城の中では、特別な場所を除いて冷房などという贅沢なものはない。

その『特別』に分類されるであろう場所は、大概重要な機能を持つ空間で、そう簡単に所在が知れるような類のものではなかった。

強いて知っている場所を上げるとすれば、新生VOLTSの少年王が管理するコンピュータルームくらいのものだろう。

探してみれば、冷房を所持している者もいるだろうが、そこに無理やり押し掛けるにしても、どうやって個人を特定したものか。

そもそもこの日照りの中を出歩くのが不快でならない。

「…ん?」

せめて日が落ちてから行動しようと思ったところに、不穏な物音が聞こえてきた。

どうやら窓のすぐ下らしい。

鬱陶しいと思いつつ窓から見下ろしてみると、若い連中ばかりが十数人。

敵対しているグループ同士だろうか、そいつらは武器を持つでもなく、不動から見れば子供騙しとしか思えない低レベルな抗争を繰り広げ始めた。

こんな時に、こんな場所で、こんな下らない喧嘩をやらかすとはいい度胸だ。

爆発寸前の感情を抱えつつ、不動は窓から身を乗り出した。



「憂さ晴らしにもなりゃしねぇ…」



およそ十秒後、無惨な死体が散らばる中で不動は低く呟いた。

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