『馬車さん&赤屍さん』
| 「今回の荷物はこれですか」 「そうだな」 コンテナの中身を見て、赤屍が確認するように呟き、馬車がどことなく嫌そうに応じた。 運び屋の二人が請け負った今回の仕事は、貴重な芸術品を展示会場まで運ぶというものである。 資産家の所有物のため念には念を入れてということで、凄腕と評判のこの二人が選ばれたのだ。 依頼人は重々しくこう伝えたものだった。 『筆舌に尽くしがたいほどの世界最高の芸術作品で、欲しがる者は星の数。これを機に奪おうとする輩もたくさんいるだろう』 その言葉を思い出したのだろう、赤屍が呟く。 「…これが芸術というものなのですか?」 「聞くな」 「こんなものでも欲しがる人がいるんですねぇ。世の中まだまだ知らないことばかりですよ」 馬車も同感だった。 絵の具をただ塗りたくったような絵画は、どう見ても非常に稚拙で、どこが良いやらさっぱり分からない。 抽象画、ニューアートといえば聞こえが良いのかもしれないが、それにしてもあまりな作品だろう。 「私でも描けそうですね」 「…絵なんぞ描かんでも、お前はとっくに芸術家じゃき」 馬車の台詞に、意味が分からないと言いたげな顔で、赤屍が小首を傾げる。 他人の命をもぎ取る時の、あまりに優雅なその姿は、まさに芸術と言っていいだろう。 誰が目にしても、思わず見惚れるに違いない。 殺戮への嫌悪感も忘れ、この世ならぬ者が血飛沫の中を舞う姿に心を奪われる――。 しかし、今回の仕事に限って言えば、赤屍が芸術家としての腕を振るう場面はなさそうだ。 それだけ下手な絵だったのである。 |