『天子峰さん&チビ銀ちゃん』
| 「何見てんだ、銀次?」 「拾ったんだ。何か綺麗なのがたくさん載ってるよ」 楽しそうな笑顔を浮かべて、銀次が見入っているのは一冊の本だった。 どこで拾ってきたのか、かなりぶ厚い本には、各国の美術品や建築物の写真がたくさん載っている。 写真はともかく、文字が全て英文なあたり、この無限城に紛れて込んできた外国人の持ち物だったのだろうか。 「英語じゃ読めねーだろ、銀次」 「写真見てるだけでも、けっこー楽しいよ」 そういうものかと思いつつ、銀次の傍らに腰を下ろした。 「ねー、これ何?」 「ああ、そいつはミケランジェロのピエタだ。キリストの亡骸を抱いた聖母マリアさ」 「ミケ…何? もう一回言って」 「ま、覚えなくてもいいって」 苦笑いをしながら、銀次は次のページを捲っている。 そんな銀次を見ていて、つい悪戯心が湧いた。 「なぁ、銀次。この彫刻を知ってるか?」 「綺麗な女の人だね。でも腕がないよ?」 「これはな、“自由の女神”だ。でもってこっちは知ってるか?」 「これも女の人だね。手にソフトクリームみたいなの持ってるよ?」 「これはな、“ミロのビーナス”だ。どっちも超有名なんだぞ」 銀次が感心した表情で見上げてくる。 笑いを押さえるのに一苦労だ。 写真の横には解説文がついているのだが、なにせ英文である。 銀次に読めるはずはない。 天子峰の嘘は、当分ばれることはないだろう。 「すごいや、何でも知ってるんだね」 「まぁな、何でも聞け」 銀次が真実を知らされるのは、数年後、GBとしてクレイマンから『女神の腕』の奪還依頼を請け負った時である。 |